呼ぶ首 閑話休題

 これからここに記していく怪異には、常に女性の影が付きまといます。

 M晴荘での一連の怪異にも女性が付きまとっていました。

 何かの関連や因果があるのか。

 分からないのですが、少年時代、僕は奇妙なことをある占い師に言われました。

 あれは中学の修学旅行のとき。

 その頃、僕が通っていた中学校では、修学旅行で行く京都で占いをすることが流行っていました。まだテレビで超常現象特集や心霊特集が頻繁に放送されていた時代です。中学生には怪しげな占いが魅力的に思えたのでしょう。

 詳しくは覚えていませんが、京都市内の地下街だったでしょうか。奥まったところに簡易的な仕切りがあり、そこで何人かの占い師が店を広げていました。

 いま思えば修学旅行の中学生相手の、いい加減な商売だったのかもしれませんが、占い料も安かったですし、どこか怪しげな占い師に自分の未来や前世の出来事を告げられるのはとても面白かったのを覚えています。

 僕もお小遣いをはたいて占いを受けました。

 無愛想な、妙齢の女性占い師だったと思います。

 彼女はまず僕の手相を見ると大袈裟に驚きました。

『あたしも長く占いをしているけど、ここまで大きなブツガンを見たのは初めてだよ』

 ブツガン? 

 初めて聞く言葉に僕はポカンとしていました。そんな様子を見て、占い師は説明をはじめました。

『ほら見てみな。親指の第一関節に目玉みたいな手相があるだろ。これは仏の眼と書いて仏眼っていってね、これがある人は霊感が強かったり直感が鋭かったりするんだよ。仏眼自体はそれほど珍しくないけど、両手にここまではっきりとして大きな仏眼を持っているひとは初めて見たよ』

 喜んでいいのか驚いていいのか分からずにいる僕に、占い師はさらに言いました。

『あんたがいつも普通に見ているものは、もしかしたら他のひとには見えていないものかもしれないよ』

 それを聞いて初めてゾッとしました。

 僕が当たり前のように見ているものが、もしかしたらこの世のものではない可能性が急に膨れ上がったのです。

 自分を取り巻く世界が崩れていくような感覚。

 そこに追い打ちをかけるように占い師は言いました。

『それとあんたは女で苦労すると思うよ』

 この言葉こそ中学生の僕には意味が分かりませんでした。中年になった今なら言わんとすることが分かりますが、まだ少年の僕はピンと来ませんでした。

 長らく、この話は笑い話として捉えていました。中学生の男の子に言う占い結果ではないだろうと。

 しかし、最近、違った捉え方をするようになりました。

 仏眼のことに触れてから、脈絡もなく言われた『女で苦労する』という占い結果。

 これはもしかしたら、男女問題のことではなくて、僕に付きまとっている女性のなにがしかのことを言い当てていたのではないか。

 女とは、この世の存在ではない何かなのではないか。

 そう思えるほど、これから記す怪異には女性が付きまといます。

 次は、数十年前に起きた雨合羽の女の話です。

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