第7話「ついに高校生活最後のスタート台」

地方大会の翌日、いつものように学校で授業が始まった。聡美が自由形100Mで優勝したからと言って、これと言ったお祭り騒ぎは無かった。

放課後「誠!聞いて!私、自由形100Mで優勝して全国大会に出場が決まったんだよ」

「あ〜知ってるよ。噂で聞いたから」

「おめでとう。全国大会も頑張れよ!の一言もないの?」

「あるわけないだろう。お前の実力なら当たり前だから」

聡美が嬉しそうに話すと誠は気だるそうに返事するだけだった。

そんな時、聡美が誠に尋ねた。「ねぇ~誠。昨日の大会の時に会場にいて応援してくれた?」

「そんな事あるわけないだろ。俺は、お前と違って頭悪いから受験勉強してたよ」と言い残しノートで頭を軽く小突いて聡美の側を去って行った。

聡美は、全国大会に向けて練習を始めた。部員たちは、大会が終わり気が抜けて騒ぎながら練習している。一応まだ部長なので聡美は注意するが、いつもの様に大声でガッツンとでは無く小声でオブラートに包んだかの様に。部員達は、静かになった。まるで狐につままれる様な顔つきをして。

聡美は、連日全国大会に向けて自分を追い込んで行った。

大会の数日前、疲れてる体にムチを打って授業を受け終り少しボーとしていると誠が側に寄ってきた。

「受験勉強ばかりだと気が滅入るから、気分転換を兼ねて応援に行くから」

そんな事を聞いてハッ!とする聡美から直ぐに誠は立ち去って行ってしまった。

聡美は、嬉しくなり気合を入れ直して練習に臨んだ。しかし、今までの練習と違い水の中では体が軽く感じる様になって行った。

ついに全国大会当日。聡美にとって、泣いても笑っても高校生活最後の大会。そして、優勝して誠に告白する最後のチャンス。

聡美が出場する試合までは、まだまだ時間がある。聡美が出場しない他の試合を見てみると、さすがに全国大会。各地方大会の優勝者が揃っているだけあってレベルが半端なく高い。中には、大会新記録を出す者も。そんな中、観客席を覗いてみると、部員達の応援が来ていた。

しかし、探しても誠の姿は無かった。「おかしいな~ 誠、応援に来る」と言っていたのに。そんな事を思いながら聡美の出場する試合の時間が来た。

まずは、一次予選。聡美は「こんなところで負けるわけには行かない」と気合を入れて臨んだ。

一次予選は、7試合。各試合2位までが予選通過。聡美の一次予選の結果は、2位。なんとか一次予選を通過。

聡美は、一次予選で驚いた。「なんで、こんなに早いの?これが全国大会のレベル?」それは、予選から地方大会の予選とは比べものにならないぐらいの速さだったのだ。

二次予選。二次予選は、2試合。各予選2位プラスタイムで上位3名が通過する。聡美は一次予選で全国大会のレベルの高さ速さを体感した。「一次予選の様な泳ぎをしたら二次予選通過が出来ない。さらに気合を入れないと」と思い二次予選のスタート台に立ち、スターターの合図でプールに飛び込んだ。

序盤、聡美は苦しんだ。それは、周りの選手が早く折り返しまで5位。このままでは、どう考えても二次予選通過は無理。聡美は、気合を入れて後半のラストスパートをした。そして、一人を抜き4位へ。ゴール直前、タッチの差で3位でゴール。2位までは、入れなかったので二次予選通過はタイムで通過できるかどうかだ。しかしなんとか、二次予選通過が出来そうなタイムが出た。

聡美は、バテバテだった。いつもの様にコースロープにしがみついて観客席の応援してくれた人達に手を挙げて答えた。プールから上がり控室に戻る時、プールサイドを歩きながら再び応援してくれている観客席を見た。それは、ラストスパートする直前に誠の声が聞こえた気がしたからだ。しかし、誠の姿は無かった。「おかしいな?空耳かな?誠、来てないと言うことは寝てるな!嘘つきやがって!」とブツブツ言いながら控室に向かった。

控室に戻りしばらくすると、二次予選の結果が出た。聡美は、なんとかタイムで二次予選を通過した。

決勝戦。本当に高校生活最後の試合。聡美は、今までの高校生活を思い出しながら控室を出た。

自分が泳ぐコースに向かう際に観客席を見て応援してくれる人達に向かって手を振った。その際、誠の姿を探した。しかし、誠の姿はない。「あのバカ、本当に嘘つきやがって!」と怒りが込み上げてきた。

ついに決勝戦のスタート。聡美は、いきよいよく飛び込んだ。今までに無いぐらい綺麗な飛び込み。

泳ぎも何か周りの泳ぎと違い、綺麗なフォームで輝いていた泳ぎで序盤は3位に付けた。そして、折り返し。

折り返して直ぐ聡美は、2位へ。決勝戦の聡美の泳ぎは、誠が嘘ついた怒りがパワーになっていた。1位の選手までは、体一つ分ぐらいの差。しかし、中々1位の選手との差が縮まらない。ゴールまで残り25M切ったところで「聡美!行け!ラストスパートだ!行け!行け!」それは、誠の声だった。聡美の耳には、ハッキリと聞こえた。周りの声援の声が聞こえないぐらいにハッキリと。その声を聞いた聡美は、ラストスパートをかけた。

聡美は、グングンとスピードが上がり1位の選手に追いついた。1位の選手も抜かれるまいとスピードが上がる。残り5M。聡美は、追いついた。そして、ゴール。どっちが1位か?会場が静寂に包まれた。

掲示板を見ると、聡美がタッチの差で1位。聡美の応援団は、一斉に声が上がった。聡美は抜け殻になったようにコースロープにしがみついて観客席の応援団に向かって手を振った。観客席の一番前では、誠が両手を思いっきり振っている。聡美はその姿を見て、目をうるませた。

大会が終了して着替えて会場を後にすると、応援してくれた部員たち等が待っていてくれた。

聡美は、キョロキョロと周りを見回した。誠を探して告白するために。しかし、そこには誠の姿が無かった。

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