51. 唯一の過去(2)

その男は自分のことを大悟して「仏陀」となったという。


その男は、新興宗教の開祖であり、著作物も多く、

今から、30年位前、とても流行していた!


何故か、雄一も「病気が治る」というふれこみを信じてしまったのだ。

智子の施した、マインドコントロールは強力なものであり、


「そうなのだ!」


「言葉の力」を上手く使うのだ!


まだ、精神的に未熟な20代前半の雄一を「強迫性障害」まで追い込んだのだ。


その道のプロである。


ふと、思うのだが「仏陀」とは悟りを開いた人間の総称で、

「釈迦」一人のことではない。

「般若心経」にも書いてあるのだが「悟り」を開いた人間は「釈迦」以前に三人いたのだ。


ようするに、「仏陀」を僭称する男が、自分は「釈迦」の生まれ変わりと言い始めた。


「私を信じなければ、救われないと!」


つい盲目的に信じてしまう若い、雄一。


若いのだ!若すぎるのだ!


盲目的になる雄一。

多額のお金をお布施として納めさせられた。

あいも変わらず「確認行為」「洗浄強迫」が続く……。


ようやく「意味が無い」と気付き脱会した。


それでも、勧誘の電話がかかってくる。

なかなか、辞めさせてくれない。


そうなのだ!

自分を「神の化身」「仏の生まれ変わり」と称する人間が

一番信用できないのだ!


つまり、雄一は神とは「普遍的」なもので、実は「世界は光輝いている」ということを知っていたのだ。


「危ないところだった!」


あらゆる物に神が宿り、


「十方世界、ことごとく神なのだ!」


それを、その教祖は言わず、ただ自分を信じなければ、

「地獄」に落ちると説いたのだ。


「地獄」そんなものはあるのか?

徐々に懐疑的となっていく雄一。

「極楽」もなければ「地獄」も無い!

というのが雄一の考え方だった。


ただ、強いて言えば「因果の法則」のみは、

存在していると考えた。


つまり「悪いこと」をすれば「悪い結果」が待っている。

ということだ。

「良いこと」をしなければならない!

そして、「徳」を積むのだ!


まずは「両親に対する感謝」である。どんな毒親でも!

その「感謝」の念は、神の「救いの念波」に共鳴するはずである。


「自然に対する感謝」「食べ物に対する感謝」。

あらゆる人、物、事に感謝するのだ!

さすれば、必ず「幸福」になれる!

そのことを知らねばならない。


その「釈迦」の生まれ変わりを名乗る男から、

一言も「感謝」という言葉を聞いたことがないのだ!


教祖の実の息子は、そんな父親に嫌気が指し、実家から飛び出し、

やりたいように好きに暮らしている......。




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