72. 秘剣「昇龍」

山中鹿之介は、神宮寺に秘剣「昇龍」を教え込んでいた。

神宮寺は板の間に素足で正座をして「瞑想」をしている。


(痛い、足が痛い!)


ハッキリ言って、若い現代人である神宮寺に正座の「瞑想」はキツイ……。

山中鹿之介は、正座を苦手とする神宮寺のために椅子を用意させた。


「神宮寺君、こう念じて!」


「物質は無い、物質は無い、物質は無い———」

「肉体は無い、肉体は無い、肉体は無い———」

「心も無い、心も無い、心も無い——————」


「神のみ独在」と———。


「何度も何度も繰り返して!」

「このまま、一時間瞑想して!」


山中鹿之介は、神宮寺を鍛え始めた。

まずは、心のコントロールである。

何ごとにも動じない強い「精神力」を養う!

神宮寺も瞑想中、あらゆる存在を消し始めた。


「そうそう、その調子!その調子!」


と山中鹿之介。


すべてはまったく無くなった。

消し去ったのである。


後は「神のみ独在」である。

これが思うようにいかない。


つまり、実は「世界が光輝いている」ということを理解していないからだ。


そうなのだ!こればかりは体得しなければならない!

という訳で「滝行」へと方向転換である。


生きるか死ぬかの「滝行」に神宮寺は挑んだ。

普段の晴天の日では無く、わざわざ雨天又は、雨天後の水かさの増した日にばかり、挑戦した。


「ゴ———」と、凄い水量だった!


震え上がる神宮寺。


「阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提、阿耨多羅三藐三菩提———」


手印を組み叫び始めた。


「滝つぼへの転落は、一回や二回ではなかった!」


その度に「生と死の回転」が何度も起きる。

もうダメだと思った瞬間、何か「生き物を掴む」

ことに成功した!


「山中鹿之介が見ている!」


ハードな「滝行」が終わったら、再び椅子に座っての「瞑想」である。


(確かに、苦しい、ただ苦しいだけなのか?そんなはずはない、もう少し我慢してみよう)


神宮寺が気付いているのか、いないのかは分からないが、心が段々と浄化されている。


やがて、まっすぐな「純な心」が発露し始めた。

そうなのだ!素直になるのだ。

神宮寺の顔つきまで、一変している。

戦い続きで、荒んだ顔つきに「優しさ」が戻ったのだ。


(行ける、このままならいける!)


山中鹿之介はそう思った。


「神のみ独在!」


神宮寺が瞑想を終え、ゆっくりまぶたを開くと、一面、あらゆる存在が銀色に輝いている———。


(そうなのだ!世界は美しい!調和している!)


最初の段階の「悟り」を開けたのである。

これからは、剣術の番だった。


秘剣「昇龍」であるが。

何が「秘剣」だが分からないが、つまり相手の「剣の軌道」を読み、その「剣の軌道」に合わせて、自分の剣をカウンターのように、相手に決めるのだ!


つまり相手の「剣の軌道」と自分の「剣の軌道」、それが作り出す、空気の切れ目に鋭く剣を突き込むのである。

空気と空気の切れ目、というか、出来上がる「真空の間」そこに剣を一瞬で突きこむ。

これが、秘剣「昇龍」なのである。


神宮寺は、マダマダだった。

スピードなのである。

わざわざ、重い木刀を持って素振りをする。

神宮寺の両腕は、立ちどころに太くなった!


瞑想、滝行、重い木刀での素振りが日々のトレーニングだった。









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