30.総合的な魔力に関する知的な考察と検証
昼飯を食べ、おやつも食べた後は眠くなる。
それはこの丘の上も例外ではなく、むしろ暖かく穏やかな風が吹いて満たされた心を心地よく撫で、更に眠気を誘っていた。
簡単に言うとお腹いっぱいで眠い。
ん?
謎男?
アップルパイを一緒に食べて、ひとしきりゆっくりした後帰っていきました。
いや待てこら。
おんどれなにくつろいでんねん。
さっさとどっか行けや。
私も私だよ。
なんであいつとまったりしてんだ。
追い返すなりとっちめるなりすりゃ良かったんだよ。
お前にはそれができるはずだろう!?
けどな〜タイミングが最悪だよな〜。
なんであいつあのタイミングで出てくんの?
なんだ?
イケメンか?
別に整ってないとは言わんけど、それでもあんな胡散臭いの私はお断りだぞ。
はあ。
思ったより混乱は深刻だったらしい。
じゃなけりゃ私があいつとまったりするはずがない。
そうだ、するはずがない。
なにせあいつは胡散臭いし、さっきも自分で掻き乱すと言っていた。
その上で、面白い結果の為なら労力も厭わない、と。
つまりあいつがつまらないと思ったら私の復讐は簡単にぐちゃぐちゃにされる。
私の、復讐を、関係ない、あいつが。
気に入らんな。
そもそも私はあれこれ指図されるのは嫌いだ。
指示された上で、自分に必要ならやるけどそうでも無いのに無理矢理とかふざけんなって話。
そしてあいつはそれをやるつもりでいる。
私の都合なんかお構い無しに、つまらなかったら掻き回して自分が一番望む結果になるように誘導する。
やっぱり性悪だな。
心を許すべきじゃない。
警戒に警戒を重ねて、それでもまだし足りないほどに警戒しないとダメだ。
それにやつの都合を気にして好きにやれないのも腹立たしい。
……やつを超えるか。
あいつが余計な事をしようとしても、それを余裕で抑え込めるほど強くなれば妨害なんて関係ない。
元々邪魔する奴は皆殺しにするつもりだったんだ。
明確に邪魔をすると言ってる奴がいるんだから、その対策をとるのは当然。
むしろ取らないとおかしい。
ま、問題がない訳じゃないって言うか、問題しかないんだよなあ。
それが何かと言えば、やつの強さの底が見えないこと。
初めて接触した時にいきなり魔法ブッパしたけど、殴るだけであっさり砕かれてしまった。
しかもそれですら軽く小突いた程度に見えたのだ。
やつが戦ってるのを見てない事もあって、どこまで強いのか分からない。
明らかに人智を超えているのは分かるけど。
イケおじよりも強いのは確定だ。
流石にイケおじにも魔法を物理で破壊とかされなかったし。
そう考えると割と無謀な気もするな……?
ま、だとしても邪魔するというならねじ伏せる。
そこを目指していこう。
てか今は闇魔法の隠し方を考えないと。
じゃないと力技で書類強奪する羽目になる。
さて、どうやるかな。
問題がある時は細かく分けろ、って誰の言葉だっけ?
誰が言ったかは覚えてないけど、私が問題としているのは魔力を探知されるという事だ。
探知とは、前にも言ったけど水の中に垂らしたインクを見つけるようなもの。
一滴なら垂らしてもすぐ紛れるけど、垂らし続けたらたとえ先に垂らしたのが薄れようとも次々とやってくるインクが場所を示し続ける。
魔法とか使ってると垂れ流しだしなあ……。
垂らしすぎたインクはやがて水槽を染めて薄まらなく……薄まらない?
辺り一帯を私の魔力で埋め尽くしたらどうだ?
空気中の魔力が分解される前に、それを超える魔力を流す。
そうすれば処理速度を超えた私の魔力が一時的にでも辺りを飽和させ、それに私を隠してる闇魔法の魔力を紛れさせれば探知されない……けど空気中が私の魔力で飽和したらそれだけで異常事態だな。
ないない。
そもそも飽和する程の魔力量ってどんだけだよ。
私がどのくらい魔力を持ってるのか知らんけど、流石にどうにかできるレベルだとは思えないