第36話 その辺の漁師、ドラゴンブレスを包丁で切断する

「くはは。ようやく竜界から人間界に来ることができたぞ。やっかいな結界に難儀したが、こちら側からドラゴンを呼ぶ意思を感じた。おかげで結界に穴を開けることができたぞ。自らドラゴンを呼ぶとは、破滅願望でもあるのか? 望み通りこの一帯を焼き払い、ドラゴンが人間界を支配するための足がかりにしてくれよう!」


〝喋った!〟

〝語尾に『にゃ』がついてないからウミネコの血は混ざってないな〟

〝メッチャ設定の解説してくれる奴〟

〝色々質問したら答えてくれそうじゃね?〟

〝拓斗さん、質問攻めにしなよ〟


「じゃあ質問してみますね。……お前たちドラゴンは竜界という世界から来ているのか? その目的は人間界の支配なのか? そんな話、聞いたこともないぞ」


「くくく。今まで言語を話せぬ低級のドラゴンとのみ遭遇していたのだろう。我はドラゴンの中のドラゴン。真竜なり。我ら真竜は、新たな竜王を選ぶための戦いで忙しく、人間界などに構っている暇がなかったのだ。しかし、これからは違うぞ! 新たな竜王のもとに、人間界に本格的に侵攻してくれる! 我がまず先陣を切るのだ!」


「なるほど。だが結界とやらに阻まれているようだな。結界とはなんだ?」


「ふん。結界に関しては、貴様ら人間のほうが詳しいのではないのか? ほんの十数年前まで結界などなかった。真竜が抗争をしている隙に、竜界と人間界の狭間に結界を作ったのだろう?」


「俺は知らないけど。そっちも結界に詳しくないってのは理解したよ。それで、ドラゴンを呼ぶ意思があったから結界に穴を開けられたってのは?」


「そのままの意味だ。竜界側からの力だけで結界を突破するのは難しい。しかし人間界側からも力を加えれば、我一人分くらいの穴を穿つことは容易である。意思は力となる。ドラゴンを呼ぶ、強力な意思を感じたぞ」


「強力な意思……そんなの誰が……あ」


〝拓斗さん、メッチャ呼んでましたよw〟

〝大声ってか絶叫でドラゴン呼んでたな〟

〝じゃあこの状況は拓斗さんのせいですね〟

〝けど拓斗さんがいなくても、年に一回くらいはドラゴン出てたんでしょ? 喋れない低級のやつ〟

〝まったくドラゴンが出ないと龍飛崎って地名が詐欺になるし。ドラゴン肉を店で出せないし。いつもだと退治するの面倒だけど年一くらいは来て欲しいなぁっていう地元民の意思がそうさせたとか〟

〝草〟

〝需要と供給の一致〟

〝年一回くらいだとドラゴン肉にほどよい珍味感が出て丁度いいかもね〟


「ね、ねえ、拓斗さん。いくらなんでも、あのドラゴン、大きすぎない? ウルトラマンに出てきそうなサイズだけど……ウルトラ警備隊とか読んだほうがよくない?」


「なに言ってるんですか明日香さん。ウルトラ警備隊が架空の組織なことくらい、異世界から来た私だって知ってますよ。ここはやはり円谷プロダクションに直に連絡しないと!」


〝そこは自衛隊だろ!〟

〝円谷プロだって本物の怪獣は専門外でしょ〟

〝しかしアミーリアたん、順調に地球に詳しくなってますな〟

〝知識が偏ってる気がする〟

〝それは多分シルヴァナさんのせいw〟


「こいつぁ確かにデカいぜ。俺は龍飛崎で生まれ育ったが、今まで見た中で一番の大物かもしれねぇ。さすがにサシの勝負は無理か……俺はその辺の連中を集めてくるから、あんたらは逃げな!」


〝漁師のおじさん、みんなに避難を呼びかけるんじゃなくて集めるのかよ〟

〝こりゃ早くしないと拓斗さんのトラウマを払拭できないぞ〟

〝漁師たちがドラゴンに襲い掛かる前に急ぐんだ!〟


「くく、黙って行かせるわけがなかろう。死ねっ!」


〝ドラゴンが口から火の玉を出した!〟

〝攻撃魔法のファイヤーボールに似てる〟

〝規模が違うよ規模が〟

〝そして漁師のおじさんがファイヤーボールを包丁で真っ二つにしたぁぁぁっ!〟


「なに!? 我のブレスを切り裂くとは、ただの短剣ではなく、強力な魔法剣のようだな。あの男も、さぞ名の知れた剣士なのだろう……」


「そ、そうなの……?」


「うーん、私が見る限り、ただの包丁ですけど……」


「ただの包丁だよ。漁師ってのは戦闘力が高くないと務まらないから。青森県の漁師なら、誰でもあのくらいはできると思う」


〝青森県民そのものが戦闘力高くないと務まらないのでは?〟

〝その中でも漁師はヤベェんだろ〟

〝おじさんが飛び込んだ建物、漁業組合って書いてる〟

〝組合の連絡網で漁師たちを集めてドラゴンをボコボコにするんだな〟

〝結界って龍飛崎の漁師からドラゴンを保護するためにあるんじゃ……〟

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