鬼発生

第5話 1日目

「ん~……なんかデスゲーム始まってるけど……どうしよっかな」


 そこらへんに置いてある、空中浮遊をするベンチに座っている少女……かなでめいは、耳に着けている耳栓を外した。


「うわっ、うるさっ」


 その耳に飛び込んできた大音量の参加者たちの話し声に、めいは顔をしかめる。


 めいの能力は、「倍聴覚」。

 常人よりも2倍どころではなく、何十倍も聴覚がいいため、常に耳栓をつけていなければ、うるさすぎて生活できない。


「何でこんなうるさいの~……デスゲームくらいで騒ぐなし。あ、裏音りおんは何か見える?」


 その瞬間ぬっと後ろから現れたのは、めいとほとんど同じ背格好で同じ髪型、同じ目つきの少女。


 かなでめいの双子の妹、かなで裏音りおんだ。


 裏音りおんはかけていたサングラスを少しだけ上にずらすと、すぐに戻す。


「めっちゃ見えるよ。ほぼほぼの人が慌ててるね。見てるこっちがくらくらするほど」


 サングラスをしっかりと持ちながら、裏音りおんはめまいを起こしたようで、頭を押さえる。


 裏音りおんの能力は「倍視覚」。

 めいと少し違うが種類は同じ。


 五感の一つ、視覚が引き上げられているのだ。


 直線方向であればどんなものも見える。

 つまりこの二人が組めば、攻撃される前に気配を察知できるということだ。


「……あれ? ごめん、盟」


 裏音りおんが顔をしかめる。


「前方から正体不明の物質が……ものすごいスピードで近づいて……!」


 するとその一瞬のうちに、横に何者かが降り立ったと思うと、その風圧のせいで、二人は吹き飛んでしまった。


「……はぁ?」


 その人物は不思議そうな顔をする。


「人影が見えたから来たのに……吹き飛んでっちゃった」


 その人物は何故か背中から蝶の羽が生えていて、猫耳カチューシャをつけている。


 髪が腰よりも長く、前髪の横にクロスさせたピンをつけていた。

 どうやらものすごい風圧を出したのは、背中の羽のようだ。


「たった秒速1000m出しただけだけど……普通じゃないのかな? 常人には?」


 常人にはあり得ないことを言ってのけるのは、ゲーム参加者の闇月桜みさぎ蝶茜音かのん


 苗字も名前も難しい漢字を使っている、16歳の少女。


「まぁ、いっか。もともと私、協力プレイとかできないし」


 そう言って自分を納得させた蝶茜音かのんは、また羽を開いて宙に浮いたかと思うと、猛スピードでその場を飛び去って行った。


 残り時間:9日23時間00分。


 カチッ。

 と、タブレットに表示された時計の秒針が動いた。



 ブーッ! ブーッ!


