第40話 宝探し~参~

 はくがつぶやくと、いきなり周囲に霧が立ち込めた。

 真っ白で、何もかもが見えなくなる。


 途端に、セイナは不安に襲われた。


 相手は本気で、こちらを潰しに来ている。

 それに、やっと気づいたからだ。


 戸惑っているのは、こちらだけ。

 相手は、手段を択ばない。


 フッ……と、セイナの目の前に影が映った。


「‼」


 とっさに、セイナは体をひねらせる。

 すると、はくがいきなり飛び込んできて、セイナに向かって蹴った。


 間一髪でそれをかわす。

 はくは壁にぶつかった。


 目を凝らしてそちらの方を見ると、壁にはヒビが入り、軽く穴が開いている。


「ひっ……!」


 はくの姿が、途端に恐ろしく見え始める。

 このよくわからない場所も怖いし、他人を犠牲にしなければならない、そのルールを次第に飲み込み始める自分も怖い。


 何もかもが……―――デスゲーム自体が、恐ろしい。


 それは最初から分かっていたことだが、こんな時に改めて実感するなんて。


 セイナは腰が抜けそうになったが、必死に踏みとどまる。

 はくは外したことを理解し、すぐにセイナの方へ向き直った。


「っ………!」

「……外された…」


 はくはすぐに追撃にかかる。

 セイナは覚悟を決めて、能力を使った。


「『星結界』!」


 ブウン……と、音がしたかと思うと、はくの腕に、キラキラと光る星が絡みつく。


「……?」


 はくが手を動かそうとするが、星に邪魔される。

 セイナの能力「星結界」は、このように相手を妨害することもできる。


 はくはこれがセイナの仕業だということに気づいたのか、グッと腕に力を込めた。


(……まさか、力づくで引きちぎるつもり……⁉)


 すると、ピシピシッと星に亀裂が入り始める。

 割られる———!


 セイナが構えた瞬間に、バキンッ!と音がして、「星結界」の応用技、「星枷」が壊された。


「……本当に壊されるなんて……どんな握力してるのよ⁉」


 はくは手を広げたり縮めたりを何度か繰り返すと、またセイナにとびかかった。


「……!」


 セイナにできることといえば……自分に「星結界」を発動させることだけ。

 星を組み合わせて、バリアを作る。


 急に動きを阻まれ、はくは後ろに下がった。


(どうすれば……このままじゃ、防戦ばっかりに……!)


 どんどん防御が削られていくのを見て、セイナが死を覚悟した時―――。



 —――ドガンッッッ‼


 凄まじい、壁が崩れる音が響き、セイナが一瞬そちらに意識を向けた瞬間、建物は塵となって崩れ去った。


「……⁉ な、何が起きた、の……?」

「そ、そうですね……」


 はくも正気に戻り、攻撃をやめている。

 すると、崩れ去った建物の中から、光る結晶が飛び出した。


 それはまばゆい光を放っており、小さなハート形……。

 これこそ、本物の「宝」だ。


「………あれが……」


 セイナが見とれていると、はくが素早く動いて宝を掴む。

 そして、すぐにつぶやいた。


「参加者陣営の夜流よるはしらさんと、夕闇せきらと猫桜ゆゆさんを———復活させてください」


 宝は、空へと浮き上がると、ぼんやりと淡く光る魂のようなものを取り出し、外へと放った。


 ぽわっと音がすると、「ピロリン♪」とタブレットに通知が届く。


『参加者陣営<夜流よるはしら>復活』

『参加者陣営<夕闇せきらと猫桜ゆゆ復活』


「……よ、よかった、です……」


 通知を確認したはくはホッと息をついた。

 力を2回使った「宝」は、ハート形の中心に「3」という数字を刻み込み、はくの手元へと降りてきた。


「あ……えっと、どなた、ですか」

「え。わ、私?」


 はくはおどおどとセイナに名を尋ねた。

 セイナは戸惑いながら言う。


「私は相田あいだセイナ……だけど」

「あぁ、えっと、相田あいだ、さん」

「セイナでいいよ」


 やたらかしこまっているはくに、慌ててセイナが声をかける。

 はくは息を吐くと、


「セイナ、さん。ぼ、僕は復活させることができた、ので。この宝は、セイナさんが、使ってくれると。………で、では」


 一気に言って、セイナに宝を握らせると、どこかへ立ち去ってしまった。


 さっきまであれほど怖く見えた存在のはくが、こんなにも臆病だなんて。

 ちょっとセイナは笑って、その宝石をしまった。


 復活を望んでいる人物を見つけるまで——これを見て、ちょっと笑おうと、思ったから。



 —――



「な、なんで……建物が破壊され……」


 二人の小柄な少年が、モニターを凝視していた。

 何も、おかしなところはなかったはず。


 しかし、突然にして壁に穴が開き、一瞬のうちに建物が破壊されていた。


 この復活イベントの要となる存在の、「宝館」が。

「宝館」に、全ての宝は隠されている。


 そこで、2人に争わせて、少しでも強い人材を減らして、すぐにゲームを終わらせるのが、運営の目的だった。


「僕ら二人でも……それは流石に無理だね」


 もう一人の少年がつぶやく。


 2人はゲームマスター側。

 巨大化させる斧を武器に、近接戦闘が得意な明石あかし快晴かいせい


 敵を移動させたり、仲間を瞬間移動させたりできる万能サポート役、明石あかし晴天せいてん


 2人は双子だ。

 快晴かいせいが兄、晴天せいてんが弟。


「う~ん……参加者側にそんな強者がいるんだったら、こんなデスゲームに強制参加させられないと思うけど」


 快晴かいせいは頭を悩ませる。

 そんな快晴かいせいを見て、晴天せいてんも注意深く、動画をもう一回再生するが、やはり突然壊れたようにしか見えない。


「誰がこんなことを……」

「もしかしたら……」


 快晴かいせいが、真面目な表情で、晴天せいてんにしか聞こえない声でつぶやく。


「僕たちは……はめられたのかもしれない」


 その言葉と同時に、一つだけ壊された監視カメラの画像が一瞬修復された。

 しかし、すぐに砂嵐に戻る。


「どうしたんだろ、このカメラ」


 これじゃ、観察できない参加者も出てしまう。

 晴天せいてんは、黙ったまま、そのカメラと視線を合わせた。


 経過時間:1日2時間4分

 残り時間:8日21時間56分


 参加者:50/18

 鬼:10/7


 てるてる:1/1


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る