第2話 青森県って実在したんだ!と言われてしまう
〝どうも明日香チャンネルから来ました〟
〝お邪魔します〟
〝過去の配信動画のタイトル適当すぎ。全部『ダンジョン探索』ってしか書いてないじゃん。これじゃ再生数増えるわけない〟
〝サムネに君の顔を乗せるべきだと思う。俺ホモじゃないけど拓斗の顔気に入った。ホモじゃないけど〟
「うおっ! いきなり視聴者が千人を超えた! 明日香さん効果すげぇ……」
「私が紹介したのがきっかけでしょうけど……拓斗さんがどんな配信をしてるのか見たい人がそれだけ沢山いたってことですよ。拓斗さんが凄いんです」
「いや、俺なんて大したことないですって。地元じゃ普通でしたよ」
「拓斗さん、どこ出身なんですか?」
「青森県です」
〝青森県!?〟
〝青森県って実在したのか!〟
〝実在はするだろ。けど誰も住んでないはず……?〟
〝大変異の前からヤベェ土地で、青函トンネルを作ったはいいけど列車消失事故が多発したから新しく秋函トンネル作ったんだろ。あんなところに人がいるわけない〟
「コメントが酷すぎる。青森県を馬鹿にするな。実在したのかってなんだよ。青森のリンゴは有名だろうがよ」
「……ごめんなさい。私も青森県って架空の土地だと思ってました……本当にあるんですか?」
拓斗は絶句した。
明日香の表情はふざけているように見えない。
すると視聴者たちも本気でコメントしているのだろうか。
青森県は確かに本州最北端の田舎であるが、実在を疑われているなんて想像もしていなかった。
〝青森県民を自称する配信者がいると聞いて〟
〝青森県とか陰謀論かよ。地球平面説のほうがまだマシだわ〟
〝過去配信の動きエグい〟
〝どういう鍛え方したらこうなるんだ。魔力で強化するにしても限度あるだろ〟
〝俺もダンジョン探索の経験者だから分かる。こいつは人類最強。あるいは全部フェイク動画〟
「フェイク動画じゃねーから。どうしてそこまで疑うんだよ。誰でも倒せるモンスターを倒してる動画しか配信してないだろ。小学校のとき遠足で行った龍飛崎でドラゴンに襲われたけど、東京に来てから遭遇したモンスターは全部あのドラゴン以下だったぞ」
〝待って〟
〝小学校の遠足でドラゴン!?〟
〝ダンジョンって色んなモンスターいるけどドラゴンは見つかってねーよな?〟
〝青森県にはドラゴンいんの!?〟
「そりゃ……龍飛崎って地名なのにドラゴンいなかったら詐欺だろ」
〝一瞬納得しかけたけどそんなわけあるか!〟
〝青森県怖い〟
〝青森県へ行く方法で検索したけど、県境が瘴気で覆われてて、秋田からも岩手からも行けないって書いてるぞ〟
〝瘴気ってなんだ(唖然)〟
「瘴気なぁ。俺も詳しくは知らないけど、昔から青森県を取り囲んでるんだよ。大変異のあと更に濃くなったらしい。実際、青森県を出るときちょっと苦しかったなぁ」
〝大変異のあと、政府が何度も青森県を調査しようとして失敗してるんですが〟
〝なんであんたは『ちょっと苦しい』で済むんだ〟
〝ヤベェ。こいつガチで青森県民かよ〟
〝え、もしかして『ふらいんぐ○ぃっち』って実話なん? 架空の土地の話じゃなくて?〟
「ふらいんぐ○ぃっちは俺も読んでる。でもさすがに実話じゃないぞ。九割くらいはフィクションだ」
〝時間停止系AVの九割は偽物みたいな話〟
〝じゃあ一割は本当なのかよ!〟
〝業界人だけど、時間停止系AVの一割が本物なのはガチだぞ。大変異のあと魔法が普及して、時間停止魔法の研究も進んだからな。ちなみに時間停止魔法の使い手は一人しかいなくて、そいつの先祖は青森県民らしい〟
〝今度から青森県に感謝しながらヌクわ〟
「あんまり下品なコメント流すとブロックするぞ。と、それより、明日香さん怪我してますね。よかったらこれ使ってください。ばあちゃんが作ってくれたマンドラゴラ軟膏です。そのくらいの傷なら一瞬で治りますよ」
「あ、ありがとうございます。って、マンドラゴラですか!? もの凄く貴重な素材じゃないですか!」
「え。実家の周りに生えてますけど……学校の帰りに友達と引っこ抜いたり……やっぱ東京は緑が少ないからマンドラゴラも生えてないんですね」
〝東京じゃなくてもマンドラゴラは生えてねーよ!〟
〝ふらいんぐ○ぃっちでも下校中に道ばたでマンドラゴラ見つけてたよな〟
〝あれは一割の実話のほうだったか……〟
「そんな簡単に手に入るんですか……じゃあ遠慮なく……わっ! 本当に一瞬で治りました……!」
〝は、怖い〟
〝逆再生かよって勢いで治ったぞ〟
〝昭和の低予算の特撮みたいな違和感〟
〝待って。医療品扱う仕事してるけど、いくらマンドラゴラ軟膏でもここまで効かないぞ普通〟
