悪役令嬢な私に興味なんて無いはずの王弟殿下が何故か溺愛してきて困ってます。〜えっちな恋愛小説作家なのは秘密です〜
pasuta
第1話-最後の日
残業が終わり、買い物をして家に帰る。
結婚して、子供もできずに気付けば5年が過ぎた。
夫は連日飲み会ばかり。
私はいつも家でひとり。
ひとりで過ごすには広すぎる部屋。ひとり分の夕食を作って、ひとりで食べて片付けて。
こんな寂しい生活もう終わりにしてしまえばいいのだが、私自身にこの生活を変える勇気は無く、夫にもそのつもりは無いようだった。
こんな結婚の形もあるのだろう。
もっと夢のある物だと思っていたけど。
大好きな夫のために食事を作って帰りを待ったり、夜は一緒にベッドに入って抱き合って眠ったり。
現実はそう簡単では無く、結婚して最初に訪れたのは、一緒に居る事で見えてくる性格や習慣の不一致に悩む日々だった。
五年経ち、ようやくお互いの行動に干渉しない事で平和が訪れた。
いつかは、離婚を言い渡されるだろうが、それはそれで良いと思っている。
会社の同僚に話したら「大丈夫?」と心配されるが、昔から男運が無い私にとっては、この辛さも寂しさも普通の事だ。
最近ではこの状況をポジティブに考えるようにしている。こんなに自由な時間があるのだ。この時間を活かさない手は無いだろう。
風呂上がりのビールと肴を手に、私のゴールデンタイムは始まるのだ。
「仕事が終わって、旦那も居なくて、部屋も綺麗だし、家事も無いし!さぁて。」
ヘッドホンをガッポリと装着し、大音量でBGMを再生する。机に向かうとノートパソコンを開き、書きかけの小説をまずはザッと読んでみる。
私の描く幸せの在り方を文字にする。これが私の時間の使い方だった。
「昨日いいとこまで書いたのよね。もういいでしょ?結構焦らしたわよ……ふふふ。あぁ可愛いわぁ。いいわぁ。ほんと素敵……ッ」
ブツブツと小声で独言を吐きながら、カタカタカタカタとキーボードを叩く音が部屋にこだまする。この時間が堪らなく幸せなのだ。
…ギィィィ…ガチャン…
玄関のドアが開いて閉まる音が、BGMの合間に聞こえた気がした。
しかしお構いなしに溢れる文字を出力していく。
今書いてるのは男カフェ店員と女社長のラブストーリーだ。とあるカフェに通う女社長が店員さんと知り合い、社長と知られたくない女性が自分を偽った状態で恋仲になり、様々なすれ違いやトラブルを経て、秘密を告白して、今まさにベッドインした場面だ。
昨日は書けなかったこのシーンを今日こそは書き上げようと、意気込んで一日過ごした。
ギシ……。ギシ……。
まただ、誰かが家にいる気配。夫はもう帰ってきたのだろうか。せっかくこれからだって時に現実に戻されてしまう。
構わずパソコンに向かっていたら、真後ろに気配が来たので仕方なくヘッドホンを取り、振り向く。
「おかえり、今日は早かったわ……ね。」
そこには心底怯えた様子の男が包丁を振り翳していた。
「お…おまえが居るから……悪いんだ……ッお前が!!」
男は引き攣った顔で叫ぶようにそう言うと、包丁を一気に振り下ろした。
「――ッ!?!」
スローモーションのように、振り下ろされる包丁を凝視してそして息を飲むと、首筋の熱さと共に視界は真っ暗になりそのまま意識を失った。
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