第21話 魔王が復活したらしい

「どうも、拓斗です。前と同じ町に来ています。アミーリアさんの塔にあった金で、ちょっといい宿をとりました」


〝確かにちょっといい〟

〝前のは見てるだけで憂鬱になるくらいボロかったもんな〟

〝この部屋なら俺でも耐えられる〟

〝それでアミーリアたんは大丈夫?〟


「もう落ち着いてます。町の人たちから情報収集したんですが、やはり魔王が復活したらしいです。あの紫色の空がその証拠だと」


〝さすが異世界。魔王とかいるんだな〟

〝アミーリアたんが取り乱すってことは、かなりヤバいのか?〟


「町もかなり暗いムードでした。けれどアミーリアさんほどではなかったです。魔王って千年に一回くらいの頻度で復活するらしいんですけど、逆に言うと、千年に一回封印されてるんですよ。選ばれし勇者が現れて魔王を封印することになってるから、まあ大丈夫だろう、と」


〝そういう伝承があるのか〟

〝戦えない一般人は、開き直ってそれを信じるしかないもんな〟


「ですね。魔王の強さを感じ取れてしまうアミーリアさんのほうが、恐ろしさを実感できるみたいです」


〝魔女と魔王ってなんか関係あんの?〟


「名前的に関係ありそうですけど、アミーリアさんは知らないって言ってました。そもそも魔法ってなんだよって話になりますけど」


〝魔法の魔ってなんぞ?〟

〝魔族しか使えないから魔法ってわけでもないしな〟

〝たまに神様が魔法使うファンタジー作品あるけど、ますます魔の意味が分からなくなるw〟

〝ところで俺らの世界って神様とかいるのかな?〟

〝ダンジョンと魔法は現れたけど、神が観測されたって話は聞かないもんなぁ〟


「話を戻します。魔王は復活しました。魔王の影響でモンスターが凶暴化し、各地で被害を出しています。けれど勇者はまだ見つかっていません。このままだと魔王を封印できたとしても復興に時間がかかるでしょう。そこで魔王討伐RTA配信やってみようと思います」


〝魔王討伐RTA配信www〟

〝魔王も最悪のタイミングで復活したもんだ〟

〝青森県民が襲い掛かってくるとか魔王だって想定できるはずない〟

〝ところでアミーリアたんはどこ?〟


「アミーリアさんは、ばあちゃんと隣の部屋です。さすがに一緒の部屋に泊まるわけにはいかないので」


〝シルヴァナさんが一緒なら安心だな〟

〝まだ魔王を怖がってる?〟


「俺とばあちゃんがいるから大丈夫だって言ったら落ち着いてくれました」


〝気休めじゃなくてマジに大丈夫なやつで草〟

〝拓斗さんだけじゃなくてシルヴァナさんもってのがまた〟


「とはいえ、ばあちゃんも魔王と戦った経験はないので。気配がヤバそうだったら逃げます。そのうち現れる勇者に託します」


〝観光客気分かよ〟

〝実際、なんの責任もないからな〟


「タクトさーん。声がしますけど、配信してるんですか?」


「そうです。視聴者たちがアミーリアさんを気にしてたんで、入ってきてください」


「はーい」


「私もいるわよ~~」


〝アミーリアたんにシルヴァナさんだ〟

〝二人とも黒いワンピースに三角帽子の魔女ルックじゃん!〟

〝シルヴァナさん、スカートのスリット大胆!〟

〝脚がえっち!〟


「うふふ。私の脚に釘付けね?」


〝ぎくり〟

〝コメント見えてるんですか?〟


「見なくたって分かるわよ~~。これは塔にあったアミーリアさんの服を借りたのよ~~」


〝え! アミーリアたん、そんなエッチな服を持ってたの!?〟

〝ふーん、エッチじゃん〟


「それは、あの、作ってみたのはいいんですが、実際に来て出歩く勇気がなくて、タンスにしまったままのものでして……シルヴァナさんみたいな大人の魅力がある人じゃないと似合いませんから。シルヴァナさんに見つけてもらえて、その服も幸せだと思います……!」


〝アミーリアたんも絶対に似合うよ!〟

〝大人の魅力って、あなたも三百歳では〟

〝とはいえ確かにアミーリアたんは少女っぽいところがあるけどな〟


「アミーリアさんもスリット入れましょうよ~~。私が直してあげましょうか~~?」


「ちょ、ちょっと、やめてください! タクトさんが見てます!」


〝百合だ〟

〝女の子同士のイチャイチャ〟

〝おい拓斗、百合の間に挟まるなよ〟

〝タクトさんが見てます、ってセリフが出る時点で挟まってるわ〟

〝それにしても何万、何十万って視聴者よりも拓斗さんの目がまず気になってしまうのが尊いですね〟

〝タク×アミは至高〟

〝は? シル×アミだろ?〟

〝明日香×アミ〟

〝マニアックすぎる〟


「流れてくるコメントが微塵も理解できん……」


「私、畑仕事のときはスマホ持ってないから、家に置いてきちゃったのよねぇ。どういうコメント?」


「タク×アミだとか、シル×アミだとか……」


「え、シル×アミ!? そんなジャンルがあるの? あらあら、まあまあ……どうしましょ照れちゃうわ。うふふ、アミーリアさん、これからも仲良くしてね」


「な、なんですか、改まって」


〝シルヴァナさん、意味が分かるのか〟

〝もしかしてオタクか〟

〝四百歳だから古のオタクってやつか〟

〝南総里見八犬伝リアルタイム世代〟

〝古のオタクにしても古すぎますよ!〟


「……やっぱりコメントが分からん。ところで魔王城に入るには、四人の幹部を倒して、四つのアイテムを手に入れなきゃ駄目らしいです。魔王城の場所は分かってるんで、とりあえず行ってみようと思います。それじゃ、魔王城につくまで配信切りまーす」

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