第9話 オカエリナサイ

「はい、どうも拓斗です。町に到着したあと、住人のみなさんに俺の生存報告をしました。それとアミーリアさんが塔の魔女だと説明した上で、なんとか受け入れてもらえました」


〝ちょwwwスピード展開www〟

〝どう説明したら受け入れてもらえたんだ。本人が思ってるほど魔女は恐れられてなかったのか?〟


「いえ。アミーリアさんが町に入った瞬間、全員が逃げ出し、家の扉と窓は硬く閉められました。本当に気配だけで魔女と分かるんですね、驚きました。でも、俺がアミーリアさんと戦って勝ったと説明し、もしアミーリアさんが暴れたとしても俺が止めると言ったら、みんなとりあえず納得してくれました。アミーリアさんが暴れるなんてありえないんですけど、そうでも言わなきゃ話を聞いてもらえなかったので」


〝なるほど。拓斗さんは町の人たちから信頼されてるからな〟

〝拓斗さんの信頼は、魔女への恐怖に勝るのかぁ〟


「ん? タクトさん、配信ってのを再開したんですか? そのドローンとかいうので、私たちの様子を地球に伝えてるんですよね?」


〝魔女ちゃんが配信を認識してる!〟

〝全部説明したんだ〟

〝アミーリアたんがカメラを覗き込んでる。可愛い〟


「……離れた場所に、景色も音も伝えられる……なんて便利な道具でしょうか。これで私の恥ずかしい姿を配信したんですね。タクトさんは酷い人です」


〝確かに寝顔とか拓斗さんに抱きついてるところとか恥ずかしいよなw〟

〝俺たちは悪くないです。悪いのはそこの拓斗って奴です〟

〝アミーリアたんのアップ最高! 結婚してください!〟

〝コメントはアミーリアに届いてないからいくら書き込んでも無駄だぞ〟

〝なら逆になに書いても迷惑にならないな〟

〝おっぱい! おっぱい! おっぱい!〟

〝ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ〟


「うっ……なんか悪寒が……」


〝……伝わってる?〟

〝魔力波を感知してるから、コメントを読めなくても俺らのキモさだけは感じ取れるとか?〟

〝魔女って本当にスゲェんだな〟


「えっと、私から地球の方々に補足説明です。タクトさんの説明だけで本当に町の人たちが納得したのか不安だったので、私が設定を足しました。私はタクトさんに敗北して、その強さに惚れてしまい、タクトさんの言うことならなんでも聞く状態であると。そう言いながらタクトさんの腕にしがみついて大好きオーラを出してみました。すると『魔女が惚れるのも無理ねぇな。なにせタクトさんだからよ』と、皆さん納得してくれました。ふふ、私の演技力も大したものですよね」


〝それ本当に演技?〟

〝既成事実を作りたいだけでは〟

〝拓斗さん、油断してると外堀埋められていきますよ〟


「あそこまでする必要なかったと思うけど……説得力が増したならいいか。おかげで俺とアミーリアさんは並んで町を歩けるようになりました。で、今いるここは、俺が転移して最初に現れた広場です。今は人通りが少ないので、調べるのに丁度いい感じですね」


