第6話:俺氏、悪質クレーマーになる
結論から述べる。
俺はワールドバーガーを出禁になった。
従業員に対するセクハラ行為が原因だと。
ハッピーセットのおもちゃが入ってなかったことにいちゃもんを付け、長電話で店舗への嫌がらせ。更には怒りを増幅させ、一生分のスマイルを注文したという判決である。
で、これから語る話は一週間後である。
ピンポーンと自宅のチャイムが鳴り響いた。
だが、俺は決して動かなかった。
どうせ受信料を払えか、宗教団体に入れかの二択だろう。
俺はそう結論付け、キーボードを打つ手を決して止めることなく、カタカタと軽快な音を鳴らし続けた。
我ながら最高な気持ちになれる。この瞬間だけは。
「ワールドバーガーよ、お前は思い知るのだ。大切な顧客を失ったことに」
客を大切にしない店は必ず痛い目に合う。
そんな話を聞いたことがあるが、正にその通りだ。
俺に対する理不尽極まりない処遇を下したからである。
「ふははははは。お前らが悪いんだ」
人は簡単に変わる。
良い方にも悪い方にも。
「先に裏切ったのはお前ら。この俺を出禁にしやがった罰だ」
捨て垢を使い、ワールドバーガーへの低評価を押しまくる。
レビュー欄には「最低なお店です。人肉使ってます」や「接客が最低すぎる若い女従業員がいる」などと書き込んでいた。
だが、邪魔が入る。
ピンポーン♪
ピンポーン♪
ピンポーン♪
鳴り止まない。鳴り止むことがないのだ。
うざったらしいが、チャイムの主は俺がこの家に潜伏していることを知っているようだ。
さっさと出てこい。もうお前は包囲されている。
そんな警察気分で、相手側は押しているに違いない。
その挑発に乗るのは癪だが、俺は重たい腰を起こして、やかましいほどに鳴り響く玄関の元へと向かうのであった。
それからドアを思い切り開いて、俺は本気で怒鳴った。
「さっきからうるせぇーんだよ!! 近所迷惑も考え——」
言葉が止まる。
目の前に立っていたのは、赤茶髪の女性だったのだから。
回りくどい表現はやめようか。
チャイムを鳴らし続けていた不届き者は——。
「どうも、桜凛櫻子です」
ペコリと頭を下げてきた。
律儀な奴だなと思ったのも束の間だ。
顔を上げた彼女は、薄らと笑みを溢れさせる。
「あ、お前はあのときの……」
「ハッピーセット購入したけどおもちゃが入ってなかったでお馴染みの山田さんですよね?」
「お馴染みじゃねぇーよ。一回だけだよ」
「出禁になっちゃいましたからねぇ〜」
「誰のせいだと思ってるんだよ!!」
「自分のせいじゃないんですか?」
「いや……そ、それはそうだけども」
言い澱んでしまう。
だが、一週間前に通らなかった言い分をもう一度言う。
誰一人として、俺の言葉には信憑性がないと言ったが。
「お前だってな、十分罪はあるんだよ」
「責任転嫁は良くないですよ、山田さん」
「責任転嫁じゃねぇーよ。共犯だよ、共犯」
この女のせいで、俺は理不尽な目に遭ったのだ。
電話番が他の従業員だったら、出禁などという不名誉極まりない称号は貰わなかったはずなのに。
「裁判沙汰にしなかっただけでも感謝してくださいよ」
「裁判起こす気だったのかよ!!」
「
「悪知恵だけは働くよな、未成年って」
ていうか、さっきからコイツ……。
「俺の本名をちょくちょく入れてくるなよ!!」
「なら、名前を呼んではいけない例のあの人みたいにしときますか?」
「厨二じみた異名はいらねぇ〜よ。二番煎じな異名だし」
ふむふむと頷きながら、桜凛櫻子は言う。
「オンリーワンじゃないと興味ないと?」
「自分だけの異名ってのに憧れるんだよ」
「だから、オンリーワンでロンリーワンなんですね!」
「悪かったな、家族も彼女もいなくて」
「おまけに、おもちゃも貰えなくて」
「そうだよ! あの日、なんだかんだで有耶無耶になってんだよ。あのおもちゃの件!」
結局、出禁騒動があった日、俺はおもちゃを貰えなかった。
店内への出入り禁止を書かせられたあと、俺は屍と化してしまったのだから。筋金入りのマニアだったのだから仕方ない。
その愛が強かったからこそ、俺はワールドバーガーへと何度も何度も誹謗中傷を繰り返してしまっていたのだ。
あれ? 俺って、意外とツンデレの素質あるかな?
「ストーカーの素質なら十分あるかなと」
「勝手に人の心を読むな!!」
というのはどうでもよくてだな。
「あれからこっちは全然眠れねぇーよ!」
「そうでしたか、あの日以来……」
桜凛櫻子は神妙そうな顔を浮かべる。
名探偵のように顎に手を当て、「う〜ん」と唸りながら。
「やっぱり夜泣きが続いていますかぁ」
「イライラが止まらないんだよ、お前のせいでな」
「なるほど。私を想ってくれたわけですか」
「想ってねぇーから!!」
「夜寝る前に想うのは、エッチなお姉さんだけだよ!!」
自分でも何を言っているのか、そう思っていたら。
桜凛櫻子は真面目な顔でメモ帳にペンを走らせながら。
「なるほど、熟女好きと」
「誰が熟女好きだ!!」
「エッチなお姉さん好きと聞きまして」
「熟女はもうエッチなおばさんだよ」
「……年齢で人を判断するのはよくないと思います」
確かに、今のは俺の失言だな。
年齢で人を判断するのは悪いことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます