第3話:勝つよ
「ルールを説明しましゅ!!」
天井のモニターが切り替わり、文章が表示される。
ゲーム名:「親指ぷちょへんざ!!」
参加者:四名(2ぺあ)
難易度:れべる2
ルール
①握った両手の拳を親指が上を向くようにして前に出し、参加者は全員の手が見やすいように丸く並ぶ。
②1人が「いっせーの」の掛け声と共に数字を宣言する。
③その宣言の声と同時に参加者全員が親指を立てるかそのままにして、立っている親指の数と宣言した数字が一致すれば成功。違えば失敗。
④成功した場合は+1ポイント
⑤数字を宣言した右隣の人が数字を宣言する。
②〜⑤を繰り返して、先に5ポイント獲得したぺあの勝利。
禁止事項
①暴力行為
②一分間数字を宣言しない
「これって…もしかして…」
「指スマだぁ…」
誰しも一度は遊んだ事のあるお手軽ゲーム「指スマ」…普段私達が遊ぶ指スマと違う所があるとすれば、先に5ポイント先取した方が勝つポイント制の所だろうか、難しそうなゲームじゃなくて一安心したのもつかの間、朱雀院さんがある事に気が付く。
「…このルールだと、私と朱里ちゃん、伊黒ちゃんと花咲ちゃん…どちらか片方のペアしか生き残れませんね…。」
「…えっ…?」
朱里ちゃんが「どうして?」と言いたそうな目で朱雀院さんを見つめている、ルール上、先に5ポイント先取したペアが勝利する…つまり私達は、どちらかのペアが負ける宿命にある。私はこうなる可能性を考慮出来ていなかった、他のみんなもきっとそうだろう、ゲームに参加しなければ確実に死ぬという状況下で、ついに見つけたゲーム会場…参加する以外に、選択肢は無かった。
「恨みっこ無し…ね…」
「…そうですね、仕方ありません…」
伊黒さんと朱雀院さんは比較的冷静で、この状況を受け入れている、問題なのは…この私ともう一人の…。
「や…やだ…朱里…やりたくない…」
身体を小刻みに震わせながら、涙目の朱里ちゃんが私達に向けて語りかける。鍵のかかった扉に、残り少ないタイムリミット…今この場でゲームを開始する事は、完全に決定していた。
「朱里ちゃん、落ち着いて下さい…」
「私は貴方を守る…そう約束しました…」
朱雀院さんが優しい口調で語りかける、伊集院さんの目を見た朱里ちゃんが下を向きながら小さく頷く、どうやら、朱里ちゃんも覚悟を決めたようだ。
「伊黒→朱雀院→朱里→花咲 の順番で進めるでしゅ!!」
「制限時間は三十分!!ゲーム開始でしゅ!!」
そう宣言すると、モニターに残り時間が映し出され、一秒…また一秒と時間が過ぎていく。
「…始めるわよ。」
全員が机の上に両手を出して、それを確認した伊黒さんが、早速数字を宣言する。
「…いっせーのーで…さん」
…誰も親指を上げない、伊黒さんは表情を変えずに、朱雀院さんの顔を見る。次に数字を宣言するのは朱雀院さんの筈だが、彼女は何故か数字を宣言せずに、涙目の朱里ちゃんの耳元で何かを囁く、それを聞いた朱里ちゃんは小さく頷き、朱雀院さんが口を開く。
「…では、いきますね。」
「いっせーのーで…」
私の頭の中で様々な思考が駆け巡る、先程は誰も親指を上げなかった、だから今回も誰も親指を上げないかもしれない、朱雀院さんが私と同じ事を考えているのなら…朱雀院さんが次に宣言する数字は「0」…もしそれが的中して、ポイントを取られてしまったら、私は…私達は…死に近づいてしまう…。死にたくない、ただそれだけの気持ちが、私の頭の中を支配する、指を上げなければ…朱雀院さんはきっと「0」を宣言する、私が止めないと…私が……私が…!!!
