第6話「幻」
「みんな、各種目・団体戦共に優勝して全国大会に出場目指してがんばるよ〜」聡美は、女子水泳部部長として部員に声をかけた。
ここは、地方大会のプール会場。ここに集まった各校の3年生にとっては、最後の大会になるかもしれない場所。そして、聡美にとっては誠に告白できるかの大会である。
聡美は、個人戦で自由形100M、200Mと団体戦にエントリー。
各種目の個人一次予選が次々に始まった。聡美の学校の女子水泳部の出場部員達は、全ての一次予選は全員が通過した。もちろん聡美も。
団体戦は、予選、決勝戦の2試合だけ。こちらの予選も、聡美の学校は通過した。
個人種目の二次予選が始まった。この二次予選を通過すれば、次は決勝戦。各校の声援が段々と激しくなった。聡美が何気なく応援する観客席に目をやった。それは、誠の姿を探すために。しかし、誠の姿は無かった。
聡美は、個人戦の二次予選をなんなく通過。他の女子水泳部の部員達は、通過できない者も出てきた。
二次予選になると、それなりにレベルも上がり強豪ぞろいになる。
聡美は、部長として予選を通過できなかった者たちの労を労い、通過した者を鼓舞した。
決勝戦が始まった。決勝戦は、全国大会への出場がかかっている。各校、各種目には、エース級が出そろっている。聡美の率いる女子水泳部の部員達は、戦った。しかし、残念な事に優勝した者はいない。
全然、歯が立たなかった種目。後、もうちょいと様々。
そして、ついに聡美の出番。まずは自由形200Mから。序盤と中盤は、力を温存するためにゆっくり目で泳ぎ3位につけた。そして、後半のラストスパートでは2位に浮上。しかし、一描き分足りず2位になってしまった。聡美は、泳ぎ疲れコースロープにもたれかかり応援する観客席を見た。しかし、そこには期待していた誠の姿は無かった。
聡美にとって、個人戦で最後になるかもしれない個人種目の自由形100Mの決勝。
周りは、強豪ばかり。特に先ほど自由形200Mで負けた選手も予選を勝ち抜いて出場している。
ここは、先ほどの様に負けるわけには行かない。なぜなら、優勝して誠に告白するからだ。
スターターのピストルの合図で一斉に飛び込んだ。聡美は、序盤から飛ばした。最初の50Mは1位で折り返した。後半のラストスパート!先ほど200Mで優勝した選手が追いついてきた。聡美は、抜かれそうになる。応援の観客席から「行け!行け!もう少しだ!頑張れ!」と聡美の耳に誠の声が聞こえた。
その声を聞き、聡美は残り10Mを無呼吸で泳ぎタッチの差で1位。優勝した。
ゴール後、苦しさと疲れで呆然とコースロープにつかまり息を整えた。息を整えながら応援する観客席を見ると誠と思われる姿がぼんやり見えた。その後、プールから上がり確認するかの様に観客席を見ると、誠と思われる姿は無かった。「見間違えかな?あの応援の声援は、誠に間違い無いんだけど?」と思いながらプールを後にした。
団体戦が始まる。泣いても、笑っても、これが最後の試合。聡美は、女子水泳部の部長として「出場する者は、全力で!出ない者も自分が出てる気持ちで一生懸命応援するように!」と声をかけした。
団体戦、序盤は5位。徐々に順位を上げて3位に。そして、アンカーの聡美がプールに飛び込んだ。
聡美は、猛烈に泳ぎ前を行く選手に近づいて行った。個人戦の疲れが残っていたのか、残念ながら3位でゴールした。
これで、地方大会は終了した。聡美は、自由形100Mで優勝して全国大会出場が決まった。他の部員たちは、優勝して全国大会に出場は出来なかったが、2位などで殆どの種目で入賞し頑張ったのだ。
聡美は、部員達と共に大会の事や、くだらない話をしながら家路に向かった。途中、聡美はそんな話をうわの空で聞いていた。なぜなら、聡美が優勝した自由形100Mの応援で聞いた声の主は誠と確信していて、誠の姿を探していたからだ。しかし、誠の姿は見つからず告白することは出来なかった。
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