第3話 異世界転移テンプレをなぞりつつ地球に帰る方法を探す
〝異世界!?〟
〝確かにこういうのアニメで見たわ〟
〝そうか異世界か。てっきりこれが青森県かと〟
〝まあ青森県もこんなもんだろ〟
「いや青森県は日本だから。こうはならんから。つーか、本当に異世界か? 配信はできてるし……あ、けどGPSはロストしてる……」
拓斗はスマホで周辺の地図を見ようとしたが、現在位置を確認できないと表示された。
なのにネット回線そのものは繋がっている。
〝ダンジョン仕様の通信機器は電波じゃなくて魔力波を使うからな〟
〝魔力波だと異世界からでも繋がるのか?〟
〝知らん。異世界らしき場所に転送されたの拓斗さんが初めてだし〟
「誰も理屈は分からないか……って、視聴者五万人!? 明日香さん効果スゲェ……」
〝もはや関係ないから〟
〝新宿ダンジョンの最深部が異世界に繋がってるとか嫌でも再生数伸びるだろ〟
〝どうだろ? 明日香チャンネルに映らなかったら、まだ過疎ってたんじゃね? なにせこの配信、いまだにタイトルが『ダンジョン探索』のままだし〝
〝明日香チャンネルがなかったら、誰にも知られることなく前人未踏の快挙を繰り返してそう〟
〝現にいままでそうだったわけだしな〟
〝拓斗ォ! ちゃんと宣伝しろよォ!〟
「宣伝か……よく分からないんで、みなさん拡散お願いします」
〝他力本願!〟
〝けど青森県民なのにスマホとドローンの使い方知ってるだけでも偉くね?〟
〝確かに。青森県ってインターネット繋がってるの?〟
〝青森県ってカラーテレビ映る?〟
〝映画に音がついただけで感動して泣いてそう〟
「インターネットもスマホもあるわい! それより俺はこれからどうしたらいいんだろう? 視聴者の皆さん、アドバイスください」
〝獣人をモフモフしろ〟
〝まずは冒険者ギルドだろ〟
〝冒険者ギルドが鉄板〟
〝冒険者ギルドに行って受付嬢をナンパ〟
「ナンパはともかく冒険者ギルドに行けばいいんだな。異世界ファンタジーに詳しくない俺でも、序盤にそういう展開があるのは知ってる。しかし……日本でも冒険者ギルド。異世界でも冒険者ギルドとは代わり映えしないな」
〝異世界の冒険者ギルドが本家だろ〟
〝魔力測定器を破壊するのを忘れるなよ〟
〝俺なにかしちゃいました? って言う練習しとけ〟
「はいはい。まずギルドの場所を調べないと……その辺の人に聞いてみるか」
〝異世界人に躊躇なく話しかけてる〟
〝やっぱ青森県と異世界って似てるから落ち着くんじゃね?〟
〝日本語が通じてる……〟
〝そこはテンプレ。異世界転移したとき自動翻訳スキルとか授かってんだろ〟
〝拓斗さんには日本語に聞こえるかもしれんが動画の音声まで自動翻訳されるもんなのか?〟
〝考えるな感じろ〟
〝待って。拓斗が日本語話してるのが変じゃね? 青森県民って青森弁で喋るんだろ?〟
「青森弁だのってコドバはね゛っ! わんどが使ってらのは津軽弁だはんで! あど南部弁ど下北弁があるばって、わは津軽弁しかわがんねじゃ!」
〝出た青森弁!〟
〝集中して聞くと思ったより理解できるな〟
〝字幕くれ〟
〝弘前大学医学部には他県から来た学生や医者のために津軽弁マニュアルがあるってガチですか?〟
〝青森県って大学あるの……?〟
〝なに教えてるんだろ。呪術的ななにか?〟
〝青森県なら恐山に行けば死者に会えるから医者とかいらなくね?〟
「くっ、うっかり津軽訛りになってしまった……青森だって大学も病院もあるよ! とにかく、親切な人がギルドの場所を教えてくれたから、そこに向かいまーす」
〝風景見てるだけで楽しい〟
〝いくらゲームがリアルになっても、まだまだ現実には勝てないもんな〟
〝なかなか活気ある町だ〟
〝旅番組見てる気分〟
「これが冒険者ギルドかぁ」
〝拓斗さんが立ち止まった〟
〝あの看板の文字読めるの?〟
〝いや待て。文字がぐにゃって日本語に変形したぞ〟
〝本当だ! 冒険者ギルドって俺にも読める!〟
〝翻訳スキルが動画にも反映されてるみたいだな〟
〝さすが魔力波配信。まるで魔法だぜ〟
「すいませーん。冒険者として登録したいんですけど。身分証明するものとか持ってなくても大丈夫ですか?」
「あはは、大丈夫ですよ。身分がハッキリしてなきゃ駄目だったら、冒険者のなり手なんて現れませんって。誰でも登録できます。その代わり、最初は信用度ゼロです。なりたての人はどんなに強そうでも重要な仕事を回しません。いくつか依頼をこなしてもらって、信用できそうだったら大きな仕事を紹介します。それでもよければこの書類に名前を書いてください」
〝この受付嬢、割と辛辣なこと言うな〟
〝普通に日本語で名前を書いてるようにしか見えないけど、現地人には向こうの文字に見えてんのか〟
〝冒険者ギルドの登録とかテンプレすぎて描写省かれるようになったけど、実写の配信だと新鮮味ある〟
「ではこの水晶玉に手を添えてください。タクトさんの魔力量を量ります」
〝来た!〟
〝わくわく〟
〝全裸待機〟
ばりーーーーーーんっ!
