第19話 裏の畑とマンドラゴラ

「どうも、拓斗です。今日も岩木山が綺麗ですね。さて、配信を始めたのはいいですが、なにをするか決めてません。みなさん、リクエストありますか?」


〝はじまた〟

〝天気いいなぁ〟

〝昨日の津軽ダムに眠るクトゥルフ的生物との戦いは面白かった。また大型生物と戦って〟


「んー……あのレベルの大型生物は、青森県でも珍しいんですよ。龍飛崎に行けばドラゴンに高確率で会えるけど、それでも確実じゃないし。龍飛崎って遠いから、行くなら午前中に出発しないと。あと……微妙にトラウマなんですよね」


〝トラウマ!?〟

〝拓斗さんでもトラウマになるようなことってあんの!〟


「みんな、俺のことなんだと思ってんだよ……俺の配信を初期から見てる人なら知ってると思うけど、小学校の遠足で龍飛崎に行ってドラゴンに襲われたって言ったじゃないですか。覚えてます?」


〝そんなインパクトある話、忘れたくても忘れない〟

〝ドラゴンに襲われたのがトラウマになっちゃったの?〟


「そうなんですよ。最初にバスくらいの大きさのドラゴンが襲い掛かってきて……それは友達と一緒になんとか倒せたんですけど」


〝遠足で友達とドラゴン倒したのか(唖然)〟

〝まあ青森の子供の強さは配信済みだからな〟


「でもそのあと、もっと大きいドラゴンが出てきたんですよ。もしかしたら親だったのかな? それは小学生じゃどうにもならないくらい強くて。先生が追い払ってくれたからこうして生きてるけど、あれは本当に殺されるかと思いましたね」


〝それはトラウマになりそう〟

〝やっぱ青森県民からしてもドラゴンは脅威なのか〟

〝なんでそんなとこに遠足で行くんですかね〟


「そこはほら。強い子に育たないと生きていけないので」


〝確かに〟

〝生きていけないの意味が重い〟

〝社会的な意味じゃなくて物理だもんな〟


「とはいえ、小学生のときよりは強くなったので。今なら龍飛崎に行っても平気……かなぁ。今度、ばあちゃんの軽トラを借りて龍飛崎配信してトラウマを克服しようと思います」


〝トラウマと向き合えて偉い〟

〝頑張れ!〟

〝タクトさん免許持ってるのか〟


「高校生のとき取りました。でもペーパードライバーなので……練習しておきますね」


〝むしろシルヴァナさんが免許持ってるの?〟

〝エルフでも免許取れるの?〟


「ちゃんと免許証持ってましたよ。戸籍とかどうなってるのか知らないけど。収穫した野菜を、道の駅とかに卸しに行ってますね。家庭菜園レベルの規模ですけど。ちなみにアミーリアさんは今、裏庭の畑を手伝ってます」


〝裏庭に畑があるのかぁ〟

〝それ見たい〟


「じゃあ、そっちに移動しますね。アミーリアさーん、ばあちゃーん。作業してるとこ、配信するからー」


「はーい、分かりましたー」


「あらぁ。配信されるって分かってたら、もっとちゃんとした服を着たのに」


「ばあちゃん、おしゃれして農作業したら、せっかくの服が土まみれだぞぉ」


〝裏庭広いな〟

〝トウモロコシ畑だ〟

〝キュウリにトマトもある〟

〝トトロでこういうの見たな〟

〝農家スタイルのアミーリアたんとシルヴァナさんもかわいい〟

〝あの地面から生えてる葉っぱはなんだ? ダイコンか?〟

〝ニンジンじゃね?〟


「あれはマンドラゴラですね」


〝裏庭でマンドラゴラ栽培してんのかよ!〟

〝新宿ダンジョンで明日香の傷を治したマンドラゴラ軟膏の材料はここで育てられたのかぁ〟

〝マンドラゴラって地面から抜くと絶叫するんでしょ?〟

〝引っこ抜いてみて〟

〝けどマンドラゴラの絶叫を聞くと死ぬんじゃなかったっけ〟

〝やめろ! 万単位で死人が出る!〟

〝スピーカーで聞いても死ぬのか?〟


「ばあちゃん。マンドラゴラの絶叫を配信したらどうなると思う?」


「んー……やめたほうがいいわよ~~。もちろん直接聞くよりは殺傷力低いけど。昔の戦争で、マンドラゴラの絶叫を電波で敵国に流して、ラジオ越しに被害を与えたって聞いたことあるわよ。意識を失う人が続出したんだって~~」


〝ヤバイ〟

〝死なないにしても気絶はするのか〟

〝ネット配信って昔のラジオより遙かに高音質だろ。死人も出るんじゃね?〟


「じゃあ、マンドラゴラを抜くのはやめておきます」


〝そのほうがいい〟

〝この配信がきっかけで、マンドラゴラの絶叫をネットに上げる際のガイドラインとか作られたりして〟

〝ガイドラインもクソもねぇ! 全部禁止に決まってるだろ!〟

〝マンドラゴラ絶叫を自動的に弾くシステムが作られるだろうな。つーか、すでに実装済みかもしれん〟

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る