 と、タブレットから、通知が届いたことを知らせる音が鳴り響く。


 -鬼が放出されます-


 タブレット画面に、赤く血で書いたような、そんな文字が浮かび上がる。

 一斉送信されたメッセージ。


「ついに放出ね……」


 タブレット画面を見ていた東雲しののめ香澄かすみがつぶやく。

 その隣で、城川きがわ奏斗かなとも深刻な顔で、その言葉に静かにうなずいた。


 一時間の、逃走時間が終わった。


 これから、鬼が放出される。


「大丈夫……ここは薄暗いから、きっと見つからないよ」


 香澄かすみが、タブレットの画面の光を、電源を切って消した。

 奏斗かなともそれに続くように、タブレットの電源を切り、タブレットのついた右腕を下ろした。


 今二人がいるのは、大きな透き通る建物の真っ暗なエントランス。


 その端の、空中エレベーター乗り場の、丁度影になる部分に二人で体育座りで、なるべく外から見えないように隠れている。


「なるべく静かにしてましょう……香澄かすみさん」


 奏斗かなと香澄かすみに話しかけた瞬間に、建物の天井から……雷が、降った。


 その雷は、香澄かすみに直撃する。

 そして、そのまま香澄かすみは粉々に砕けて、いなくなってしまった。


「……⁉ 香澄かすみさん⁉」


 しかし、何も答える者はない。

 その代わりに、タブレットが振動した。


 急いで奏斗かなとがタブレットをスクロールして届いた通知を確認する。


 そこには、忠実な脱落表示。


「鬼<雷鬼>により、東雲香澄が脱落しました」

 -生存者:48名-



 そして、鬼が放出された場所、空中公園。


「ん、誰か一人殺せたよ」


 薄い青色の髪が揺れる自動ブランコで、鬼陣営である桜庭さくらば久美くみは、そうつぶやいた。


「おっけー! じゃあ……あっ、私たちが殺す前に、なんか参加者同士で殺し合ったみたいだね。だから生存者は残り48名」


 久美くみの言葉に反応したのは、その自動ブランコの2つあるうちもう一つに座っている少女。


 サラサラした肩まで届く髪、雫型の水色のアクセサリーが付いたチョーカー、冷たい感じのする黒と灰色の目。


 そんな少女の名前は、朝蔵あさくらリンネといった。


「二人とも、どうする? 突撃する?」


 そんな少女二人に横から近づいたのは、おとなしそうな少年。

 ヘッドホンを首からかけ、片手でスマホをいじっている。


「あ~……。でも、すばるはここに残って。報告は、『瞬鬼』でするから。すばるは『天鬼』でしょ?」

「……まあ、それもそうだね」


 リンネにすばると呼ばれた少年の名は、滝本たきもとすばる


 二人と同じ鬼陣営。


白花しろかちゃんは? 黙ってないで、自己紹介の時しかしゃべらなかったじゃん?」


 久美くみが、端でボーッと一人で立っている透明感のある影の薄い少女……灰色はいいろ白花しろかに話しかける。


 しかし白花しろかは黙ったままで、小さくうなずき、そのまま空中公園の奥にある林の方へ、一人で歩いて行ってしまった。


「もー……全員がバラバラだと、負けちゃうよ! 人数差が40人もあるのに~!」


 そんな声を出したのは、ストレート髪で、前髪にピンクのハートが付いたヘアピンをつけ、ミニスカートをはき、派手な格好をした少女。


 虹沢にじさわももだった。


「まあまあももちゃん。鬼能力もあるし、運営から、参加者たちの能力は視認できるようにされてる。だから、意外とできるかもよ」


 にこりともしないで言い放つリンネ。


 その様子に腹を立てたのか、もも久美くみを睨みつける。


「大体、何で鬼陣営に能力者がいるわけ⁉ 私たちは持ってないのに……ズルくない⁉」


 いきなり怒りの矛先を向けられ、久美くみは少し驚いたようだったが、冷静に言い返す。


「そーゆー文句は、運営に言って」


 ももは言い返せず、悔しそうに唇をかんで黙り込む。


 その瞬間、空中公園に、透明エレベーターも使わず飛び込んできた人物がいた。


「ヤッホー。鬼陣営さん」


 白花しろかも、まだエレベーターを下っている。というか、ここにいる鬼全員は飛ぶことなんてできない。


 つまり、今飛び込んできたのは参加者陣営の誰か。


「そこから動かないで」


 久美くみが、丁度影になって見えない人物に脅しをかける。


「じゃないと、『雷鬼』で死ぬよ? 君」

「またまた~!」


 その人物は笑って、タブレットを出す。


「ここに書いてあるじゃん。<雷鬼>によってって。多分、遠隔で雷を出して、ランダムで参加者を殺すのかな? 怖いね~!」


 その人物はタブレットをしまい、続きを話す。


「でも、そんな強い能力、1日に何度も使えるわけがない。ほぼ、参加者陣営の能力、『殺人鬼』と一緒なんだから。つまり、『雷鬼』は1日に一度しか使えない。……そうじゃないの?」


 久美くみは息をのむ。この人物、なかなか頭は回るようだ。


「そこまでよくわかったわね。この短時間で。……けど」


 リンネが鬼能力を発動し、一瞬でその人物の背後に回り込む。


「ここには鬼全員がいるの。無謀に突っ込んできたあんたが悪いから……死にな」


 しかしそのリンネのスピードをものともせず、その人物は一瞬で横に移動する。

 リンネのタッチしようと伸ばした手は、空を切った。


「なっ……」

「慌てすぎ! そもそも私は……」


 その人物はタブレットを見せる。

 そこには能力表示が出ていて……。


「君たちに協力しに来たんだよ?」


 -あなたの能力は「裏切り者」です-


 と、表示されていた。


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