第35話 津軽鉄道列車砲冬景色の石碑
「ご期待に応えられず申し訳ありません。まさか龍飛崎のドラゴンがそんなことになっていたとは知らず……エサ不足とかでしょうか」
〝そんなガチめに謝罪されるとは思わなかった〟
〝ドラゴンモドキで十分ドラゴン感じたからええで〟
「……実はドラゴンがいないと聞いて、ちょっとホッとしたんですよね。やっぱり子供の頃に殺されかけた記憶が残ってて。今なら勝てると分かってても怖い。だからこそ戦って、勝って、トラウマを克服したかったんだけど」
〝切実〟
〝そうか。拓斗さんはドラゴンと因縁があったんだっけ〟
〝しばらく滞在してドラゴンが出るのを待ったら?〟
「……まあ、同じ青森県だし。龍飛崎に来る機会はこれからもあるんで、そのうちドラゴンに会えるでしょう。今日は普通に観光してから家に帰ります。というわけで、龍飛崎の定番スポットを紹介します。津軽海峡冬景色の歌詞が刻まれた石碑です」
〝立派な石碑〟
〝割と金かかってるな〟
「なんと、このボタンを押すとスピーカーから津軽海峡冬景色が流れるんですよ。ポチっとな」
〝なんか始まったw〟
〝マジで金かかってるな〟
〝スピーカー搭載した石碑とか斬新〟
〝旅行中に急に津軽海峡冬景色を聞きたくなったときに安心できる観光地だ〟
〝そりゃ津軽海峡を眺めてたら津軽海峡冬景色を聞きたくなるもんな。配慮が行き届いてる〟
「ちょ、なんかツボったんだけど。ごめん、笑い止まんない。ボタン押すと石碑から演歌が流れるって……ぷぷっ」
「よく分かりませんけど、明日香さんが楽しそうなので私も楽しい気分になります」
「で、隣の石碑は津軽鉄道列車砲冬景色の石碑。こっちもボタンを押すと歌が流れる」
「待って! 津軽鉄道列車砲冬景色ってなによ!?」
〝マジでなによ〟
〝リアルに「は?」って声が出た〟
〝列車砲って? レールガンみたいに電気の力で撃つやつ?〟
〝違う。列車じゃないと運べない馬鹿でかい大砲〟
〝一番大きいのは口径八十センチ〟
〝八十センチって俺の脚より長いじゃん〟
〝八十センチは砲弾の長さじゃなくて幅だぞ。長さは三メートル六十センチ〟
〝草〟
「あれ? リスナーも津軽鉄道列車砲冬景色を知らないの? ある吹雪の日、町を襲おうとしたドラゴンを津軽鉄道が迎撃する様子を歌にしたやつ。名曲なんだけど……」
〝タイトルさえ聞いたこともないよ!〟
〝そんなん青森県民しか知らない〟
「マジか……悲しい。りんご娘の『彼の軽トラに乗って』くらい有名だと思ってた」
「ごめん、拓斗さん。私、その曲も知らない……」
「え!?」
〝また絶妙にマイナーなの持ってきたな〟
〝青森県民だからじゃなくて拓斗さんがメジャーとマイナーの区別ついてないだけじゃね?〟
〝吉幾三くらい有名じゃないとさぁ〟
「……吉幾三ってレーザーディスクの歌の人だっけ」
〝なんでそこはうろ覚えなんだよ!〟
〝青森県出身の超有名歌手だろうが!〟
〝津軽鉄道列車砲冬景色なんて訳分からん歌の前に吉幾三を聞きなさい!〟
「……明日香さんは吉幾三を知ってる?」
「知ってるけど」
「アミーリアさんは……」
〝異世界人に助けを求めるなよ〟
〝そこで同意を得られて嬉しいか?〟
「はい、知ってます。この前、シルヴァナさんに教えてもらいました」
〝アミーリアたんでも知ってるw〟
〝おい拓斗。正座しろよ〟
〝さかしげにに青森県を紹介してるくせに本当はなんにも知らねーのな〟
「つ、次は日本一狭い国道を紹介します。こちらです」
〝逃げた〟
〝国道どれよ。ただ石畳の階段があるだけだが〟
「この石畳の階段が国道だよ」
〝いや階段は階段だろ〟
〝誤魔化すにしてももっとマシな嘘をですね〟
〝拓斗さんがなにかの標識を指さしてる〟
〝国道339って書いてるな〟
〝え、この階段が国道339号なの?〟
