第5話 新しい仲間

「おいお前! 何のつもりだ!」


 小柄でナイフを持った、目つきの悪いチンピラが脅してくる。


「何のつもりだも何も、その子嫌がってただろ」


 俺はブラックリボルバーの銃口を向ける。そして、そのチンピラのナイフに向かって一発お見舞いしてやる。


 ファイアブラスト!


 シリンダー内で炎が弾け、弾丸が押し出される。

 チンピラの持っていたナイフに銃弾がぶち当たり、衝撃で奴は吹っ飛ぶ。


「ヒエッ! 何だよ、飛び道具か?」


 ナイフを失ったチンピラは腰を抜かして立ち上がれない。


『固有スキル:精密射撃を獲得しました』


 脳内でアナウンスのような声が響く。

 精密射撃……? 銃で正確な射撃ができる能力のことか? だったらすごい力だ。

 こいつらで試してみるか……?


「てめえ! 一体何しやがった!」


 腕に入れ墨を入れた大柄な男が襲い掛かってくる。

 その太股に向けて銃弾を放つ。

 ――あと3発。


 ファイアブラストは撃てても、弾には限りがある。


「ぐあああああっ!」


 足を撃たれ、バランスを崩した男が倒れる。


「痛え! 動けねえ!」


 情けない声を出しながら入れ墨の男は倒れてもがいている。


「いいザマだな、お前ら、それで終わりか?」


 最後に残った金髪ピアスの男はどうしようかと右往左往している。


「お前、助けろ! 突っ立ってないで!」


 入れ墨の男が足を抑えて血を流している。その様を見て、金髪ピアスの顔面は蒼白になり、一目散に逃げだした。


「あらら~、根性ないねえ」


 残り3発も残しておいて、チンピラ共と言ったらまるで歯ごたえがない。


「行くぞ、嬢ちゃん」


「え? え?」


 村娘のような格好で頭巾をかぶった少女。襲われていたところを助けてやったが、俺のことも怖がっている様子だ。


 その細腕を引いて、路地裏を離れる。衛兵に来られても厄介だ。


「あ、あの、私、エリーシェって言います。何とお呼びすれば……」


「クレドだ」


 町はずれの街道に出て、安宿を探す。

 とりあえずこの子を匿えればどこだっていい。


「あの、どうして黒づくめなんですか?」


「闇に溶け込むためさ」


 確かに黒コートに中折れ帽のマフィアみたいな出で立ちはこの世界では目立つだろう。ステータスカードを確認したら、かなりレア度の高い装備らしいが。


「闇……え? どういうことですか?」


 少女は、エリーシェは怯えながら俺の後をついてくる。


 安宿に入り、主人に銀貨を払うと、ボロいベッドのある奥の部屋に入る。


 コートを脱ぎ、ジャケットとズボンになる。黒シャツに黒ネクタイで姿見の前に立った。うーん、やっぱりこの世界らしくないな。


「お前、どうしてあそこにいたんだ?」


「私、お父さんにお金を稼いで来いって言われて、それで、森で摘んできたお花を売ろうと……」


「お金? 何でお前が稼がなきゃいけないんだ?」


「お父さんはお酒を買うお金が無くなると、私に暴力を振るうんです」


 なるほど、それで手や足にあざがあるのか、と妙に納得した。


「それは酷い父親だな」


「でも、私にはあそこしか、居場所がなくて、それで……」


 エリーシェは肩を震わせ、嗚咽を上げて泣き始めた。


 俺はその肩を優しく抱き、胸の中で泣かせてやる。


「だったら、俺と一緒に来ればいい。そんな親父放っておけ」


「え? え? でも、私、何もできないし……」


「何もする必要はないさ。まあ、家事や身の回りの世話でもやってもらえれば、それでいい」


「そんな簡単なことで?」


 エリーシェは驚きに目を見開いた。ぱっちりとした目、涙袋がくっきりしていて、まつ毛は長い。

 人形のように端正な顔立ちは白く、華奢な体と合わせて可愛らしい。


「お前は何もしなくていい。俺の傍にいてくれるだけで」


 優しくエリーシェの頭を撫でる。しばらくそうしていた。


「えっぐ、えっぐ……」


 彼女はひとしきり泣いた後、落ち着いたようだった。


「ちょっと待っていてください」


 彼女は姿見の前に行って、髪をほどいた。


「おいおい、どういうつもりだ?」


「わ、私も、変わります。変わらなきゃならないんです。これまでの自分から、新しい自分に」


 金髪おさげ髪は肩まである金髪の巻き髪に変わっている。

 少女の目は座っている。さっきまでメソメソ泣いていた子とは別人のようだ。


「だから、これからよろしくお願いします、クレドさん」


 エリーシェはそう言っておずおずと右手を差し出した。

 俺はそれと握手する。


「ああ、よろしくな」


 そうして、俺は旅を共にする仲間を手に入れた。


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