次の特別イベントまで

第45話 2日目~伍~

「う~ん……『宝探し』終わったのはいいけどな! 俺宝持ってないし!」


 獄ノあんのえん由理桜ゆりあは、1人でつぶやきながら、「花」エリアを歩いていた。


 ツンとした匂い、他にも色々なにおいが充満する中を、鼻に手を当てながら、由理桜ゆりあは立ち止まった。


「はぁ……ここもっ?」


 壊れた建物。

 それは、タブレットの通知を最近騒がせている案件だ。


 全てのエリアに1つだけ存在する、壊されても瞬時に修復される建物。

 それが、ここにもあるとは。


「にしても、やっぱり見つけにくいな! 1つしかないから、俺でも探すのに時間かかるし!」


 由理桜ゆりあのかけている星の飾りがついたネックレスがチカッと光った。

 大きなあくびをして、伸びをする。


「こうなったら……宝持ってる奴を突き止めて、俺が奪うしかないな~!」


 すると突然、花たちがざわついた。

 花びらが全て舞い散ったかと思うと、そこには一人の人物が立っている。


「建物に近づくな……。何が目的だ?」

「ん? 俺?」


 いきなりその人物は、手に水晶玉のようなものを映した。

 一瞬のうちにそれは分裂すると、辺りを大きな鏡のように包む。


「いや別に? 通知にたくさん『壊れた建物』ってワードが出てくるし、気になったから近くの『花』エリアに来ただけだけど、マジで」


 その人物はしばらくきつい目つきで睨みつけていたが、少しだけ何かつぶやくと、うなずいた。


「嘘は言ってないみたいだな」

「にしても、いきなり飛んできたってことは、この建物破壊騒動はそっちのせいってことでオケ?」


 由理桜ゆりあは警戒しながらも、何事もなさそうな口調をつくり、ギャル姿勢は崩さないままでいく。


 その人物は少し黙るが、こちらをうかがうように口を開いた。


「まぁ、そんな感じだ。だが、このことに関しては深くかかわらない方がいい。せっかくここまで生き残ったのに、死ぬことになる」

「―――……」


 由理桜ゆりあも、知っている。

 ここまで生き残るために、どれほどの人物が死んでいったか。


 すると一瞬、その人物が何かに感づいた……ように見えた。


「…………お前」

「ん? 何?」

「………鬼陣営だな?」

「は?」


 いきなり突拍子もないことを言い出されて、由理桜ゆりあは困惑したような表情を浮かべる。


「えぇ? 何でそんな話に? マジで。それに、俺は宝を探しに———」

「宝を探しに来るのは逃走者陣営だけじゃない。鬼陣営だって、復活は望んでいるはずだ。

 それから、逃走者の通信を見れているってことは、もともと逃走者陣営なんだろう。そして———とあるところから掴んだ情報では、本物の裏切り者は、『裏切り者を増やすことができる』んだ。


 きっと……裏切り者になったとしても、ゲーム能力は変わらず使うことができるんだろう。


 だから、ゲーム能力『鳥』を使ってわざわざ襲われている石風いしかぜ菜衣希ないきを助け———。


 人間の心理を利用し、『獄ノ闇由理桜は参加者陣営』という偽情報を刷り込ませたんだ」


 由理桜ゆりあはしばらくポカンとしていたが、はじかれたように笑いだした。


「アハハハハ! まさか、倒せる敵陣営を救ってまで情報を入れたのに……これじゃ意味ないわ、マジ」


 由理桜ゆりあはその場から飛びのいた。


「まぁ、お前は強そうだしね。だから一旦退いて、仲間連れて真っ先に殺――」

「おい」


 次の瞬間には、その人物の声と目に、闇が宿っていた。


「退かせるとでも思ってるのか? なら甘いな」


 ブシュッ!


 足に切れ目が入った。

 驚いた由理桜ゆりあは、痛みで地面に座り込む。


「お前は今ここで殺す」

「……ちっ……! レべチに挑むのって、マジでだるいわ……!」


 体勢を整えると、次に飛んできた攻撃を、寸前で由理桜ゆりあはかわした。

 そのままくるんと空中で身をひるがえすと、瞬きの隙に、その人物の後ろにまわった。


 背後をとる。


「『氷石化』!」


 振り上げた足が、その人物を蹴った。

 パキパキッ……!


 音をたてて、その人物は氷となる。

 固まって動けなくなったところを、由理桜ゆりあの蹴りが飛ぶ。


 ドガッ!


 衝撃音がしたかと思うと、氷は粉々に砕かれていた。

 ホッと由理桜ゆりあは安心する。


「ハァ……体力使い過ぎてだるい……。ちょい休みて……」


 背後からは、気配がしない。

 どうやら本当に、その人物をあっさり倒せたようだ。


「さて……空中公園へ報告に戻らないとっ……」

「邪魔、」


 冷たい声が響いた。


「するな」


 血が飛び散ったかと思うと、輪を描いて由理桜ゆりあを縛り付ける。

 そこに、あの鏡のような水滴が垂れた。


「グッ……なにこれ、はずれな……!」

「だから、」


 その人物は冷たい目で由理桜ゆりあを見下ろす。

 その額には——“ツノ”が生えていた。


「深く関わるなと言ってんだよ。こっちは言ったはずだ。――もう遅い」


 グシャッ———。


 そのまま、血の檻は縮まっていって、由理桜ゆりあを縛り付けたまま圧迫しさせた。ツノがシュゥゥ…と音をたてて、煙に包まれなくなる。

 破裂した影響で、臓器などが飛び散っている。


 それを顔色も変えずに見下ろすのは——。


「あれ? 誰か殺されてる? あっ、この重症だと助からないよね……」


 —―藍沢あいざわ海斗かいとだった。


 経過時間:1日4時間14分

 残り時間:8日19時間46分


 参加者:50/16(五十嵐妖魔―行方不明)

 鬼:10/7


 てるてる:1/1


 次の特別イベントまで、残り2時間46分

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