第8話 一緒に塔の外へ
「俺の地元なら、アミーリアさんくらいの強さなら目立たないよ。誰も怖がったりしない。だから一緒に来ないか? まあ、地球に帰る方法を俺は知らないわけだけど」
〝これプロポーズっぽくね?〟
〝それな〟
〝ずっと孤独だったアミーリアたんにこの口説き文句はズルい〟
〝ガチに青森県ではアミーリアたんくらいの強さでも埋もれるのかな?〟
〝いやぁ……拓斗さんがそう思い込んでるだけっしょ〟
〝分かんねぇぞ。なにせ青森県だからな〟
「私が、塔の外へ……? それどころかタクトさんがいた世界に……そこでなら私は普通に生活できるんですか? タクトさんとずっと一緒にいられますか?」
「ずっと一緒って……まあ、会おうと思えばいつでも会えるよ」
「分かりました! 連れて行ってください!」
〝拓斗さんにいつでも会えるってところに一番食いついてるような〟
〝落ちたな……〟
〝こんな美人を連れて実家に帰るって、もう結婚じゃん〟
〝明日香はどうするんだ!〟
〝修羅場の予感〟
〝明日香ちゃぁん見てるぅ? 拓斗さんの実家に突撃実況お願いしまーす〟
〝いや剣聖明日香といえど青森県に辿り着くのは無理だって〟
〝それもそうか〟
「連れて行く、と断言したいけど。さっきも言ったように、俺はもとの世界に帰る方法を知らないんだ」
「世界を移動する方法までは私も分かりませんけど……異世界から霊的存在を召喚する魔法なら心得ています。それを応用すれば、もしかしたら。あと、タクトさんがこの世界に来た最初の場所には、まだ世界の歪みが残っているかもしれません。それを分析しましょう」
「へえ。頼りになるな。さすがは約三百歳」
「……あまり年齢のことを言わないでください」
「ああ、すまん。ばあちゃんが『本当の年寄りになると年齢とか気にならなくなる』って言ってたから……」
「……つまり、タクトさんから見たら私は『本当の年寄り』ってわけですか。そうですよね、十八歳からしたら三百歳なんてババアですよね。ええ、はい、分かってますよーだ。私だってさっきまで気にしてませんでしたけど、タクトさんのせいで気になったんです。でもババアが歳を気にするとか自意識過剰ですよね。もう気にしませんから! ふん!」
「そんなつもりじゃ……いや、そう聞こえる発言だった。ごめん。謝る。けれどアミーリアさんを年寄りだなんて思ってないよ。俺と同い年でも通用するし」
「本当ですか……? 並んで歩いても恥ずかしくないですか?」
「アミーリアさんみたいな美人と並んで歩くと照れてしまうって意味では恥ずかしいかも」
〝おい、拓斗さん、やっぱ口説いてないか?〟
〝本人にその気はなさそうだけど、そうとしか聞こえないよ〟
「び、美人ですか! へえ、タクトさんは私を美人だと思っちゃいましたか! へえ、へえ!」
〝魔女ちゃん、メッチャ意識してる〟
〝照れ顔のアミーリアたん可愛い〟
〝これはなんの配信なんだ。タクトさんの嫁探し配信か〟
〝異世界チートハーレム配信です〟
「とりあえず着替えるんで、タクトさんは廊下に出てください。まあ、美人の着替えをどうしても見たいってなら、見せてあげてもいいですけどね」
「じゃあ、ぜひ」
「え、ええええっ!? 今のは冗談というか、からかってみたというか……いくらタクトさんでも着替えを見せるのは無理です!」
「俺も冗談です。ちょっと反撃してみました。廊下で待ってます」
〝そのまま部屋にいろよ! もうちょっと頑張れば見せてくれるって!〟
〝魔女ちゃんの生着替え配信!〟
〝こちとらもうパンツ脱いだんだぞ。なんとかしろよ〟
〝ああ、廊下に出ちゃった……〟
「出るに決まってるだろ。アミーリアさんに失礼だし、生着替え配信とかしたら垢バンされるわ」
〝はあ……つっかえねぇ〟
〝そこをなんとかするのが拓斗さんだろうがよ!〟
〝透視魔法とかないんか〟
〝部屋に戻れって。アミーリアちゃんは受け入れてくれるよ〟
〝拓斗さんコメント欄見てる? 拓斗さーん〟
〝駄目だ完全に無視してる〟
〝絶望……〟
「お待たせしました。出発しましょう」
〝おお、三角帽子に黒いローブ。いかにも魔女って感じ〟
〝魔女お姉さんだ。俺が異世界転移したら、ぜひこういう人と一緒に冒険したい〟
〝生着替えは見れなかったけど可愛いから許す〟
「へえ、シンプルで大人っぽいですね。凄くいいと思います」
「あ、ありがとうございます……タクトさん、なんか褒めるの慣れてます?」
「慣れてるというか……女性が綺麗だったら素直に褒めなさいってばあちゃんに言われてるので」
「素敵なおばあさまですね。おかげでタクトさんに褒めてもらっちゃいました」
〝そういえば拓斗さん、明日香ちゃんにも綺麗って言ってたな〟
〝俺らの見てないところでも無意識に口説きまくってそう〟
〝実際そうだろ。受付嬢さんだって目がハートになってたし〟
〝ばあちゃんは拓斗さんをハーレム状態にして沢山の孫に囲まれる作戦に違いない〟
「ところでタクトさんは、この世界のどこに出現したんです?」
「この近くの町。近くって言っても普通は徒歩で三日らしいけど」
「え、町……ですか。町に行くのはちょっと……」
「魔女ってだけで攻撃されるから? その三角帽子を脱げば、魔女には見えないと思うけど」
「タクトさんは異世界人なので分からないでしょうけど。この世界の人は、気配だけで魔女であると察するんですよ。私にその気がなくても、威圧感を与えてしまうんです」
「ライオン自身に狩りをするつもりがなくても、ライオンが近づいてきたらウサギは逃げ出す。そういう感じ?」
「そんな感じだと思います」
「うーん……でも俺一人で町に帰っても、みんなに生存報告するだけになっちゃうしなぁ。世界の歪みとやらを見つけて、地球に帰る方法を考えなきゃいけないし……よし。町の人たちがなにかしてきたら、俺がアミーリアさんを守る。悪口だって言わせない。それでどうだろう?」
「タクトさんが守ってくれる……わ、分かりました……よろしくお願いします」
〝まーたアミーリアちゃんがメスの顔になってら〟
〝いいぞもっとやれ〟
〝目の保養になる配信〟
「バッテリーは無限じゃないので、ここで一回配信切りまーす。町についたら再開するのでよろしくお願いしまーす」
「あのタクトさん。誰に向かって喋ってるんですか……? あと、なんか小さいマジックアイテムがずっとタクトさんの周りをついてきてますけど、それってどういうものなんです? 微弱な魔力を放ってますけど……」
〝さすが魔女ちゃん。ドローンが魔力波を放ってると見抜いたな〟
〝タクトさんどう説明するんだろ?〟
〝あー、まだ切らないでくれー〟
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