呼ぶ首 二

 これから記す奇妙な体験に共通の因果があるのか、それとも個別の体験なのかは分からない。

 ただ、曰く因縁がある木の付近で女性の、こちらを呼ぶ首を見てから頻発しているのは間違いない。

 首を見てから数日後。

 自宅に親戚がやってきた。

 そのなかに未就学の女の子がいた。

 元気よく家中で遊び回る女の子。

 その日は仕事が休みだったから、僕は女の子の声を自室で聞いていた。

 午後になり、買い物に行こうと着替えて部屋を出た。

 玄関に向かう途中で女の子と顔を合わせた。

 女の子が僕に訊く。

『お出かけするの?』

『うん、買い物に行ってくるよ』

 女の子はそれを聞くと二階を見上げて言った。

『お姉ちゃんとは一緒に行かないの?』

 何を言われているのか分からず、僕は言葉に詰まってしまった。

 お姉ちゃん?

 いま自宅には幼い女の子がお姉ちゃんと呼称するような人物はいない。

『お姉ちゃん?』

 聞き返すと、女の子は無邪気に言った。

『さっきアツシの部屋に入っていった女のひと』

 僕も、まわりで聞いていた家族も絶句してしまった。女の子には、こちらをからかっている様子はない。無邪気で、当たり前のことを言っている表情だ。

『二階に女のひとがいたの?』

『うん、二階で遊んでたら知らない女のひとがいてね、こんにちはって言ったら、こんにちはって言ってくれたの。それで、アツシの部屋のほうに行くからね、アツシのお友達って訊いたら、頷いてアツシの部屋に入っていったよ』

 女の子は微笑んですらいる。僕は家族と目を見合わせ、頷きあうと、二階に戻って各部屋を確認した。

 もちろん、知らない女性などいない。

 あらためて女の子にどんな女性だったのか訊くと、髪の長い、雨合羽を着た女性だったという。

 僕は数十年前に、似たような女性と出会っている。

 以前、この怪談でも書いたM晴荘での出来事だ。

 怪異は連鎖し、絡み合い、点と点が不気味に重なり合う。

 僕は一時期、雨合羽を着た髪の長い女性に付きまとわれていた。

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