第44話 宝探し~漆~

「よし、これで8個……先に使われた1つ以外は、全て集めた」


 謎の人物は、ゲートをのぞきながら言った。

 そして、息を吐く。


「にしても……よかった。タイムリミットが伸びたようだな。しかし、そろそろ時間がない……」


 謎の人物はゲートを閉じると、心を落ち着かせるように胸に手を当てる。

 すると、シュウゥゥ……と煙が出て、辺りが真っ白に包まれた。


「………?」


 その場に現れたのは、全く別の人物だった。

 それも……目立った行動をあまりしたことのないはずの———藍沢あいざわ海斗かいとが。


「……また、雷斗らいとが勝手に⁉ おい雷斗らいと!」

「(ん……何だ?)」

「また勝手に外に出た⁉」

「(……黙秘権を主張します)」

「ちょ……」


 海斗かいとが何か口を開く前に、雷斗らいとは眠ってしまったようだ。


「ハァ……。なんかやらかしてなければいいんだけど、ね……」


 海斗かいとは、額の汗を静かに拭った。


 ————


 ガッシャアアァァン!


 ガラスが割れる音とともに、モニターの1つが、完全に粉々になって、砕けた。

 映すものが無くなった画面は、黒く点滅すると、やがて動かなくなる。


「何で……修復できない?」


 朱裏あかりは破片に触れるが、動き出す気配はない。

 いつまでも真っ暗な画面が広がるばかり。


「なにが……あったんですか……?」


 ぼそぼそとした声が後ろから聞こえる。

 朱裏あかりは泣きそうな顔で後ろを振り向いた。


月光げっこうちゃん……どうしよ。ゲームシステムの一部が、破壊された……!」

「それは……たいへん、なんですか……」

「うん、滅茶苦茶大変。だから、すぐにあの方に伝えてくれる⁉」

「わかり、ました……めいれいはぜったいなので……」


 音間おとま月光げっこうは虚ろな目でうなずくと、ドアを再び開けて、早足で去っていく。


 朱裏あかりは、その間何とか修復を試みたが、やはりだめだった。

 どうやらとても強い力で破壊されている。


「……そんな…………!」


 よりによって壊れたのは………「特別イベントルール制御システム」の一部。


 そこが改変されて、宝探しが強制的に終了され、「宝」が消えずに、そのまま残る仕様となってしまっている。


 そして、残った「宝」は、好きな時に使える……!


「これじゃ……焦って参加者と鬼が、宝を奪い合ったりする必要が、ない……!」


 このままでは、作戦の全てが破壊される。


「いや、ここは……」


 慌てるのは得策じゃない。

 朱裏あかりは首を振って、そう断定した。


 慌てず、焦った様子を見せない。

 そして、確実に、一部の人間は必ず殺す……。


 緊張で震える指を握り、マイクを手に取って、「ON」の方にスライドする。


『みんな、聞こえるかな~⁉ 宝がなかなか見つからないみたいだし、独占した人もいるみたいだから……チャンスを残すために、「宝探し」はこれにて終了!

 そして、「宝」は、終了しても残る仕様へと変更しました~!

 だから、持っていない人も、たっくさん持ってる人を見つけて、攻撃して、力づくで奪ってね!

 ゲーム終了までチャンスはあるから、頑張ってね~!

