第14話 ラヒーム・ミラージュ王子殿下


「ん? どうした?」


「いいえ、なんでも(白目)」


 はい。大人気・地雷キャラ。好感度を上げれば、最後は殺し合うことになる悲哀で、熱狂的支持を受けたアラビア風王子!


 ラヒーム・ミラージュと出会ってしまった、悪役令嬢・サーシャです(白目)。


 いや、まァ、いいんだけどさ。


 私はラヒームのこと好きだし。普通に優しい奴だし。性能はいいし。


 でも、仲良くすると殺してくるんだよな。こいつ。


 ……。


 前言撤回。


 ここで、会いたくなかったァ!


 戦終わってから! フランシーヌ王を解体して、悲鳴でドレミファソラシド奏でてから合いたかったァ!! ガチで!!


 ……ふー。


 オーケー。ビークール。落ち着け。


 会ってしまったものは仕方ない。


 普通に接して乗り越えよう。


 うん。それに考えてみれば、この人は私の攻略対象じゃない。


 マリ成りの攻略対象。つまり、マリアの攻略対象なのである。


 今は、阿保王子ワイリーと幸せにしてるであろう。マリアのお相手だ。


 なら、うん別にね。


 意識しなくてもいいんじゃね?


 ……。


 そう考えると、割と緊張とけたな。


 よし!


 普通に買い物しよう!!!


「ドラゴンの骨が一式あるそうですね? 見ても?」


「ああ、いいぞ! これだ」


 そう言うと、しっかりとドラゴンの骨を見せてくれた。


 おー! しっかりした骨だ! 保存状態もいい! 


 アイテム・ボックスの魔法から出てきたけど、そこに放置せず! 定期的に、油を差し、刷毛で掃除しているのが分かる。


 しかも、油はそこらの安いのじゃない。


 この光沢は、イタリアーノのオリーブと、オアシスに生えるひんやり草。そして、沙漠の火虫の体液を混ぜた手作りだ。


 そうでないと、ここまで見事な艶は出ないし。骨も、ひびが入って『ボロボロの骨』へと劣化してしまう。


 それを、ちゃんと『ドラゴンの骨』に維持している! これはいい仕事してますわ!!!


 ビクトリーーー!!!


 うん! やっぱ腕良いね! 


 ミラージュ王家の伝統として『身分を隠して城下町で商売し。経済感覚や、住んでいる民の生活・感覚を学ぶ』ってことで、商売してるけど! 普通に有能!


 才能あるよ! 君ィ!!


「いい骨ですわね。オリーブに、ひんやり草、火虫。そして、刷毛。きちんと保存されているのが分かります。」


「! 分かるのか」


「ええ、これでも錬金術には詳しいので」


 これは、ガチ。


 ゲームでも、錬金術でつくったアイテムは金になったからやり込んだし。錬金術からの、火山噴火とか、物体破壊。武器錬成とか、便利でしたからねー。


 あと、私本人としても、しっかりと錬金術の教育は受けましたし。学園でも、主席でしたので。


 結構分りますわよ! ふふん!


「そうですね。良い保存状態ですので、あるだけ買いましょう」


「! あるだけって、マジか?」


「マジです。お金ならありますので」


 ――金貨と札束! ドッシャァァあ!!!


「! おおお~!」


 彼の屋台に大金を置けば、驚いてはいるようですが、あんまりって感じですね。


 まァ、黄金沙漠のミラージュ。その王子ですからね。


 金は見慣れてて当然でしょう。


 でも、もうちょっと隠さないと。今までの商人と比べると、浮いえ見えますわよ?


 ……まァ、どうでもいいけど。


「分かった! では、ドラゴンの骨! 全部うろう! それ!」


「どうも。いい取引でしたわ」


 よし! ドラゴンの骨をあるだけ買いまくり! 成功!!


 これでアレが出来ますわ! ふふ~ん!!


「……なァ、一つ聞いていいか? お客さん」


「? 何でしょう」


「いや、そんなに骨かって何するのかなって思ってさ。色々噂になってるけど、あん。いや、あなたはサーシャ様でしょう? 大金持ちの。高級食料に、金を買ったかと思えば、コーヒー豆にソーバーン族を買い上げたっていう」


