68. ソハヤノツルキ

雄一は苦悩している。

常に枕元においているソハヤノツルキのせいだ!


毎晩毎夜、お前が「天下」を取るのだ。

「天下」に号令をかけるのはお前しかいない。

はやく「天下」を狙え!

などと、剣が誘惑してくるのだ。


だんだん、自分の気持ちが、

「私で天下をとれるかもしれない……」

「もしかしたら、いけるかもしれない……」

そんな気がし始めたのだ。


仲間の中の自分。

仲間の一人だ!ということ。

仲間の一人から、飛びでることは「死」を意味するかもしれず、極めて危険。


たとえそうであってもやってみたい!


「天下を取りたい!」


「天下」に号令をかけたいのだ!

そんな気持ちが心の中にわずかに芽生え始めた。


そして、愛する涼子のこと。

涼子の幸せとは何なのだろうか?

彼女のために、できることは何か?


しかし、「天下」をとるには、黒田の存在が邪魔なのだ。

あの「大関東」の異名をもつ黒田のことだ。

確かに、今では雄一は「大戦士長」には満場一致でなった。

しかし、黒田はかなり前から「大戦士長」である。

雄一の「人間的」なジェラシィーの気持ちが働く。

ただの「鬼族」の族長ではないか……。


自分に流れる「将軍家」の血が騒ぐ。


そうなのだ!


雄一には、大昔の「王家」つまり遠縁ではあるが、将軍家

「徳川」の血が流れている。

実は「徳川」を祖に持つ日本人は多い。

なぜか?


第11代将軍、「徳川家斉」のせいなのだ!

16人の妻妾を持ち、分かるだけで、53人の子供がいたのだ!

本当はもっといたかもしれない……。

江戸の町人から「オットセイ将軍」と揶揄された。

実際のところ、「オットセイの陰茎」の粉末を毎日飲んでいたのであるから言われても仕方がない。


そのせいなのだ!

ソハヤノツルキに気にいられたのは、そういう理由もあるのである。


ソハヤノツルキは、征夷大将軍、坂上田村麻呂が持っていた「ソハヤ」の写しであり、徳川約260年間の一種の

「守り神」的な存在なのだ。

写したのは、神宮寺の持つ大典太光世の刀工、光世である。

久能山、日光東照宮に納められ常に刀の先を、未だに不穏な西国に向けられていた。


何が言いたいのか?

つまり、雄一の持つソハヤノツルキは坂上田村麻呂の佩刀していた本物の可能性が高く、「ソハヤ」であるかもしれない。

平安時代の作か……。


何はともあれ、天神様の御神体だった小烏丸(こがらすまる)

と並んで、古い刀であることは間違いないのだ!


正しく、征夷大将軍の刀なのである。


しかし、雄一には強い理性があり、まだまだ自分を律して、行動できたが

この先、どうなるかはまったく分からなかった……。





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