第10話 悪役令嬢「気まぐれで殺人事件を防いでみた」


「アルバーノ。侯爵家の家紋と、侯爵家令嬢の私の名前をホテルに出しなさい。上位貴族特権で、アメリア大公夫人の、上の部屋を抑えるのです」


「かしこまりました!」


 さて、事件を止めることは簡単である。


 犯行現場は、アメリア大公夫人の部屋。


 彼氏であるドグマーは、体調が悪く。病院で軽く入院するから、彼女だけとなる。


 それを知っている犯人が殺しに来るので、部屋で待って阻止する。


 それだけだ。


「部屋を押さえました!」


「分かったわ。行きましょう」


 ちなみに、犯行時間は深夜。人目のない時に行われる。


 今からだと大分時間があるから、部屋で時間を潰しつつ、下の大公夫人を監視。


 犯行前に部屋へ潜むって感じね。


 尚、部屋へは魔法で忍び込みます。


 音を消す魔法と、床に穴をあける魔法と重力魔法で、簡易エレベーター。


 あとは息を潜んで待つのだ。


 そうして。


「はい。ペア~」


「あああ!!!」


「もうちょっと右じゃない?」


「いや、ここで行けるはず! それ! ――カコーン! やったー! ストライク!!」


「「「「「おおお!!!」」」」」


「はいよっと! ハットトリック!!」


「なんの! 決まったァァあ!!! トン80! イエーーー!!!」


「しゃァ! トリック・ショット!!」


「最後に逆転! イエーーー!!!」


 ――わいわい! きゃっきゃ!


 トランプによるババ抜き。銀行。ポーカー。七並べ。


 魔法で簡易に作った、ミニボーリング、ダーツ、ビリヤードを楽しみつつ。


 イタリアーノの美食と美酒も、楽しみ。


 時間をつぶして!


「お嬢様! 報告です! 犯人がやって来ました!!」


「!!!」


 その時は、来た!!


 ええ、外と下の階に忍び込ませた護衛により。犯人の行動は掴めたわね。


 では!


「防音魔法! 床破壊! それ!」


「開きました! 行きましょう!!」


 私たちは、さっさと魔法で穴をあけ! 下の部屋! 大公夫人の部屋に潜入!


 一応、彼女の事を探ったが。ああ。


 ベットで、グッズり寝ている。


 やはり、睡眠薬を盛られていたようだ。


 これは、死ぬまで寝ますね。間違いない。 


 じゃ、潜入しててもバレないので。ひっそりといるとしよう。


 さァ、犯人さん。いらっしゃい。


 ――ガチャ! ギギギ!!!


 ! 来た!


 大公夫人の部屋のドアが開き、一人の人間が入ってくる!!


 メイド服を着た女!


 深夜だが、メイドならいてもおかしくない! そう誰もが考える服装で、しかし!


 その手に、メイドに似合わないナイフを持って!


 彼女は、大公夫人の寝るベットに近づいたのである!!


 そして!


 ――ブオン!!


 一気にナイフを振り上げ!


 振り下ろそうとした、その時!!


「トランプ手裏剣!! っはァァあ!!!」


 ――ズバババ!!!


 私の投げたカード!


 さっきまで遊んでいた、トランプの手裏剣が突き刺さり! ナイフを吹っ飛ばし!


「!? きゃ!!」


「えい」


 ――ドスドスドス!!!


「!? ぎゃあああ!!!」


 驚く犯人にも、複数のカードをめった刺し!!!


「確保ォォお!!!」


「「「「「『『『『『うおおお!!!』』』』』」」」」」


 部屋の中と、外にスタンバっていた! 護衛たちが!!


 一気に女を押しつぶし! 床にキスさせた!


「ぐえ!!」


 これで、殺人犯(殺して無い)は確保し!


「大公夫人は?」


「無事です! ただ、明日の朝まで起きないですね」


 大公夫人も無事!!


 殺人事件を未然に防いだのである!!!


 しゃっァァあ!!!


