第3話 ゲーム開幕

『始まるまで、残り三分だよ? 急いだほうがいいかもね』


 残り三分の放送が入り、ほとんどの人は慌て始める。

 僕はすでに、読まなければならない最低限のルール説明は読んだから、あまり焦りはしなかった。


 次……「ゲーム能力」を確認しようと思い、アプリを起動させた。


 そこに書かれていたのは………。



「あなたのゲーム能力は『――――』です」



 —―――⁉


 そこに書かれていたゲーム能力を見て、僕は目を疑った。

 そんなゲーム能力が存在するなんて……聞いていない!


 もっともゲーム能力一覧みたいなものを見たわけでもないから何も言えないけど………。


 ドクドクと速くなる心臓を上から手で押し付けて何とか静まらせる。


 そして、深呼吸をしながら、下に書いてある「ゲーム能力一覧」を読み始めた。



 ~ゲーム能力一覧~


 ・逃走者……25名

 何の能力も持たないはずれゲーム能力。

 しかしその代わりに足の速さは1.5倍になる。


 ・討伐者……5名

 鬼を倒す(殺す)ことのできるゲーム能力。

 発動すると刀が出てくる。その刀で鬼に致命傷を与えるとそのまま殺すことができる。

 ※この能力と殺人鬼の能力以外での攻撃では鬼は倒せません


 ・呪縛者……1名

 ゲーム残り時間が3日になると、一つの場所から動けなくなる代わりに、鬼の「位置」、鬼の「会話」、「鬼能力」すべてを把握できるようになる。


 ・忍者(陰)……4名

 発動できるのは1回だけだが、発動すると5分間姿が見えなくなる。


 ・忍者(陽)……5名

 1回だけ、鬼にタッチされてもそのまま逃げることができる。


 ・忍者(陰陽)……1名

 2回だけ5分間姿を見えなくし、3回だけ鬼にタッチされても逃げられる。


 ・殺人鬼……1名

 参加者陣営と鬼陣営関係なく、1日に1回指定した人物を殺すことができる(最高で10人殺せる)。


 ・守護者……1名

 守る人を一人決めると、その一人が襲われたとき、1度だけ攻撃を跳ね返し、鬼を返り討ちにできる。


 ・鳥……5名

 空を飛ぶことができる。


 ・裏切り者……1名

 参加者の中に潜んでいる裏切り者。

 鬼の味方をする。鬼が死ぬと同じく死んで参加者が死ぬと鬼と共に勝利になる。


 ・てるてる……1名

 第三陣営に当たる。

 誰でもいいので殺されると勝ち。殺されれば生き残り、てるてるの一人勝ちとなる。

 ※てるてるが一人勝ちした場合、他の参加者は生き返りません。



 —――


 これが、全ての、参加者50人すべてのゲーム能力だった。

 僕が不思議に思ったのは、第三陣営「てるてる」がいることだった。


 てるてるの一人勝ちになれば、もう生き残れるのはその一人だけ。

 つまり、言ってしまえば、殺されれば勝ちという点と、鬼の味方をする点が明確な違いで。


 立場的には、参加者に潜む裏切り者と一緒なのだ。


 まぁ、参加者が仲間を襲うとは思えないし、大丈夫かな……。


 だけど、僕の能力……これが、いいのか悪いのかは……わからない。

 だって、これは能力を使った、「殺し合い」なんだから。



 —――



 ここは、鬼の控室。

 鬼である10人がいる。


 そしてそれぞれ渡された「鬼能力」を見ていた。


 その中の一人―――月の髪飾りをつけて、綺麗な薄い青色の髪の少女は、その口元に笑みを浮かべた。


(へぇ~……いいじゃん、このデスゲーム)


 月の髪飾りを右手でいじりながら、タブレットを見つめる。


(いいよ。私の鬼能力、「雷鬼」で……全員捕まえて、殺す)


 その少女の名前は、桜庭さくらば久美くみ

 参加者陣営の桜庭さくらば美晴みはるの妹であり、鬼でありながら能力を持つ異端の存在。


(私の能力も、使ってね)


 ほくそ笑む久美。

 そんな明確な殺意が参加者全員に強烈に向けられていることを……まだ、参加者たちは知らなかった。



 —―――



 私はこんなゲームをしている暇じゃない。

 さっさと本業のアイドルに戻って、事務所を大きくして、稼ぐ。


 そのために私は何もかも捨ててきた。


 いつも思う。

 あんな妹と、私の血がつながっていてたまるかって。


 私の名前は春に生まれたから、美晴。

 名前は違うけど、親がどうしても「はる」ってつく名前がよかったんだって。


 ていうか、「美」の字は私だけでよかったのに。

 妹の久美にも美しいなんてつけたら、あいつは思い上がるんだから。


(どっかに消えてくれないかな……ちょうど、あいつが鬼陣営だったら、喜んで消せるんだけど)


 美晴はタブレットを覗き込む。

 それはゲーム能力が映し出されていて———。


(私のゲーム能力で、殺してやる)


「あなたのゲーム能力は『討伐者』です」


 と、表示されていた。



 —―――



 その頃、参加者控室の端。


(ふぅん……自分の能力は、「殺人鬼」……)


 殺人鬼は、いた。


(あ~あ。何このゲーム能力)


 その心の声は、人なんか殺さないだろうということの呆れに対してのものかと思うだろうが……。


(1日に1回って。どうせデスゲームやるんだったら、せめて1日に3回くらいにしてほしいな)


 その殺人鬼は、違った。


(だって、30人も殺せる。過半数も? あはは……でも、これだと10人だけ。いつ殺してやろうかな……?)


 楽しみだな、というふうに、その殺人鬼は口元に笑みを浮かべ、押し殺した笑い声を少しだけ響かせたのだ。



 —―――



『それではいよいよ、ゲームを開始します』


 放送の声がシーンとした部屋に響く。


『残り10秒……』


 カウントダウンが始まり、1、0と。

 カウントダウンが——―終わった。


『デスゲーム「鬼ごっこ」………開始です』


 その合図とともに……僕、藍沢海斗の人生を大きく変えることになったデスゲームは、幕を開けた。


 参加者が狭い部屋から我先にと、広い会場へ……飛び出していった。


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