12. 栄一

栄一は、「糖尿病」の長患いに苦しんでいた。


自分の太鼓腹によく手を当て、丁寧にさすってやる。

また、食べ過ぎたのである!

腹部に打つ、「インスリン注射」を今日も忘れてしまった。

血液がドロドロしている。


「糖尿病」を甘く見てしまったのだ。

ヘモグロビンHbA1cが18以上ある。


当然のごとく「合併症」が始まった。

「心臓」の血管にコレステロールが、タップリとへばりついているのだ!

このままでは、「心臓」に負担がかかる!

つまり、何が言いたいかと言うと「変死」または「突然死」が、待っているかもしれないのだ!


(何とかしなければならない)


栄一は、生来「血圧」が高いのだ。

つまり、生まれつき「血糖値」も高いのだ。

これは、「遺伝」であって、本人の責任だけの問題では、

なかったのである。

今日も、栄一は、ボンヤリとポーとしてテレビを見ている。


一瞬、鏡が輝いたように思えた。

部屋の中に、何かがいるように思えた。

栄一は、それが、「人食いドラゴン」だと全く気付かない。


中年の「オッサン」である栄一は、「血糖値」が上がり、

再び、「ポー」としている。

鏡の中にいる「ドラゴン」の存在に気が回らないのだ。


「飢えていた!とにかく、飢えているのだ!」

人間のトロッとした「脳みそ」、

脂肪のタップリと乗った、「突き出した腹部の肉」


「最高だ!」


何故、栄一を狙ったのか。

実は栄一の父親は、「龍の一族」の出身であり、

いちおうは、「戦士」だったからだ。

栄一が「覚醒」する前に殺してしまおうというわけだ。


敵側である「ドラゴン」にとっては、「一石二鳥」なのである。

鏡の中に隠れている。

ソーット、鏡の中から気付かれないように背後から手を伸ばす。

栄一は相変わらず、いくつもいくつもマヨネーズを絡めて「鶏のから揚げ」を

頬張っている。

さらに、コーラを欠かさない!


運命の瞬間が来た!

テーブルに向かって、ひたすら口を動かしている栄一。

背後から、鏡の中から、伸ばしている手は栄一の頭をガッチリとスッポリと掴んだ!

ただちに、口もとに運んだ。


頭蓋骨ごと、


「食す!」


バリバリと頭骨ごと食い荒らした。

栄一の体がケイレンを起こしている。

頭の無い、体がバタバタとしている。

一種の「機械人形」のようだった。


今度は、ロースのような腹部を、


「食す!」


期待を裏切ら無い。

ジューシーな腹部だった!

首から上の無い、腹部をえぐられている死体が転がっていた。


栄一は「真の覚醒」をする前に、ただの人間として食われたのである。

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