第6話 1日目~弐~

「手を上げな!」


 その頃。

 一人の女が、参加者を脅していた。


 そこは広場で、大勢の参加者が集まっていた。


 大勢、と言っても数人。

 それでも、固まっていると見つかりやすくなるため、珍しいことだろう。


 6人くらい、広場の隅々に散らばっている。

 そして真ん中に立った女が全員を脅している。


「私は『殺人鬼』! 動いた奴から……殺す」


 女の名は歌木うたぎ砂良さら

 ゲーム能力「殺人鬼」。能力「氷柱」。


 他の参加者は脱落……殺されるのを恐れ、固まったまま動かない。


 しかし一人が手を素早く死角で動かし、能力を発動する。


「桜!」


 その動きに呼応し、その手から桜が生まれて、辺りを包み込んで見えなくする。

 そして桜の動きを素早くし、砂良さらが一歩でも動いたら切り刻めるように用意した。


 しかし砂良さらは落ち着いた様子で、自分の能力を解く。


「氷柱」


 すると一瞬で辺りに太い氷の柱が地面から生えて、桜をピンポイントで突き刺し、意味をなさなくする。


 その間にも氷の柱は分裂し、細く小さくなって、ついにはすべての桜を空中に突き刺した。


 砂良さらは能力を解除して、桜ごと氷の柱を消した。


「え~っと…あいつか。無駄な抵抗したの」


 そして、桜を生み出し操る能力を発動した男……七里しちざとたけるを射程範囲にとらえ、


「氷柱」


 無慈悲に背後から、背中を突き刺した。


 突き刺され悲鳴を上げることすらも叶わないたけるは、力尽きたかと思うと、サラサラと消えていく。


 脱落した人間はこのようにして現実から消えるようだ。


「さて、どうすんの? 抵抗したら、こんな感じに全員殺されちゃうよ?」

「あ、どうも。っていうか、私たちのセリフとらないでくれます?」


 瞬間背後にいたのは、鬼陣営、朝蔵あさくらリンネ。


「ほいタッチ」


 リンネは手を伸ばしてすぐさま砂良さらを脱落させる。

 サラサラと消えていく。


「ヤッホ~! 逃走者さんたち、捕まえに来たよっ!」


 その後ろから虹沢にじさわももも出てくる。

 逃走者の方は突然現れた鬼に驚き、ざわめく。


「あれ、悠長にしゃべってていいの?」


 すると、リンネの姿が霞み、消えた。

 そして一瞬で、ある参加者の後ろに回り込む。


「私の鬼能力は『瞬鬼』。目に見える範囲なら、どこにでも飛べる。ワープできる。じゃ、タッチ。………二人目」


 その人物も消えてしまった。

 もう大抵の逃走者は逃げまどい、能力を使って身を隠している。


「ほんと、能力ってズルいよねぇ~! でもさでもさ、」


 ももは怒りながらも、自分の鬼能力を発動させた。


「このゲームはいいよね」


 水が、ももを取り囲む。

 そして、あふれ出たかと思うと、一目散に逃走者を追いかけだし、水に触れた逃走者は消えた。


「そんなイキってる能力者を、潰せるんだから」



 タブレットに通知が来る。

 振動する。


 -<瞬鬼>と<海鬼>により、7名(歌木砂良、七里武、宮部みやべ晴菜はるな鳥光うこう大河たいが三戸みと日向ひなた名雪なゆきがい冬崎ふゆざき留衣子るいこ)が脱落しました-


 生存者:41名


「……へぇ」


 ある人物は、タブレットを見て興味深そうな声を上げた。


「結構早いペースじゃん。鬼も。まぁそれぐらいでやんないと、時間間に合わないかもだからね……」


 男の声。

 その男はタブレットをスクロールして、時計を出した。


「残り時間:9日22時間38分」

「経過時間:0日1時間22分」


 まだまだ、時間は有り余っている。


熾烈しれつな戦いになりそうだ、これは……」


 男は、名を「うみ」と名乗る。

 本名は分かっていない。


 だから、このゲームにも海という名前で参加している。


「残り3日まで、生き残らねばね。俺のゲーム能力の為にも……!」


 海は、ゲーム能力「呪縛者」。


 残り3日になると、鬼の居場所、鬼能力、鬼の会話が全て把握できる、とても強く、大きい欠点を持つゲーム能力―――。


 そして、刻々と時は去っていく。

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