 あ、ちなみに、次の特別イベントはまもなく開催するよっ!』


 言い切って、フゥと息を吐き出す。


「普段通りに……喋れた、かな……?」


 汗は垂れるし、無理やり声を張り上げたせいで、喉がカラカラで痛い。

 無理するのはやっぱりだめだな……と、朱裏あかりは頭をかいた。


 するとそこに、月光げっこうが来た。


朱裏あかりさん……つたえましたよ……」


 何故か、名前のところだけはカタコトではなく、スラスラと、綺麗に発音する。

 しかし、やはり最後の方はカタコトだ。


「ありがとね、月光げっこうちゃん………ゲホッ、ゴホッ」


 喉がズキンと痛み、朱裏あかりは激しくせき込む。

 すると、一瞬だけ、月光げっこうの瞳に、「心配」という感情が映った。


朱裏あかりさん……たいちょう、わるいんですか……? だいじょうぶ、ですか……?」


 朱裏あかりは驚いたように目を見開き、月光げっこうを見る。

 そして、小さく笑った。


「大丈夫だよ……心配してくれてありがと。……月光げっこうちゃんも、大分ショックは改善されてきたね……」


 呟くと、朱裏あかりは椅子にもう一度座り込んだ。

 そして、真剣な表情でキーを叩く。


「絶対に……今度の特別イベントは、成功させて見せるから……。あと少しだけ、時間をちょうだいって、他の人に伝えてきて」

「…………」


 一瞬、月光げっこうは呆けたように、口を閉ざす。

 朱裏あかりがどうしたのかと振り向くと、月光げっこうは、一筋の涙を流した。


 しかし、一瞬で、粉のように消え失せる。


「わかり………ました」


 カタコトに戻っている。


 朱裏あかりは深いため息をついた。

 またモニターに向き直る。


 そして、決意のこもった声を出した。


「絶対に……成功させて、一緒に生きよう。決して……死にたいだなて思わないで」

「……はい」


 月光げっこうはうなずいた。

 ドアが……ぱたりと静かに閉められた。


 —――


「ハッ。なかなか、ゲームマスターも演技がうまいな。はたから聞いたら、普通にルール変更したとしか思えない」


 謎の人物は渇いた笑い声をあげた。


「まぁ………それも、ゲームシステムを破壊した人物に、驚いて、か。……侵入はさほど難しくなかったが」


 宝がキラッと光る。


「多分……死んだ奴らで一番強いのは、こいつだな」


 宝が少しだけ縮んだかと思うと、数字の「3」が刻まれ、謎の人物の手元に戻ってきた。


「で……生き返った気分は?」

「…………」

「ちょ……何で私生きて……」


 謎の人物の前にいるのは、参加者陣営の五十嵐いがらし妖魔ようまと、東雲しののめ香澄かすみ


 謎の人物は、2人がちゃんと生きていることを確認してにいっと笑う。


 瞬間、刃物が、2人の顔の寸前で止まった。

 空気がピリッと固まる。


「いいか。また2度目の死を味わいたくなかったら……俺に協力しろ」


 謎の人物は言った。

 香澄かすみは従うしかないと判断したのか、コクリと頷く。


 妖魔ようまは興味なさげにうなずいた。

 しかし、妖魔ようまの体がボロッと崩れる。


 そして、サラサラと塵になり、どこかへと飛んでいった。


「はっ……? 何で、人が消えて……」

「あ~、やっぱりな。こりゃあ、術者が叩かれた。きっと、体力温存のため戻されたな」


 謎の人物は最初からわかっていた、とでもいうかのような口ぶり。


 香澄かすみは不思議そうに謎の人物に向き直る。


「え……っと、つまりどういうこと?」


 謎の人物は、少し黙ったあと、口を開いた。


五十嵐いがらし妖魔ようまは———生きてる人間じゃない。それに、人でもない。だ」


 静かな風が、2人の間を通り抜ける。


「で……協力しろって、どういうこと?」

「決まってるだろ」


 謎の人物の声は、普通のトーンに戻っている。


「次の特別イベントの対策だ………俺はゲームシステムに侵入して、」


 タブレットを、香澄かすみに見えやすいように出す。

 そこには、次の特別イベントの詳細―――。


「特別イベントの情報を盗んだからな」


 次の特別イベントは———「時が進む」。


 経過時間:1日3時間52分

 残り時間:8日20時間8分


 参加者:50/17(五十嵐妖魔―行方不明)

 鬼:10/7


 てるてる:1/1


 …次の特別イベントまで、3時間8分

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