第7話 1日目~参~

 そして、裏切り者が陰で動いている時。


 桜庭さくらば美晴みはるが離れたため一人ぼっちになった藍沢あいざわ海斗かいとは、とある人物に遭遇していた。


 身長は150㎝くらいで、右目が長い前髪で完全に隠れている。

 フード付きパーカーを着て、首には星の飾りのついたネックレス。


「……誰ですか?」


 海斗かいとは聞いてみたが、返事がない。

 しかし、その人物の隠れていない左目には、強い光が輝いている。


 何かとてつもない強さを感じ、海斗かいとは一歩後ろに下がった。


「……質問の答え。あたしは百合梨ひらなり朱蘭しゅらん。言っとくけど、協力する気はないよ」


 その言葉を言った後、朱蘭しゅらんは指を一本立てる。


「あたし、仲間は一人に限定だから。で、その一人はもう決まってる」

「じゃ、じゃあ僕には何で……?」

「決まってるだろう」


 朱蘭しゅらんはにやりと笑みを浮かべる。


「殺すため」

「鬼陣営なんですか?」


 海斗かいとはドキドキしながらも、逃げる時間を稼ごうと質問を続ける。

 そんな海斗かいとにイライラしたのか、朱蘭しゅらんは口調を早くする。


「そうに決まってる。ていうか、あたしは裏切り者。あ~、もうどうせお前は死ぬし、いいよね」


 朱蘭しゅらんは面倒くさそうにフードをいじる。


「裏切り者の、ゲーム能力説明に書かれていない力で、あたしは裏切り者になった。これでいいだろ?」


 朱蘭しゅらんの顔がフッと真剣になって、構えをとる。

 海斗かいとも口を引き締める。


「まあ、お前は死ぬけどね。簡単な実力差。お前は弱くて私は強い。ただ単にそれだけの話」


 そして、朱蘭しゅらんの姿が消える。


「瞬間移動」


 その時、朱蘭しゅらん海斗かいとの目の前にいた。

 そして、海斗かいとの腕に少しだけ嫌そうに触れる。


細胞停止ライリレム・ストップ


 朱蘭しゅらんは、能力を珍しいが5つ所持している。


 一つ目は、「瞬間移動」。

 二つ目は、「白眼ヒアリアル」。遠くを見ることができる。

 三つ目は、「心理眼」。心を読む。

 四つ目は、「弱雨じゃくう」。相手を弱らせる。

 そして五つ目……「細胞停止ライリレム・ストップ」。


 五つ目の「細胞停止ライリレム・ストップ」は、触れた相手の全細胞を強制的に停止させる。


 そして、海斗かいとは———。


「ん? 今何かした?」


 普通に、生きていた。


「なっ………!」


 朱蘭しゅらんが急いで、海斗かいとから離れる。


「だ、大丈夫? どうかしたの?」


 海斗かいとがその朱蘭しゅらんの様子に驚き、朱蘭しゅらんの肩を掴んだ。


 その瞬間、朱蘭しゅらんが顔色を変える。


「あたしに触んな!」


 ものすごい力で、海斗かいとの手を振りほどく。

 そして、ハアハアと息をして離れる。


 海斗かいとの頬は、朱蘭しゅらんが腕をまわしたので、薄くピッと切れていた。

 そこからツーッと血が出る。


 すると……いきなり海斗かいとの雰囲気が変わった。

 どす黒いもの。


 そんな表現が一番合っていた。


海斗かいとを傷つけるな」


 低い声で、朱蘭しゅらんを、海斗かいととは違う何者かが脅す。

 朱蘭しゅらんはその声を聞き、生存本能を感じ取った。


 何か自分は———触れてはいけないところに触れた。


 一瞬にして、強いからこそ朱蘭しゅらんは感じ取った。

 ここから離れることが最優先。


 朱蘭しゅらんは心の中で能力を発動させる。

「瞬間移動」を。


 <裏切り者視点>

「……おっ」


 朱蘭しゅらんが帰ってきた。

 しかも、こんなに早くに。


 どうしたのかな?

 今、全員を「裏切り者」へと変換させて、全員ハッピーエンドっていう計画実行中なんだけど……。


 まさか、失敗した?

 ただ単に、出席番号順で言ったら一番最初の「藍沢海斗」ってやつを気絶させようとしただけなのに……。


「どうしたの?」

「あれ、あたしより強い」


 予想通り、朱蘭しゅらんの疲れたような声。

 そして朱蘭しゅらんは、耳元に着けてくれていた盗聴器と小型カメラを渡してくれた。


 ……びりびりと感じた。機械越しでも。


 はっきりとわかる威圧感、圧迫感。

 ここから出て行かなければ殺される、それが一瞬でわかるような低い声。


「……よ~く分かったよ。じゃ、次はこいついって」


 私が名簿を見て思ったのは……この、わけわかんない「海」ってやつ。


 海が名前なのかな?

 それとも偽名?


 謎だらけだ。


 出席番号順に行くのも悪くないけど、それだと警戒されるかも。


 だから、ランダムで襲う。

 そして、気絶させた奴らを、朱蘭しゅらんに、私のところへ持ってきてもらう。


 それで……。


「私はよく失敗するけど……今回は、必ず成功させるから」


「ね?」と、私は鬼陣営の人たちを振り返った。


「これならだれも苦しまないから」

「いいと思うよ」


 そっけなく言ったのは桜庭さくらば久美くみちゃん。

 前髪辺りに付けた月の髪飾りが、そういった瞬間揺れて、強い光を放った。


 その時、久美くみちゃんの様子が一変し、私を睨む。


「だけど、あいつだけは殺させて。桜庭さくらば美晴みはる。私の姉だけは」

「! 苗字同じだなって思ってたけど、やっぱり姉妹⁉ じゃ、何で殺すって……」

「決まってるでしょ」


 久美くみちゃんは、私の質問を鼻で笑った。


「あいつが、私を殺そうとしてるから。降りかかる火の粉は払わないと。返り討ちして、根源を止めてあげなきゃ」


 久美くみちゃんは不敵な笑みを浮かべて、名簿の「桜庭美晴」の文字をなぞる。


「待っててね。今からすぐに、この名簿から名前を消してあげるから」


 こうやって、私たちの計画は、裏で進んでいる———。

 刻々と、ね。

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