「俺のばあちゃん、地元でも薬作りの名人って言われてたから、そのせいかな?」
〝おばあちゃんをスカウトしたい〟
〝転売したら億万長者確定〟
〝ちょっと青森県行ってくる〟
〝辿り着く前に死ぬぞガチで〟
「と、とにかくありがとうございます。これでなんとか地上まで帰れそうです」
「送っていきますよ」
「拓斗さんはまだ探索するんですよね。地上まで一時間半はかかります。私のことは気にせず、探索を続けてください」
「いえ。急げばそんなにかかりませんよ。ちょっと失礼」
「きゃ!」
〝明日香たんをお姫様抱っこしやがった!〟
〝剣聖が反応できない速度のお姫様抱っこ〟
〝俺ホモじゃないけど君にお姫様抱っこされたい〟
「舌を噛まないように気をつけてくださいね」
〝速っ!〟
〝怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い〟
〝カメラの性能追いついてねーぞ〟
〝明日香チャンネルのカメラもブレブレ。あっちのドローンのカメラは高性能のはずなんだけど〟
〝視聴者がいつの間にか二万になってて笑う〟
「はい。到着」
〝剣聖が一時間半かかった道のりを一分半で走破して草〟
〝なんも見えんかった〟
〝おい、明日香ちゃん気絶してねーか?〟
「っ!? だ、大丈夫ですよ、起きてます、寝てません……って、もう出口じゃないですか!」
「じゃあ俺はこれで」
「あ、待ってください。こんなに一方的に助けてもらったんですから、なにかお礼を……私にできることはありませんか?」
「そう言われても……あ、そうだ。せっかくの機会なので、明日香チャンネルの視聴者のみなさんも、俺の言うことを拡散してください。俺の……星野拓斗の両親について知ってる人がいたら情報をください」
「ご両親の情報……?」
「はい。俺、母親のことは全く知らなくて。父親とは三歳までは一緒に暮らしてたんですが、そのあと消息不明で。二人とも生きてるのか死んでるのか……育ててくれたばあちゃんに聞いたけど本当に知らない感じだった。だから俺は、両親の情報提供を呼びかけるために人気配信者になりたい。もちろん本人が名乗り出てくれたら一番嬉しい。青森県なんて田舎の様子を配信しても人気が出ないと思ったから、高校を出てすぐ東京に来たんだけど……」
〝泣ける話だ……〟
〝大丈夫。三万人が見てる。きっと見つかる〟
〝若いと思ったけど高校卒業したばかりか〟
〝けど青森県で配信したほうがよくね? ドラゴンとかマンドラゴラ見たいわ〟
「青森県の様子なんて見ても面白くないと思うけどなぁ」
「いえ。私も青森県で配信したほうが絶対にハズると思いますけど……というか私も青森県に行きたいです。辿り着けるか分かりませんけど……私が瘴気を越えて青森県に行けたら、コラボ配信しませんか!?」
「明日香さんみたいな人気者とコラボできるなんて光栄です。じゃあ青森県に来たら連絡ください。それじゃあ、また」
〝ラブコメの予感!〟
〝明日香ちゃんマジで顔赤いな〟
〝って、拓斗さん速いから!〟
〝景色溶けてて草〟
〝半分放送事故だな〟
〝言うほど半分か?〟
〝ダンジョン配信用ドローンって余裕で音速出るはずだよな? 拓斗さんにジリジリ引き離されてるんだけど〟
「そうなんだよ。ドローンが迷子になるから本気で走れないんだよな」
〝これでも手加減してるんですか(真顔)〟
〝本当に青森県民全員この強さなん? 世界征服できるじゃん〟
〝さすがに拓斗さんは上位だろ。自分は普通だと思い込んでるタイプ〟
「いや、マジで普通だって。なんて言ってるうちに行き止まりだ……あれ、もしかしてここが最深部か?」
〝新宿ダンジョンの最深部!?〟
〝マジのガチの前人未踏!〟
〝伝説に立ち合ってしまった〟
〝冒険者ギルドの公式アカウントも騒いでるぞ〟
〝海外でもメッチャ拡散されてる〟
〝地面光ってる〟
〝地上へ通じるポータルだろ?〟
〝超高難易度の割に最深部まで来てもなんもないな〟
〝こういうのは辿り着くことに意義があるんだよ〟
「巨大なボスとか宝箱とかあれば盛り上がったんだろうけど……ないものは仕方ない。じゃ、ポータルから地上に戻りまーす」
拓斗は光る地面に足を乗せる。
その瞬間、景色が変わった。
暗い洞窟から一変。
ヨーロッパ風の町並みの中に立っていた。
そこを歩いているのは、明らかに現代人ではない。
中世ヨーロッパというか、ファンタジーRPGに出てくるような服装の者たち。
「な、なんだ、これ……」
〝異世界転移してね?〟
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