「ならよかったわ。これで、こっちは解決。後は、共犯者の逮捕ね」


「え! 共犯者って、誰ですか!?」


 それはね。リザ。


「犯人を見ればわかるわ」


 そう言って、護衛が両腕を縛り。持ち上げた犯人。


 その顔を見て。


「!? え!?」


「な!?」


「「「「「え!?」」」」」」


 リザ、アルバーノ。そして、メイドたちや、護衛の兵も驚いた。


 そう。大公夫人の命を狙った犯人。

 

 それは。


「め、メアリーさん!? 大公夫人の彼氏・ドグマーさんの元カノの!? 彼女が?!」


 そう。元カノ・メアリー。


 床キスで負傷したのか、鼻と口から血を流し。来ているメイド服を紅に染めている。


 白目をむいた、メアリーだったからだ。


「あー、でも理由は分かります。ドグマーさんに振られてますからねぇ。納得」


「そうねー」


「理由は明白ですねぇ」


「うんうん」


 納得しているけど、リザとメイドたち。


 その理由じゃないわよ。


「「「「「え?」」」」」


「……まさかと思いますが、お嬢様。そう言うことですか? だから共犯者と?」


 あら、アルバーノはさすがに分かったみたいね。


「ええ、これでも執事歴が長いので。貴族の醜聞も知っております。そして、今回の事件のようなケースも。聞いたことがあります」


「そういうことよ。おそらくね」


「あのー、父上? お嬢様? 私たち、全くわかりませんが」


「「「「「うんうん」」」」」


「ああ、ごめんなさいね。ただ、簡単な話よ。どうして、メアリーは大公夫人の部屋を知っているのか。どうして、大公夫人は睡眠薬を盛られたのか。どうして……」


 大公夫人の部屋の鍵を、持っていたのか。


「……うん? あれ? そういえば、何で知ってるんだ?」


 大公夫人の部屋ですからね。


 手配する人間か、本人か。近しい人じゃないと、部屋は分からないわ。


 私たちも、侯爵家の力使ったしね。


「え、でも、睡眠薬を盛ったのは、メアリーじゃない?」


 自分を敵視している人間の物を、飲むかしら?


 まァ、夫人の飲み物に入れた可能性もあるけど。


 それでも、メアリーが近づくのは難しいと思うわよ。


「となると……」


「……鍵は、誰かにもらった?」


 そうね。


 持っている人間は限られるわ。ホテルの人間。もしくは。


「「「「「「一緒に泊まった人!! ドグマー!!!」」」」」


 正解。


 この事件、共犯者はドグマーよ。


 彼は、メアリーに大公夫人の部屋を教え、鍵を渡し。夫人に睡眠薬入りの飲み物を渡した。


 おそらく、気分が悪くなったとかいって、病院に行ったときにね。


 ポーカーしてる時、夫人は全然眠そうじゃなかったから。


「「「「「なるほどおおお!!!」」」」」


「え、でもなんでドグマーが? 彼女である大公夫人を?」


 それはね。


「ドグマーが、まだメアリーと付き合っているからですね」


「「「「「え」」」」」


 その通りよ。アルバーノ。


「「「「「!? ええええ!?!?」」」」」


 ドグマーは、メアリーを愛してる。


 でも、お金は欲しい。


 だから、大公夫人の彼氏となって、彼女を殺し。


「遺産を手に入れる計算だった。おそらく、大公夫人に遺書も書かせてますね。自分が死ねば、遺産はドグマーにと」


 でしょうね。


「「「「「えええ!!!」」」」」


 でも、その計画は失敗に終わった。殺せなかったから。


「ですな。イタリアーノは、歴史ある大公の家と貴族を守られたわけです。お嬢様によって」


 いやァ、ただ思い出しただけなんだけどねぇ。


 ま、とにかく。


「共犯者を地獄に落としましょうか。大公夫人を狙ったんだから。生きながら解体されるくらいは、覚悟してもらいましょう」


 貴族の命を狙えばどうなるか。


 きっちりしないとね。(にっこり)


 かくして。


「行くわよ」


「「「「「はい、お嬢様」」」」」


 私は、白目のメアリーを抱えた私兵と、メイド部隊を率いてホテルを出る。


「アルバーノ。イタリアーノ上層部にも、一応伝えたほうがいいかしら? おたくの大公夫人。殺されかけたって」


「……全部こっちで犯人を確保したうえで。ですね」


「ええ。そういうこと。これで、イタリアーノに貸し1よ。

フランシーヌ王との戦争になった時には、王ではなくロレーヌ侯爵家に力を貸してもらいましょう。

大公夫人を救った、うちに。ね?」


「御意にございます」


 殺人事件を防いで、イタリアーノを味方にする。


 ドグマーとメアリーの命で、我が家を救う。


 そんな、超お買い得な買い物をするために。


 私は、深夜の病院に向かったのだ。



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