2話:目撃 ~モルモットはかく語りき~

『次の土曜、遊び行こうぜ』


 その日、一ノ瀬いちのせ生馬いくまはチャットアプリで彼女をデートに誘った。


 相手は幼馴染みの彼女:相生あいおい亜子あこ

 元々付き合っている様な関係だったが、先日改めて告白して恋人同士になったばかり。

 当然、生馬いくまとしては「OK」が返って来ると思っていたが、亜子あこの返事は「ゴメン」と手を合わせるモルモットのスタンプ。


『土曜はちょっと先約があって……日曜なら大丈夫だよ』


『マジかー、日曜は俺が駄目だわ』


『え、日曜に何かあるの? 私、何も聞いてないんだけど……もしかして浮気?』


『アホか、ゲームのオンラインイベントだよ。ってか、俺があー子以外の女を好きになるとかあり得ないし』


『❤❤❤❤❤』


 という感じで、まだしばらく続くバカップルの会話はこれくらいにして。



 ~ 土曜日 ~


 午後になり、電車に乗って隣町へとやって来た生馬いくまは、大型書店で漫画を二冊購入。

 その後、喫茶店で漫画を読んだ後、全国的に有名な雑貨店へと足を運んだ。

 特に目的は無く、適当に眺めてから帰路に着くつもりだったが、いざ店内を見て回るとアレコレ目移りしてしまうもので……。


「お、このモルモットのぬいぐるみ可愛いな。あー子が好きそうなやつだ。あ、こっちのモルモットの箸置きもいいな」


 相生あいおい亜子あこがモルモットを好きなことは、生馬いくまにとっては今更の話。

 彼女の誕生日はまだ先だけど、せっかくなのでお土産に買って帰ろうと2つとも購入。

 家が隣なので夜に渡してもいいし、週明けに学校で渡してもきっと喜んでくれるだろう。


 そんなことを考えながら駅に向かった生馬いくまは、ハッと目を見開き、反射的に横の路地へと“身を隠す”。


(え? え? え?)


 状況の理解が追いつかない。

 最初は見間違いかと思った。

 しかし、見間違う訳が無い。


 前方から歩いて来たのは、最愛の彼女である相生あいおい亜子あこ

 何度か見たことのある私服姿で、ニコニコと楽し気に隣の人物と会話している。


 隣の人物――“場違いな執事服を着た長身のイケメン”と、まるで恋人の様に手を繋ぎながら。

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