第5話 魔女の塔を攻略

「それっぽい塔があった。どうやら到着したみたいです」


〝は? 一時間も経ってないが?〟

〝三日かかるとはなんだったのか〟

〝干肉くれたおじさんの気遣い〟

〝干肉おじさんがこれ知ったら悲しむだろうがよぉ!〟

〝謝れ! おじさんに謝れ!〟


「そんなこと言われても……ついちゃったものは仕方ないじゃないですか。あれが入口か……開かないな。物理的な鍵じゃなくて魔法で封印されてるって感じですね」


〝拓斗さん解錠魔法とか使える?〟

〝三百年生きてる魔女の封印ってかなり強そうだな〟

〝さすがに無理か?〟


「封印の術式を解析して解除するって正攻法は無理っぽいですね。もの凄く精密な封印です。三百年生きてるって噂、ガチかも」


〝そっかぁ。拓斗さんでも無理なことってあるんだな〟

〝むしろ安心した〟

〝どんまい。別の方法を考えよう〟


「でも正攻法を使う必要なんてないんですよ。知恵の輪じゃあるまいし。封印魔法をかけた術者を遙かに超える魔力を流してやれば封印は解けるって、ばあちゃんが言ってました」


〝なにその金庫を爆弾で開ける的な発想〟

〝俺、大学で魔法の研究してるけど理屈は正しい。その莫大な魔力を用意できないから机上の空論だけど

〝莫大な魔力なんて、拓斗さんが『ふん!』ってやりゃ出るだろ〟

〝拓斗さんどうなんですか〟

〝拓斗さんやっちゃってください!〟


「では……ふん!」


〝扉が砕けたw〟

〝あーあ、封印が台無しだよ(褒め言葉)〟

〝封印を破るってさ、もっとこう……精密な作業なんじゃねーの? からまった糸をほどく的な〟

〝からまった糸は引き千切るのが拓斗さんスタイルだから〟


「それじゃ、お邪魔しまーす」


〝躊躇せず入っていった〟

〝罠とかあるかもしれんから警戒して〟

〝なんか明らかに床の色が違うところあるぞ〟

〝あそこまであからさまだと囮にしか見えん〟

〝本命の罠は別か〟


「あー、いや、あの色が違うところ……変な術式がしかけられてますね。爆発系……だな」


〝見ただけで分かるの?〟

〝ここまで脳筋プレイしかしてないのに急に洞察力を発揮してる〟

〝大丈夫? 間違ってたら最悪死ぬよ?〟


「大丈夫。ばあちゃんにその辺は鍛えられてるので。こんなあからさまな魔法トラップを見間違えたりしません」


〝お前のばあちゃん何者だよ〟

〝それは平均的な青森のおばあちゃんなのでしょうか?〟

〝ヤバいな。青森県民が青森の外に出てきたら世界滅亡するかもしれん〟

〝青森を取り囲んでる瘴気って青森を封印するためにあるんじゃねーの?〟


「うーん……平均的なおばあちゃんではないかな……? かなり優秀なおばあちゃんです」


〝安心した〟

〝青森では弱いほうとか言われたらどうしようと思ってた〟

〝優秀なおばあちゃんに育てられたから拓斗さんも優秀なんだな〟

〝え、待って。拓斗さん、なんで自らトラップ踏みに行ってるの〟


「トラップを解除する一番手っ取り早い方法は発動させてしまうことなんで」


〝マジで踏みやがった!〟

〝爆発した!〟

〝爆炎の中から焦げ目一つない拓斗さんが!〟

〝知ってた〟

〝なんで服も無事なんだ〟

〝無意識に垂れ流してる魔力が障壁になってんだろ〟


「階段を発見。トラップはなし……けど上の階になんか気配がありますね。じゃ、登りまーす」


〝気配があるのにスタスタ行くんかい〟

〝まあ、なんか出てきたら殴り倒せばいいわけだし〟

〝激強冒険者があえて難易度が低いダンジョンに行ってみた系の動画みたいだな〟

〝現にそういうバランスだろ〟

〝一切情報がない未知の世界なんですが〟

〝ここに至るまでの出来事でこの世界のレベルはお察し〟


「一応、油断はしてないつもりなんで。お、なんだあれ。ロボット?」


〝マジだ、ロボットだ!〟

〝三メートルくらいありそう〟

〝ロボというよりファンタジー的にゴーレム?〟

〝歯車とか見えてるしスチームパンクっぽさもあるな〟

〝まるっこくて可愛い〟

〝拓斗さんを見るなり殴りかかってきた!〟

〝続いて目からビーム!〟

〝しかし拓斗さんノーダメージ〟

〝パンチはともかくビームまで弾くとかどうなってんだ〟

〝ゴーレムだって頑張ってビーム出してるんだぞ〟

〝少しくらい焦げてあげて〟


「いや、焦げたくないし。格好いいゴーレムなのでもったいないですが、邪魔なので破壊しますね。おりゃ!」


〝ねえ。どうして鉄パイプであんな大きなゴーレムが木っ端微塵になるの?〟

〝それが分かったらみんな拓斗さんになれるわ〟

〝教えて拓斗せんせー〟


「それはですね。実は鉄パイプで殴った衝撃で倒してるんじゃなくて、鉄パイプを伝って俺の魔力がゴーレム内部に流れて、内側から破壊してるんですね。この鉄パイプは、なんか手に持ってたほうが動画的に見栄えがよさそうだから持ってるだけで、正直、素手のほうが戦いやすいです」


〝唖然(唖然)〟

〝実は縛りプレイしてたのか……〟

〝ぶっちゃけ素手で戦ったほうが見栄えいいと思う〟

〝明日香チャンネルに出るまでバズらなかった要因の一つかもな〟

〝鉄パイプはチンピラにしか見えん〟


「え、鉄パイプってそう見える? 剣より安いのに剣っぽく見えるからいいかなぁと思ったけど……受けが悪いなら捨てます。この辺に刺しときましょう」


〝二体目のゴーレムが現れたと思ったら即座に頭部に鉄パイプをぶっさした!〟

〝そういうとこだぞ〟

〝敵に見せ場がなさ過ぎる〟

〝傘立てじゃないんだからさぁ〟

〝ああ、またトラップを自ら踏んじゃって〟

〝魔女だってさぁ! トラップとかゴーレムとか一生懸命準備して侵入者を迎え撃とうとしてるんだよ!〟

〝いわば接待〟

〝それを全部台無しにして〟


「……なんで俺ここまで責められてるの? しかし、だいぶ登ったな。そろそろ最上階でしょうか。これまでにない立派な扉があります。開けてみましょう」


〝お、部屋だ〟

〝本棚とか机とかある。人が生活してる気配があるな〟

〝ベッドもある!〟

〝カメラ向けろ〟

〝美少女が寝てる! 見た目は十代後半ってとこか〟

〝くそ、魔女はババアじゃなかったか〟

〝はいはい、この子も拓斗さんに惚れるんでしょ〟

〝チンコもげろ〟


「このコメントの流れ、なんなんだよ……それにしてもこの子、警戒心がない顔でスヤスヤ寝てるな……本当に魔女なのかな? おーい、起きてくれ」


「ふぁぁ……あ!? なぜここに人が! と、扉の封印は!? トラップだって沢山あったはずです!」


「俺が破った」


「ゴーレムを何体も配置したのに!」


「俺が倒した」


「そんな気軽に入ってこれるような場所じゃないんですよ! わ、私、魔女ですよ! この辺の町や村の人々は私を恐れているんです! 分かってるんですか!?」


「そうみたいだな」

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