第42話 宝探し~伍~

「ん? 俺は……何で、生きてるんだ?」


 夜流よるはしらは、「山」エリアから少し離れた場所にある、鬼がスタートしたところとはまた別の空中公園で目を覚ました。


「あれ……頭も痛くない。あいつに……銃で、頭を撃ち抜かれたはずなのに……」


 末田すえだ美良みらの強さと残虐さ、そして、だんだんと死んでいく自分の意識を思い出して、身を震わせる。


 あれは一生もののトラウマになるな……と、はしらは息を吐いた。

 すると、はしらの後ろから、亜沙あさ……生前の名前、くれない亜沙あさが出てきた。


『よかった……夜流よるくんが生き返って……』

「あぁ……あの記憶は消したいが、結果オーライ、だな」


 はしらがタブレットを見ると、復活イベントの情報が書いてある。


 読み終わると、またフゥ、と息をつく。


「何か……すごい情報量多いな。だけど、要するに誰かが復活させてくれたってことだな……」


 生き返れてよかった。

 とりあえずはしらは、その気持ちを噛みしめた。


(にしても、俺の脱落はきっとタブレットで知らされているだろうが、近くで見たのは……亜沙あさはくくらいだな。

 亜沙あさは能力を通さないと現実に干渉できないから、はくが生き返らせてくれたのか?)


 はしらは疲れたように座り込み、タブレットからはくへ通話しようと、ボタンを押した。



 ———



「何で……建物が、破壊され………?」


 伯真はくまは、独特な黒とも白ともいえる髪を揺らして、映像を切った。


 あの身のこなしは、普通の能力者の域ではない。

 ゲームマスターレベルとしか……。


朱裏あかりも、能力者を鬼側に紛れ込ませちまって、少しは反省してるはず。それに……認めるのは癪だが、強いしな)


 伯真はくまは、ゲームマスター№7。

 朱裏あかりは№5なので、伯真はくまより強いのだ。


 そんな朱裏あかりが、ミスを連発するとは考えにくい。


 何か、見落としているところが、こちら側にあるというのだろうか。

 そう———我々が見つけ切れていない「欠陥」が。


 すなわち「抜け道」「穴」。

 なんとしてでも、それを見つけなければならない。


 この計画が頓挫したら———。


「復讐の機会が、奪われてしまう、からな」


 伯真はくまは、自分の周りに浮かぶ黒い円、そしてそれに乗っかる黒い玉を鬱陶しそうに見つめた。


「―――ったく……神も、厄介な枷をつけてくるな」


 これは、伯真はくまは触れることができない。

 だが、近くで巨大なエネルギーを感知すれば、瞬く間に伯真はくまに巻き付き、爆発して伯真はくまを殺す。


 もうすでに、この呪いをかけた神は殺されているが、この呪いは、伯真はくまが死ぬその時まで離れない。


 しかし、それなら能力を使わなければいい話だ。


 背中にしょった大きな刀を、無言で伯真はくまはそっと撫でた。



 —―――



「………………」


 相変わらず黒いマントをかぶっている。

 そして、1人の時でも決してしゃべろうとしない。


 そんな謎の存在。

 霧雨きりさめ青龍せいりゅうは、どこから現れたのか、何歳なのか、全てがわからなかった。


 ただ、ひとえに強い、ということくらいしか。


 その口元はずっと笑みしか浮かべず、何百年も前から、「少年」という姿。

 異様な気配を感じさせられる、光のない片目と少し濁った蒼色の髪は、ずっと変わっていない。


「…………」


 青龍せいりゅうの周りに小さな火花が散ったかと思うと、小さな花火を上げた。

 そして、火の玉として形を作ると、その火の玉は口を開けてケタケタと笑う。


 一言で言い表すなら、「不気味」。

 明らかに異様。


 人間なのか不思議に思えてくる。


「ん~……なかなかつかないね、『花』エリア」


 遠くの方から、誰かの声が聞こえてくる。


「そうだね。結構遠いはず」

「……って、伏せて!」


 どうやら2人のようで、1人が危険を感じて叫ぶ。

 気づいたもう1人も慌ててしゃがみ、何とか攻撃をかわした。


 ビュッ!


 その「刃」が通ったところの木が、いとも簡単にスパスパと切れていく。


「誰……?」

「もしかして、鬼陣営?」


 恐る恐る近寄ってきたのは、かなでめいかなで裏音りおんだった。


 2人とも気配察知に長けているため、すぐに攻撃に気づいた。


「…………」


 2人が初手をかわしたことに気づいた青龍せいりゅうは、少しだけ口角を上げる。

 その時ようやく、2人は青龍せいりゅうの異様な雰囲気に気づく。


「…………」


 何の動作もなく、三重に重ねられた目に見えない斬撃が、光の速さで飛びぬけていく。


「キャッ………」


 流石に能力「倍視覚」と「倍聴覚」があるとはいえ、近距離で放たれた光の速さの真空の斬撃をかわすのは無理だ。


 2人は死を覚悟する。

 そこに飛んできたのは。


「何か邪悪な気配感じて見れば………戦いか」

『颯爽と来て、一瞬で敵を倒しちゃう七柱しちばしら様もかっこよ!』

「お世辞はそれくらいにしてくれ」


 参加者陣営、七柱しちばしらシロ。

 そして、片手には日本刀。


 気づくのが遅れた青龍せいりゅうは———肩からざっくりと斜め切りにされていた。


「……っ、あ、ありがとうございます……」


 突然の乱入、それに目の前のグロテスク描写に声がかすれながらも、めいがお礼を言う。


「まぁ、仲間を失うわけにいかないからな。ここは倒したから、さっさと———」


 瞬間、シロの後ろに常にいた少女が、声を荒げる。


七柱しちばしら様!』

「……っ⁉」


 ドンッと、シロが突き飛ばされる。

 そこに、斬撃が飛んできた。


 当然、シロをかばった少女は、もろに斬撃を喰らう。


「‼ おい⁉」

『だ、大丈夫です、七柱しちばしら様……休めば、治ります……』


 少女は苦し気にそういうと、サラサラとどこかへ消えていく。

 いつの間にか、シロが「解除」と唱えていた。


 シロの能力によって、生み出されていたものらしい。


 それは当然だ。

 シロの能力は「妖精」。


 自分で想像した妖精を生み出し、戦ってもらったり、能力を増やしたりできる、とても強い能力なのだ。


 そして———斬撃を飛ばした張本人、青龍せいりゅうは、まだ生きていた。


 それも、口から血が流れているのに、笑ったまま。

 目に揺らぎもなく、別に体が斬られたことをなんとも思っていない様子。


 簡単に言えば、感情が何も感じられない。


 その不気味な笑みを絶やさないまま、青龍せいりゅうは一回だけ、髪で隠されていない片目をつぶった。


 一瞬の瞬き。

 本当にそれだけだったのに。


 青龍せいりゅうの深い傷は、治っていた。

 地面に落ちていた手も、青龍せいりゅうがもう一本の腕で胴体にくっつけるだけで、まるで人形のようにくっつく。


 何度か動かして問題ないことを確かめると、青龍せいりゅうはシロの方へ向き直った。


 勿論、笑顔のままで。

 感情がこもっていない———笑顔のまま。


 経過時間:1日3時間11分

 残り時間:8日20時間49分


 参加者:50/18

 鬼:10/7


 てるてる:1/1


 復活イベント終了まで、残り4時間49分

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