 まァ、あれだけ金使ったら、流石に噂になってるか。


 ええ。そうですね。


「そんなあなたが、なぜドラゴンの骨を? それもそんな大量に」


 ふむ。


「嘘をついてもいいですが、せっかくいいものを買ったので、真実を。

錬金術の関係ですわ」


「錬金術……」


 あ、今高速で頭脳動かしてる。


 ドラゴンの骨を使った術式を、めっちゃ考えてるんだ。でも。


「……」


 合致する式がないので、困惑している感じかしらね。


 それはそうでしょう。


 この式は、ゲームを進めて主人公が発見する術式。


 ゲーム開始時点の今では、世界に存在しない術式ですから。


 知らないのも、当然ですわ♡。


「いや、降参だ。俺には見当がつかん」


 でしょうね。


 では、適当にごまかして帰りますか。


「まァ、新しい術式ですからね! この死した骨たちが、世界を変えますわ! オーッホッホッホ!!!」


「世界を変える……?」


 ええ、我が国の戦でも! その力を見せつけるでしょう。


「……戦でも使える。すなわち、フランシーヌ王とそれに味方する貴族の連合に勝てる。

それを為すのはなんだ? 骨。今までなかった戦略・戦術・戦力。大敵を倒す方法。

いや、骨はドラゴンのみ。そう、ドラゴン……大群……倒す……蹴散らす……!!!


まさか!!!」


 え、何?


 どした???


「ありがとう! サーシャ殿! 人間が倒せるなら! モンスターも倒せる!!

これは、すぐに父上に! 報告せねば!」


「誰ぞ! 馬車をもて! 父上にお会いする!!」


「「「「「はは!!」」」」」


「サーシャ殿! ありがとう! 礼はまた、いずれ!!」


 あ、はい。どーも。


 そう言って、ラヒーム様は屋台の奥から出てきた。執事や侍女っぽい感じの、褐色肌と民族衣装の人々により、馬車に乗り。


 急いで、王宮へと向かわれたのである。


 ……。


 まァ、良し!!!


 感謝されたので、きっと良し!!


 うん!!!


「あの、お嬢様。今の方は? その、雰囲気がすごくて会話に入り込めなかったんですが」


 そりゃあそうでしょうね。


 あの方こそ、この国の王子。ラヒーム・ミラージュ王子殿下ですもの。


「「「「「え」」」」」


 っま、彼は王家の伝統で市井に混じっているのだし。


 吹聴はしないように。


「「「「「コクコク!!」」」」」


 よろしい。


 ……しかし、彼は気付いたのかしら。今の会話で。


 私が、ドラゴンの骨を買う理由。


 それが、錬金術で飛龍船。


 空を飛んで、魔法・大砲・爆弾を放ち! 敵を倒す!!


 この世界における、ドラゴン・ボーン・戦闘機を作る事!!


 世界初の、空中爆撃戦をしようとしていることに!!


 ……。


 まァ、よいわ。


 バレても対策はできる。


 敵に回っても、何とかなる。


 なら、気にしなくていい。


 むしろ、気にしすぎて敵に回す方が愚策。


 ここは、ゆっくりと少しづつ。


 味方にするか、中立にするか。考えることとしましょう。


「お嬢様。ドラゴンの骨、買い占めました。っと、いかがしましたか?」


「なんでもないわ。ただ、変装の重要性を考えてただけよ」


「? は、はァ?」


 っま、ラヒームは置いといてもいいでしょう。敵対すれば、潰せばいい。ゲームプレイヤー&悪役令嬢の本気を見せてあげるわ。


 それよりも、まずは目先の事。


 フランシーヌ王との戦いに集中しましょう。


「これで準備は整ったわね。では、フランシーヌに帰りましょう」


「「「「「御意にございます」」」」」


 ソーバーン族で、情報収集・破壊工作。


 飛龍船で、空から奇襲・爆撃。


 そこを、私、リザ、アルバーノ。


 メイド隊に、私兵。スパール人たちで突く。


 強く、堅く、強烈な軍が出来たわ。


 一度、フランシーヌに帰り。空気や土地を学ばせたいわね。


 っと、馬車に乗りつつ!


 今後の作戦を考えていた。


 その時!!


 ――パカラ! パカラ! パカラ!!!


「どけ! どけぇぇえ!!! 道を開けろぉぉお!!! うおおお!!!


お嬢様ァァあ!!! 一大事ですぅぅう!!!」


「!!!」


 そう、早馬に乗った兵士が一人! 


 猛スピードで、馬車へより!


「っご、御注進!! シャルル様からの手紙です! 鷲便で、船に届きました!!」


「! 見せて!」


「はは!!」


 手名付けた鷲を使い! 高速で手紙を運ぶ!!


 そんな鷲便を使う程の緊急事態など、今は一つしかない!


 そう確信しながら、開けた手紙の中を見て!!


「!! 今すぐフランシーヌに帰還するわよ!! 全員! 船へ!!」


「「「「「了解です!!」」」」」


 私は、即刻帰還を支持し!


 その日のうちに、ミラージュを出たのである!!!


 そう!


『国王が、味方する貴族を連れて連合を組んだ! 戦が始まるぞ!!』


 いよいよ時が来たのだ!!!


 決戦の時が!!!


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