「…いちっ」
「………え?」
その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。この場の中で、親指を上げているのは私の右手だけ、朱雀院さんは、私の期待を打ち砕いた。モニターの右側に付いていたランプが1つ点灯する、残り4つ点灯すれば、私達は負ける…。
「いっ…伊黒さ…ごめんなさ…ごめんなさっ…」
私はか細い声で伊黒さんに謝る、伊黒さんは冷たい視線で私を見つめた後、何も言わずに自身の指の方を見る。私のせいで相手にポイントを与えてしまった、言葉では言い表せないような無力感と虚無感が私を襲う。朱里ちゃんはそんな私を心配そうに見つめている。
「…朱里ちゃん、貴女の番ですよ」
「う…うん…」
朱雀院さんに声をかけられ、朱里ちゃんが数字を宣言する。私は何とか気を保ちながら、朱里ちゃんが宣言する数字に備えて、指を置く…。
「いっせーのーで…」
また私が指を上げて失敗したらどうしよう、だけど、相手は私が指を上げないことを計算に入れて、低い数字を宣言してくるかもしれない、今の状況で、指をあげているのは私だけ…でも、私の考えが読まれて、それの裏をかかれているかもしれない、分からない、分からない、考えれば考える程…頭の中が混乱して…。
「…ぜろ…」
私は指を上げられなかった、朱雀院さんの方を見てみる…指を上げていない、ダメだ、またポイントを取られてしまった、私が…私に指を上げている勇気があれば…。
「…あら、惜しかったわね」
私は咄嗟に真横を見る、伊黒さんが左手の親指を上げている、間一髪助かった…。
「い…伊黒さ…」
「…集中して!!死にたいの…!?」
「こんな所で諦めないで…!!」
伊黒さんが力の籠った声で私に言い聞かせる、彼女なりに、先程ミスを犯した私の事を心配してくれているのだろう、彼女の持つ荒波から生き抜こうとする力のようなものに、私は不思議と惹かれていく。
「私…頑張る…!!」
忘れていた、どんな時でも、太陽のように眩しい笑顔が私の武器、私はまだ諦めない…まだ…生き抜くチャンスはある…!!!!
…12回目…
現在のポイント
伊黒&花咲 0ポイント
朱雀院&朱里 3ポイント
…次の手番は私だ、数字を宣言しなければ。
「いっせーので…5」
朱里ちゃんが指を一本、伊黒さんが指を二本、私が指を一本上げる、上げられた本数は「4」…あとひとつ、届かない。…もう、無理かもしれない、笑顔が少しづつ、苦笑いになる、苦しい、胸が痛い、死ぬなんて…まだまだ先の事だと思っていた、死にたくない、伊黒さん…私がペアになったせいで、私のせいで…私の…。
「朱雀院、考えたわね…」
伊黒さんが何かに気が付いたかのように顔を上げ、朱雀院さんを見つめる。
「…あら?…何の事かしら…」
「…気付いたのよ、貴女の作戦に…」
伊黒さんが強気な表情で、そう言い放つ、朱雀院さんの作戦…?最初に朱里ちゃんと話した時に、彼女は何かを思い付いて、それを実行していたのだろうか…?
「い、伊黒さん…作戦ってどういう…」
私は伊黒さんに問いかける。
「…簡単なことよ、貴女達は、12回のゲームの内、一度も自分が数字を宣言する時に、指を上げていない…それが不自然だったの」
「…少し考えてみたらその理由がよく分かったわ」
「私達4人全員が両親指を上げたらその本数は「8」逆に全員が上げなければ「0」つまり、私達は「8」~「0」の数字を宣言する…」
「だけど、自分が数字を宣言する際、指を上げなければ、宣言する数字は「6」~「0」に縮まる…」
「もう一人のペアも指を上げさせなければ、「4」~「0」…つまり、指を上げないのが貴女達の作戦…でしょ?」
…希望の光が差し込んだ、伊黒さんは、まだ敗北するつもりがない、私なんかじゃ気付きもしない様な事を、伊黒さんは見つけてくれる。
自分達の作戦を言い当てられたからなのか、朱雀院さんの表情が少し霞む、それを不安そうに朱里ちゃんが見つめているが、次の瞬間…朱雀院さんの表情が変化する。
「…でぇ?それが…?どうしたんですか?」
「私達の作戦を見破ったのは凄いですね…すごいすごーい…うふ…うふふふ…」
「…でも、私達が有利なのは変わりありませんよねぇ…?それに、私達の作戦を見破ったからといって、その作戦を防ぐ方法なんてありませんよねぇぇぇ…?だって、指を上げるかどうかを決めるのは、私達ですもの…!!うふっ…うふふふふふ…」
人が変わったかのように、朱雀院さんが笑い出す、…彼女の言う事は間違っていない、作戦を見つけたのはいいものの、それを打開するための策はない、このままじゃ…ポイント差を付けられている私達が負ける…。
「…伊黒さん」
「勝つよ。」
私の目に光が差し込む、今度は私が、伊黒さんを助ける番だ。
クイーンゲーム あんせる @anseru101
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