〝ここかぁ〟

〝いよいよ地球に帰る手がかりが見つかるか?〟

〝異世界編もいいけど、青森編も見たいからな〟

〝明日香とアミーリアでガチバトル始まる?〟


「この広場……タクトさんが世界を渡ってきた痕跡が残っています」


「マジ? 俺はそういうの全然分からない」


〝戦闘力は拓斗さんが圧倒的に上だけど、魔法の技術や知識はアミーリアたんに分があるんだな〟

〝いい感じのコンビ〟

〝仕方ない……アミーリアは拓斗さんに譲るから、俺が明日香もらうわ〟


「この辺りに……この歪みが地球に繋がっている? 召喚魔法の術式を反転させて、転移魔法を構築できないかやってみます」


〝有能すぎる〟

〝また魔法陣が広がった〟

〝あの魔法陣拡大して!〟

〝ここまで複雑な術式を即興で作るとか神かな?〟

〝拓斗さんもヤベェけど魔女ちゃんも普通にヤバイ〟


「繋がりそう……なのに私の魔力が足りません……! あともうちょっとなのに!」


「じゃあ俺の魔力も使ってくれ」


「ひゃっ!?」


〝さりげなくアミーリアたんの両肩に手を乗せたぞ〟

〝なにする気だ〟

〝まだ昼間だぞ! いいぞもっとやれ!〟


「タクトさんの魔力が私に流れ込んでる!? こ、こんな技が地球にあるんですか!」


「ばあちゃんに習った」


〝自分の魔力を他人に分け与えるとか可能なの……?〟

〝聞いたことない……〟

〝マジ青森のばあちゃん何者だよ〟

〝魔女ちゃん誤解しないでね。地球にそんな技はないよ。青森にあるだけ〟


「底が見えない……タクトさんの魔力って無尽蔵なんですか!? とにかく、これならいけます。門を開きます!」


〝拓斗さんとアミーリアたんの足下にポータルが出たぞ!〟

〝ガチでいけんじゃね〟

〝光でなんも見えん〟

〝この光が晴れたとき、広場のままか? 新宿ダンジョンか? それとも全く別の場所か!?〟


「ここは……洞窟?」


「成功だ! アミーリアさん、ここは新宿ダンジョンの底です。ようこそ、俺が生まれた星、地球へ」


〝オカエリナサイ〟

〝異世界に行ってちゃんと帰ってくるとか凄すぎる〟

〝しかも美人を連れて来た〟

〝地球に美人が増えるのはいいことだ〟


「確かに……空気というか、漂っている魔力の気配が違う気がします。けれど言われなきゃ分かりませんね。拓斗さんが生まれた世界というから、もっととんでもないところかと思ってました」


〝拓斗さんがおかしいだけだからよ〟

〝一般人はむしろアミーリアたんより弱いから〟

〝でも青森県なら〟

〝青森県ならアミーリアたんも普通に暮らせるよ!〟

〝俺ら青森県に行ったことねーけどな〟

〝むしろいまだに青森県の実在を疑ってるわw〟


「ここが底ってことは、外に出るのに何時間もかかるんですか?」


「アミーリアさん、走るのは得意?」


「別に苦手ではありませんが、タクトさんと同じ速さで走るのは無理だと思います」


「じゃあ俺がアミーリアさんを担いで走るか。そっちのほうが速い」


「ええ……まるで荷物みたいな扱いですね。ま、暗い洞窟にいても楽しくないので、そうしてもらいましょうか」


「おっけー。じゃあ失礼」


「ちょ! 担ぐって言いましたよね! これってお姫様抱っこなんじゃ!?」


「俺が持ち上げるって意味では同じだよ」


「違います! 恥ずかしいです! ロマンチックです!」


〝ロマンチックwww〟

〝乙女だ〟

〝俺も拓斗さんにお姫様抱っこされたい〟

〝出たぞ超加速!〟

〝常人なら内臓裏返るぞ〟

〝あー、またなんも見えん〟

〝放送事故(このチャンネルでは平常運転)〟


「はい、到着。ここは東京っていう町だよ。大きな建物が多いでしょ? 俺も青森から来てすぐは珍しくて見上げてばかりいた。人も沢山いる。この辺はただの公園だからそんなに人が来ないし、ダンジョンの入口ができちゃったから、冒険者以外は近寄らないけど」


「ま、待ってください……呼吸が……はあ……はあ……初めてのお姫様抱っこなのに、ロマンチックを感じる暇がありませんでした……えっと、東京? わっ、本当に大きな建物ばっかりですね! なんに使うんですか、あんなの!」


「俺も詳しくは知らない。役所だったり会社だったり……それだけ人口が多いんだよ、東京は。青森はもっとのんびりしてるよ」


〝本当にのんびりしてるのか? ドラゴン出るんだろ?〟

〝道ばたにマンドラゴラが生えてる土地がのんびりしてるとは思えないんですが〟

〝でも、ふらいんぐ○ぃっちでは、のどかに描かれてたぜ〟


「空の色は、私の世界と同じく青いんですね。安心しました」


「新幹線で秋田まで行って、バスで県境まで近づいて、そっから国道七号を歩いて行く。出発は明日にしよう。今は昼時だからどこかでご飯を食べて、軽く観光して……ん? 誰か近づいてくるぞ」


「囲まれてますね。気配バレバレなので、大した相手ではなさそうですけど」


〝なんだなんだ〟

〝敵? ダンジョンの外で?〟

〝実況者に突撃ってのたまにあるけど、拓斗さんに突撃とか命知らずってレベルじゃねーぞ〟


「我々に敵意はありません。星野拓斗さん、アミーリアさん。私たちはダンジョン庁の者です。一緒に来ていただけないでしょうか。お聞きしたいことが山ほどあります。乱暴なことはしませんし、我々にそんな武力はありません。しかし他国は違うでしょう。あなたたちを狙っている者はとても多い。いちいち迎撃していたのではキリがありません。ダンジョン庁は日本政府の組織です。政治的な盾になれます。あなたたちを保護できます。我々に同行してくださるなら配信を中断してください。ここから先は国家機密が含まれます」

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