-閑話- 巻き込まれる能力者

 ドサッ……。

 乱暴に地面に叩きつけられた記憶を最後に、1人の少女は目を閉じる。


 そして、次に目が覚めた時には、全く知らない場所だった。

 周りも知らない人ばかり。


「……何が……?」


 少女は一言だけつぶやくと、すぐに口を閉ざした。

 まるで、「これ以上しゃべってはいけない」かのように。


 改めて、少女は周りを見渡す。

 一見した感じ、ここに集められているのは、だけのようだった。


 何故なのか……それは分からないが。


「強い力感じる………」


 少女はまたつぶやく。

 すると、1人の幼い少女が、耐え切れないように大声で泣き始めた。


 それに反響するように、周りに泣き声が広がっていく。

 すると、シュパッと音がして、その少女は切られた。


「……は?」

「なきわめく、ころす……。さわぐ、ころす……めいれい………」


 少女は声のする方を振り返った。

 いつの間にか、部屋の中心にはひときわ背の高い人物がたたずんでいる。


 サイズの緩いパーカーを羽織り、黒い服の上に薄いベージュの服を重ねて、ベルトをつけている。

 パーカーのフードをかぶり、目はうっすらと開いているが、感情が感じられない。


 これまた緩い、長い靴下をはき、淡く光るネックレスを二重に首から下げ、耳には丸い飾りのついたイヤリングをつけていた。


 フードについている布には……「6」の数字。


 フードからはみ出して揺れる先が水色の銀髪は、どこか寂し気な雰囲気をまとっている。


 ゲームマスターの№6……音間おとま月光げっこうだ。


「……さわいじゃ、ダメ……」


 言った瞬間に、ピタリと泣き声がやんだ。

 いや、違う。


 泣いていた少女全員が動きを止めている。

 まるでそこだけ時間を止められたかのように。


 起きたばかりの少女も、体を動かそうとしたが、動かない。


「………うるさかったのは……あいつと、あいつ……それとあいつ……」


 指をさしていくと、まるで銃殺でもされるかのように、頭に穴が開いて、少女たちは殺されていく。


「しずかに……なった」


 言った瞬間、少女たちの体から力が抜ける。

 体が自由に動くようになった。


 まるで、あの女に……動きを支配されているみたいだ。


「せつめい………したほうがいい?」


 月光げっこうは、耳につけている機械に向かって話しかける。

 しばらくしてから、月光げっこうはまた口を開く。


「……だいじょうぶ。うるさくしなければ………ころさない。さいこうで、あと8にち……まつの」


 月光げっこうは言葉の分からない幼い子供のようにぎこちなく話す。

 見た目は成人女性と同じくらいなのだが、感情のこもらない不自然な、未完成の「言葉」のアンバランスさ……。


「まってくれれば……かいほうしてあげる。だから……しずかに、まってて。そとにつうほう……できないから。じゃあ……ね」


 また一瞬、時が止まっているかのような、奇妙な感覚に襲われる。

 体が再び自由になった時には、月光げっこうは姿を消していた。


 そこで、連れてこられた五十嵐いがらし藍那あいなはフッと笑う。

 人混みから離れ、能力の力で、自分から出る「音」をゼロに調節する。


「悪かったね、ゲームマスター……私は今回も、


 デスゲーム「鬼ごっこ」が始まっている中――裏ではすでに、次の準備も進められている。


 全てを犠牲にする思いで——。



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