「そ、そんな! 今までこの水晶が割れたなんて話、聞いたこともありません……あなた、どれほどの魔力を秘めているんですか……?」
〝なにかしちゃいましたか、って言え!〟
〝言わなきゃ登録解除するぞ!〟
〝拓斗さんの謙虚なところ見たいなぁ〟
〝言えよ拓斗ォ!〟
「……俺なにかしちゃいましたか?」
〝うおおおおおお〟
〝受付嬢さんの唖然とした顔ウケる〟
〝なにかしちゃいましたか、じゃねーよギルドの備品壊したんだからまずは謝れよ〟
〝確かにw〟
「……ごめんなさい。俺のせいで壊れちゃったみたいで」
「い、いえ! こんなに魔力が強い人が登録してくれて頼もしいです。それでも最初は簡単な依頼しか紹介できませんけど……薬草集めとかどうでしょう?」
受付嬢は薬草の絵と生息場所が書かれた紙をくれた。
拓斗はそれを持って町の近くの森に行く。
「もともとダンジョン探索中だったから大きめの鞄を持ってたけど、そうじゃなかったら薬草集めさえ満足にできなかったな。不幸中の幸いか」
〝ダンジョン探索中じゃないと異世界転移とかしないと思うんですけど〟
〝いやその理屈はおかしい。ダンジョン探索中だって異世界転移はしねーから〟
〝さすが青森県民。次々と薬草を見つけてる〟
〝マンドラゴラまだー?〟
〝先生。マンドラゴラはお尻に入りますか?〟
「……お尻には入れないほうがいいですよ。結構太いから。あと真面目な話、成分が強いので内臓にどんな影響がでるから分からない。ガチでやめたほうがいいです」
〝真面目に怒られた……〟
〝青森県民でもヤバいなら人間は即死だな〟
〝そもそも本物のマンドラゴラを見る機会とかそうそうねーけど〟
〝仕方ない。お尻には別のを入れるか〟
〝なあ。コメ欄に定期的にヤベエ奴が湧いてねえか?〟
肩から下げた鞄が薬草でパンパンになった。
拓斗はそれを受付嬢のところに持っていく。
「え! もうこんなに集めたんですか……? 実は薬草探しのベテランだったり……?」
「ベテランってわけでもないですけど。運がよかったんです」
〝青森県民の野生の本能〟
〝マンドラゴラが自生してるとこで育ったら普通の薬草採取とか楽勝だろうな〟
〝学校の帰りにその辺の花の蜜とか酢ってそう〟
〝それは青森県民じゃなくてもやるだろ〟
〝ツツジの蜜うまいんだよな〟
〝ミツバチと奪い合ったことある〟
「え。花の蜜をミツバチと奪い合ったの? 引くわ……」
〝おい。青森県民に引かれてるぞ〟
〝まあ青森県はミツバチじゃなくてクマと奪い合うよな〟
〝青森県って一応本州だからツキノワグマ?〟
〝青森県のツキノワグマってヒグマより強い?〟
〝リアルにドラゴンがいるんだからゴジラとかと比べたほうがよくない?〟
「普通のツキノワグマしかいねーし! ばあちゃんに行儀悪いって叱られるから花の蜜とか吸いませんよ。あんまり」
〝あんまりってことはちょっとは吸ったんだな〟
〝拓斗さんも普通の小学生だった頃があるのね〟
〝安心した〟
〝青森県ってマンドラゴラとリンゴ以外にも植物あるんだな〟
拓斗は受付嬢からもらった報酬で安宿を借りた。
ベッドに座り、ようやく一息つく。
「いきなり異世界に飛ばされて驚いたけど、視聴者のみなさんのコメントのおかげで孤独を感じずに済みました。ありがとうございます」
〝そうか。拓斗さんでも精神的にキツかったりするのか〟
〝まあ考えてみるとそうだよな〟
〝俺らのコメントが支えになったなら嬉しい〟
〝これからも配信頑張ってください!〟
「頑張ります。それで、どうやったら日本に帰れると思いますか?」
〝え〟
〝帰る必要ある?〟
〝このまま異世界配信おなしゃす〟
〝まだギルドに登録して薬草集めただけだろ。魔王倒すまでやるんだ〟
〝奴隷ハーレム作ろうぜ〟
「いや帰りたいに決まってるだろ! つーか、みんな青森県を見たかったんじゃないのか。日本に戻れたら、次は青森県編やるぞ」
〝確かに!〟
〝異世界もいいけど青森県も見たいな〟
〝けど誰も異世界行ったことないから帰る方法も分からん〟
〝異世界なんだから地球より魔法の研究進んでるんじゃね? 空間魔法とかでゲートを開いてもらうとか〟
〝情報収集だな〟
〝いよいよRPGじみてきた〟
「なるほど……こっちの人に頼るのか。いい手かもしれない。みなさん、知恵をありがとうございます。じゃあ寝るんで今日の配信はここまで。おやすみなさい」
〝おやすみ!〟
〝いい夢を〟
〝頑張れよ。楽しみにしてっから〟
「みなさん、こんにちは。三日ぶりですね。拓斗です」
〝なにが『三日ぶりですね』だよ。心配したんだぞ!〟
〝お前の安否を世界中が気にしてたからな。割とマジで〟
〝なんで毎日配信しないの?〟
〝明日香に会うまでバズらなかったのって、そういう雑なのが影響してると思う〟
〝チャンネルの登録者数を見てみ。この調子だとそのうち日本の人口超えるぞ〟
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