第6話『配信切る』と『廃神KILL』
「出ていってください! 魔女は人を食べるって噂、知らないんですか?」
「なんか町で聞いた気がするけど。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「ちょっと聞きたいことがあるからって人の家に無断で入るんですか、近頃の人間は!」
〝正論だ〟
〝魔女ちゃんが正しい〟
〝どーも、すみません、うちの拓斗さんがご迷惑をおかけして〟
〝立派な不法侵入だもんな〟
〝しかも女性の寝室だぜ〟
〝こんな美少女が寝てるところに勝手に入るとかガチの犯罪じゃん〟
〝通報しました〟
〝お巡りさんこの人です〟
「……言われてみると確かに非常識でした。なにせ人の家に行くいうより、ダンジョン探索の感覚だったもので」
「確かに、この魔女の塔は、どんな冒険者でも立ち入ることができない最難関ダンジョンとして有名です。ゆえに誰も近づきません。私が一生懸命そういう噂を流して、実際にそういうダンジョンを作って、誰も来ない快適な環境を作ったのに……あなたはどうして! もう二度とこの塔に近づこうなんて思わぬよう、少し痛い目にあってもらいましょう」
〝魔女ちゃんが布団から飛び出した!〟
〝パジャマ姿かわいい〟
〝でもメッチャ怒ってる〟
〝怒ってる表情がかわいい〟
〝しかし三百年生きてる魔女がガチギレしてるのって割とヤバない?〟
〝魔女ちゃんの周りにメッチャ複雑な魔法陣が展開してる件〟
「炎と雷と風の混合魔法です。人の力で防ぐのは無理ですよ。けれど死なない程度には手加減してあげましょう!」
〝三属性同時使用とかスゲェ!〟
〝魔法エアプでごめん。どう凄いの?〟
〝まず二属性を同時に使える奴はウィキペディアに名前が乗るから〟
〝三属性同時とか地球にいるんか? 俺は知らんぞ〟
「小さい頃、ばあちゃんと特訓したのを思い出すなぁ。ええっと、こういうのはですね。それぞれの属性に特化した防御障壁を出せば簡単に防げます」
〝ここにいたわ〟
〝配信者っぽい口調で淡々と偉業を成し遂げてて草〟
〝属性に特化した障壁って演舞でしか見たことない〟
〝三種類の防御障壁を同時展開とかwww〟
〝魔女ちゃん唖然としてるぞ〟
〝そりゃ気持ちよく寝てたのに拓斗さんみたいな化物と遭遇したら誰だってビビる〟
〝魔女ちゃん逃げてえええええ!〟
「そんな馬鹿な! くっ……今のはあなたを気遣って手加減しすぎたんです。ここに辿り着いたのは伊達じゃなさそうですね……次はもっと強力ですよ。逃げるなら今のうちです!」
〝光の矢だ!〟
〝矢つーか槍のサイズじゃね?〟
〝十本以上あるぞ!〟
「あー。光属性ってレーザーみたいな物理破壊だけじゃなく、精神ダメージもくるんですよね。なので闇属性で相殺しておきましょう」
〝三分クッキングみたいになってきた〟
〝拓斗さんの今日の豆知識〟
〝どこのご家庭にもある闇属性魔法の使い手〟
〝この動画を見た奴は、急に光魔法で攻撃されてもへっちゃらだな!〟
〝光と闇の使い手ってどっちも超珍しかったはず……〟
「そ、相殺された……塔の魔女と恐れられたこの私の魔法を……! 人間にこんなことができるはずありません。さては私さえ知らない魔法理論に至り、強力なマジックアイテムを開発したのでしょう! そこまでして私を殺したいのですか!?」
「え、いや、別に」
〝ごめんなさい拓斗さんはアイテム使ってません。素手です〟
〝泣かないで魔女ちゃん〟
〝ちょっと聞きたいことがあるだけだよ!〟
〝拓斗さん、ちゃんと説明しろよ!〟
〝あ。駄目だ。魔女ちゃん話を聞く体勢じゃない。また攻撃魔法撃とうとしてる〟
〝規模でっか! さっきのより凄い。光が強すぎて画面が真っ白〟
〝モニター壊れたかと思った〟
〝目がぁ目がぁぁぁぁ〟
〝ガチで殺しに来てね? いくら拓斗さんが勝手に入ったからってここまでやるか?〟
〝寝てるところに知らない男が入ってきたのに容赦する必要あるか?〟
〝確かにw〟
「私の全魔力を込めた光魔法です。さっきのように相殺できるような規模ではありませんよ。私は今まで可能な限り人間を殺さないようにしてきました。しかし、そちらが私を殺そうとしていて、なおかつ、それを可能とする力に至ったのであれば話は別。全力で排除します。……逃げるなら今のうちですよ」
「それが全魔力ってことは、それを撃てばしばらく魔法を使えないわけだな。分かった。遠慮なく撃ってくれ。君が無防備になっても俺はなにもしない。それをもってして、俺に敵意がないと信じてもらう」
「……ふん。あとのことなんて考えるだけ無駄です。あなたは跡形も残らず消えるんですから!」
〝拓斗さん、いくらなんでもこれはヤバイぞ!〟
〝死ぬなぁぁぁ〟
〝待て。真っ白だった画面が今度は真っ黒だぞ?〟
〝拓斗さん今度はなにをしたんだあああああ〟