〝二人並んだら埋まってしまうような狭い階段が!?〟
〝なぜ!?〟
「なぜこれが国道に指定されてるのかは俺も知らないけど。唯一の階段国道らしいです。これを下っていくと海に出ます」
〝海に出ますって、岬だから周り全部海じゃねーか!〟
「そうなんだけど、とにかく海の近くに出るの。で、そこに帯島って小さな島があるんですよ。本州と橋で繋がってて、何十メートルかしか離れてない感じの島なんですけど。そこに古い定食屋があるんです。小学校の遠足で見かけて、妙に気になって。けど遠足ってお弁当を食べるから、その店には入らなかったんですよね。いい機会なので、そこで海の幸を食べましょう」
「あ、それいい! 私、海鮮丼食べたーい」
「海の幸ですか。塔にいた頃はあまり食べる機会がなかったので楽しみです」
〝俺も刺身食いたい。で、日本酒をグイッと〟
〝ウニ! ウニ!〟
〝港町ってやたら海鮮丼が安いよな。東京で食うのが馬鹿らしくなる〟
〝にしても階段長いな〟
〝そりゃ国道だからな。短かったら変だろ〟
〝階段が国道なのが変なんですが〟
〝山の中を下ってたと思ったら、いつの間にか左右が民家だ〟
〝人んちの庭を通ってる気分〟
〝マジで国道???〟
〝国道の手すりに布団干してらw〟
〝唐突に巨大スライムが飛び出してきた!〟
〝そして拓斗さんが瞬殺する〟
〝なんだいつもの青森県か〟
「ふう、やっと下りきった。通るのは小学生以来だけど、大人になっても長い階段だった。二人とも大丈夫?」
「な、なんかダンジョンより疲れたかも……何回もモンスターと遭遇したし……いや、拓斗さんしか戦ってないんだけど。精神的に疲れる……」
「分かります。でも、そのうち慣れますよ。青森県はスライムもゴブリンもやたら強いですけど、頑張れば倒せるようになりますし、倒せなくてもタクトさんがなんとかしてくれるので」
「いつも俺がそばにいるとも限らないから。明日香さんも青森のモンスターとそれなりに戦えるようにならなきゃね。それはそれとして、あれが帯島だ……あれ? 食堂が……ない? 跡形もない!?」
〝おやおや?〟
〝場所間違えたんじゃね?〟
「いや、そんなはずは……あそこに漁師さんがいるんで聞いてみますね。すいませーん! 帯島に食堂があったと思うんですけど、知りませんか?」
「ああ、あれね。何年か前に潰れちゃったよ」
「つ、潰れたんですか……」
〝辺鄙な場所だからな〟
〝龍飛崎は有名だけど瘴気のせいで県外の観光客が行けないもんなぁ〟
「ドラゴンに踏み潰されちゃったんだよ」
〝物理攻撃!〟
〝潰れたってそういう意味かw〟
〝他県では考えられない理由ですね〟
「そんな……あそこで食べるのが、小学生の頃からの夢だったのに……許さんぞドラゴン! うおおおおっ、出てこぉぉぉぉい!」
〝拓斗さんマジギレ〟
〝食べ物の恨みは恐ろしい〟
〝あれ? 帯島の上のほう、なんか光ってね?〟
〝異世界に行くときのポータルに似てるような〟
「確かにポータルの魔法陣にそっくりな模様が空中に出現した……なんだ?」
「似てるけど大きさが違うんじゃない? 新宿ダンジョンの底にあったのって、せいぜい直系三メートルくらいでしょ? アミーリアさんが作ったのだってそんな感じだったし。でも……あれはその十倍くらいありそうだけど……?」
「大きさもそうですけど、術式も違います。世界を移動するためのポータルなのは間違いありません。しかし、私がいた世界とも違う異世界に繋がっているような……」
〝アミーリアたんがいた世界とも違う……?〟
〝なんか急にヤバげな気配がしてきたな〟
〝魔法陣からなんか出てきた!〟
〝デカい!〟
〝ドラゴンじゃね?〟
〝でっかいタッピドラゴンウミネコモドキではなく?〟
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます