第27話 青森県は桃鉄で優遇されている?

「はい。ここが俺たちの部屋です。さすがダブルベッドは大きいですね。アミーリアさん、あれを独り占めしてください。俺はソファーで……あれ? ソファーがない?」


〝そりゃ、高級ホテルのスイートルームならともかく、ビジネスホテルにソファーはないだろw〟

〝だよな。青森県は特別なのかと思ったわ〟


「……言われてみると確かに。じゃあ俺は床で寝る」


「え! それはさすがに……タクトさんもベッドに寝てください。私は気にしませんよ」


「いや……けれどアミーリアさんと一緒に寝るとか、俺が緊張するし……」


「宿代を払ってくれた人を床に寝かせて、自分だけベッドで寝るほど私は厚かましくないので! 私の気持ちを考えてください!」


「それは確かに……それじゃあ、ベッドの隅っこで寝るよ。できるだけアミーリアさんの邪魔をしないように気をつける」


「邪魔だなんて、そんな。むしろ私のほうがタクトさんを寝かせないかも……うふふ」


〝キタアアアアアア〟

〝肉食女子の笑み〟

〝むしろ魔女の本領〟

〝三百年熟成された乙女がついに牙を剥く〟

〝タクトォ! 一晩中配信切るなよ! 流しっぱなしにしろ!〟


「え。俺らが寝てるところ配信しても仕方ないし。寝言とか聞かれたら恥ずかしいからやだよ」


〝そこをなんとか〟

〝映像だけでも〟

〝いや待て。やってるとこを本当に流したら完全に垢バンくらうぞ〟

〝なら音声だけでも……〟

〝それでもアウトだろ〟

〝だったら録画して、あとで海外の動画サイトに投稿だ!〟

〝それだ!〟


「なにがどう『それ』なんだ? 海外の動画サイトとか知らんし……つーか、俺が配信に使ってるこのサイトも、本社はアメリカだろ?」


〝そういう細かいことはどうでもいい〟

〝いいから一晩中録画しておけ〟

〝拓斗さん的にも一生の思い出になるから〟

〝あとで二人で見返すときっと興奮しますよ〟


「わけが分からん。そんなことより、コンビニでカップ麺とスナック菓子を買ってきたんだ。普段食べてるものでも、家の外で食べると新鮮に感じるじゃん? 今夜は宴だぜ!」


〝分かる〟

〝ビジネスホテルで飲むビールの美味さは異常〟


「ビールかぁ。けど俺、十八歳だからなぁ……アミーリアさん、俺が二十歳になったら、一緒にどっかのビジネスホテルに泊まって、一緒にビールを飲まない? 俺が大人の階段を上るのを手伝ってくれ」


「大人の階段! は、はい! 喜んで! 私がタクトさんを大人にしちゃいます!」


「はは。ありがとう。けど、今からそんな張り切らなくても。あと一年半くらい待ってくれ」


〝酒飲むのも大人の階段だけど、今日は別の階段を上りましょう〟

〝ゆうべはお楽しみでしたね、って書き込むの楽しみだわ〟

〝次の配信でどんな距離感になってるかしら~~〟

〝もしかしてコメントにシルヴァナさんいる?〟

〝は~~い、私で~~す〟

〝草〟

〝孫実装待機エルフ〟


「ばあちゃん、俺の配信なんか見てないで桃鉄でもやってろよ。スイッチ版で青森県の物件が優遇されてるって喜んでたじゃん」


〝そういえば収益500%の物件があったな〟

〝500%www〟

〝スーファミのしかやったことないけど今の桃鉄ってそんなインフレしてんのか〟

〝いや、桃鉄がっていうか青森県だけインフレしてる〟

〝青森県だけは草〟

〝青森県が架空の土地だから適当な数値にしたのかと思ってたわ〟

〝ちゃんと取材したのかな〟

〝そりゃするだろ。歴史あるゲームだし〟

〝桃鉄のスタッフってもしかして青森県に自由に出入りできる実力者がそろってる?〟

〝そう言えば青森県の物流ってどうなってんだ?〟

〝普通に物が売ってるから、出入りしてるトラックとかあるんだよな〟

〝俺らが知らんだけで、世の中には強者がいるんだな……〟


「ん? なんかホテルの外が騒がしいな」


「確かに、叫び声が聞こえますね。女性の悲鳴……?」


〝なんだ。イノシシでも出たか〟

〝青森県民がイノシシくらいで悲鳴上げるかよ〟

〝女の子が悪い奴に襲われてるとか?〟


「お客様困ります! 当ホテルは満室です!」


「うわあああ! 離せえええええ! このホテルに拓斗さんがいるのは分かってるんだからあああっ!」


〝この声、聞き覚えあるな〟

〝明日香じゃね?〟

〝明日香チャンネルが拓斗チャンネルに突撃!?〟

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る