「超重力で周りの空間を歪めて、全ての光を跳ね返してます。だから外からの光は俺に一切届きません。魔女の光魔法が終わるまで、少々お待ちください」
〝は? 重力操って空間を歪めた?〟
〝なるほど分からん〟
〝もしかしてそれも青森のおばあちゃんに習ったのでしょうか……?〟
「ばあちゃん直伝です」
〝ばあちゃんマジで何者だよ〟
〝青森配信のとき絶対ばあちゃん映して〟
〝俺もたまには実家に帰るかな……〟
〝帰れ帰れ。実家離れたら母ちゃんに会えるのさえ数えるほどなのに、ばあちゃんとかマジであと数回だぞ〟
「あ。魔女の攻撃が終わったみたいですね。超重力を解除します」
「本当に……私の攻撃を防ぎきった……しかも無傷……もはやこれまでですね。さあ、殺しなさい。息を潜めるように生きるのも疲れました……なんの未練もありません」
〝魔女ちゃん座り込んでる。マジで余力ないんだな〟
〝今ならえっちなことしても抵抗されないな〟
〝えっちな配信おなしゃす〟
〝魔女ちゃんが抵抗しなくても、そんなん配信したら拓斗さんが垢バンされるだろ〟
〝こんな貴重な映像をリアルタイムで流してるのに垢バンとか人類の損失すぎるw〟
〝教科書に載るよ。人類史上初めて行われた異世界からの配信は、少年の性欲の暴走によって突如終わりを遂げたのであった〟
〝やめて拓斗さん! いくら魔女ちゃんが可愛いからって理性を失わないで!〟
〝悪魔「こんな可愛い子で童貞を捨てるチャンスは二度とない。やっちまえ」〟
〝天使「いいえ、あなたの目的は魔女から世界転移の情報を聞くことでしょう。まずは優しくして、必要な情報を得てから童貞を捨てなさい」〟
〝天使www〟
〝とんでもねぇ堕天使が湧いてるぞ〟
〝とにかく、ちゃっちゃってください拓斗さん!〟
〝異世界童貞喪失実況配信〟
「童貞童貞うるせぇな! いくら魔女さんが可愛いからって襲ったりしねーから!」
「急に叫んでどうしたんですか……? 童貞だの襲うだの……ま、まさか最初からそのつもりで!? だから私にトドメをさそうとしないんですね」
「あの、違いますから……」
「好きにしたらいいじゃないですか。けれど私の心まで手に入ると思わないでくださいね!」
〝魔女ちゃん大の字に寝ちゃった〟
〝話聞かない人だな〟
〝魔女ちゃん視点で見ると拓斗さんがマジで意味不明の存在だからな。ヤケクソにならざるを得ない〟
〝魔女ちゃん視点じゃなきゃ意味分かるみたいなコメントはNG〟
〝確かにw〟
〝明日香チャンネルに乱入したところからずっと見てるけど、ずっと意味不明だわw〟
「さあ、どうしたんです! 私の純潔を散らすんでしょ! 欲望のはけ口にして、陵辱の限りを尽くし、とても言葉にはできないようなことをして、私がどんなに泣いて許しを請うても何度も何度も――」
「話を聞いてください。俺は本当に聞きたいことがあるだけです。こことは異なる世界の――」
「道具とか使ったりするんでしょう! そういう顔をしています! 最先端の魔法技術を駆使した拘束具なんかで私を縛るんですね! 私の魔力が万全でも抜け出せないような……ああ、恐ろしい。そして鞭とかロウソクとか……なんかいい感じに私を屈服させる魔法効果がかかってるんですね! なんてイヤらしい! これだから人類は愚か――」
「うるせぇ! 人の話を聞け!」
「ひっ!」
「勝手に侵入したこっちが悪いと思って大人しく聞いてれば好き勝手に言ってくれやがって! なにもしないって言ってるだろ。少しは信じろよ。道具とか使いそうな顔ってどんな顔だよ。具体的なのかどうだか分からん妄想を凄い勢いで語りやがって……あんたの願望か!」
「が、が、が、願望なんかじゃありません! ちょっと興味があって調べただけです!」
〝ちょっと興味があって調べたんか〟
〝さっき純潔とか言ってたな〟
〝三百年も純潔だったのに知識だけ増えていくから色々大変だったのね……〟
〝じゃあさっきのはマジで願望か〟
〝拓斗さんに襲って欲しかったんだね〟
〝拓斗さんやっちゃいなよ!〟
「……あんま変なコメント多いと配信切るぞ」
〝ごめんなさい〟
〝調子こきました〟
〝この配信だけが生きがいなんです〟
〝拓斗きゅんを見られなくなったら俺ショックで死ぬかも〟
「は、廃神KILL……? よく分かりませんが邪悪な響きの言葉です……」
「多分、想像してるのと違うから。で、俺は本当にあなたに酷いことをするつもりはない。ただ話をしたいだけなんだ」
「……どうやらそのようですね」
「なんかちょっとガッカリしてない?」
「そ、そんなことはありません! それで私になにを聞きたいんですか、廃神KILLさん」
「名前じゃねーから」
〝もしかして『配信切る』を『廃神KILL』と解釈したの?〟
〝かっけえええええ!〟
〝デスメタルかよ〟
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