第41話 宝探し~肆~

 この異常に広がったフィールドの中心に位置する、「孤島」エリア。

 その名の通り、大きな湖に小さな島が浮かんでいる。


 少しだけ木が生えていて、中心に小さな建物がある。


 どんな攻撃を受けても受け流しそうなすべすべとした壁。

 その壁に………巨大な風穴があいた。


 すぐに壁を修復しようとリカバリーシステムが働くが、それすら追いつかせないほどに亀裂が入る。


 そして、しばらくして。


 ドガァァアン‼


 建物は一瞬で破壊された。

 そこにトッと静かに着地した人物が、崩れた建物の残骸に目を落とす。


「……探しにくいな………」


 その人物はぼやくと、また一瞬で、その残骸をさらに細かく、ただのちりのように切り捨てた。


 そこから迷わずに光る物を取り出すと、ポケットに無造作に突っ込んだ。


「……あ。………このままだと、ばれるな」


 呟いたその人物は、指で丸を描いた。

 その中に、ポイッと光る物を入れる。


 光る物は、「宝」だった。


「孤島」エリアに隠されていた、宝だ。


 宝は円の中に入ると、そのまま円は縮まって、宝は中に収納された。

 その人物は満足そうに腰に手を当てた。


「これでよし………かな」


 そう言うと、地面を蹴って、空中に浮かび、瞬間移動のように素早く去っていった。


「さて、次は……『花』エリアか。『森林』エリアは逃したが、まあ二人復活したしいいだろ」


 チラッとその人物は横を見た。

 すると先ほどの円が浮かび上がる。


 その奥に開いた穴のような場所にはすでに、4つもの宝が入っていた。

 そしてすでに、その人物は、宝の隠された5つの建物を破壊している。


 被害を最小限に抑えるためだ。


「……。さて、時間もない。タイムリミットまで……あと20分ってとこか」


 復活イベント「宝探し」は、1日8時間という時間が経過するまで続く。

 まだ、経過時間は1日2時間36分だ。


 5時間24分も時間があるのに、タイムリミットは20分。


 その矛盾した言動を気にすることもなく、その人物は「花」エリアへと走っていった。



 ———



「なんだ……これは」


 鬼陣営、佐野さの竜介りゅうすけは、壊された建物の前に来ていた。

 ひどく粉砕されているのを見て、顔をしかめる。


 鬼陣営から連絡もないので、きっと参加者陣営が取り去ったんだろう。


 破片の一つを持ち上げて、思いっきり力を入れてみる。

 すると、パキッと普通に折れた。


 しかしその瞬間にくっつき、修復していく。


 脆いが、すぐに修復して人を通さない仕組みのようだった。

 だが、このように壊されている。


「誰が、こんなことを……?」


 とりあえず、竜介りゅうすけは鬼に連絡することにした。


「……つながったか。確か、久美くみ……だったか?」

『そうだけど』


 桜庭さくらば久美くみの、どこかそっけない声が聞こえてくる。


「こっちは『氷』エリアだ。そこにたった一つあった建物が、破壊されている。そして、その建物の破片を壊してみたが、すぐに修復する。

 恐らくだが、参加者陣営に相当な手練れがいる」


 言い切ると、久美くみは少し無言になり、ちょっと経ってから返事をした。


『分かった。私からも伝えるけど、よければその情報を鬼全員に伝えてほしい。そして、各エリアを回って、その「手練れ」の正体を掴んでみる』

「了解だ」


 竜介りゅうすけが言うと、ブツリと音がした。

 どうやら、すぐに通話終了をさせられたらしい。


「……誰なんだろうか、本当に」


 少し思案してみてから首を振ると、竜介りゅうすけはこのことを他の鬼にも伝えるため、もう一度タブレットを覗き込んだ。


 経過時間:1日2時間46分

 残り時間:8日21時間14分


 参加者:50/18

 鬼:10/7


 てるてる:1/1


 復活イベント終了まで、残り5時間14分

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る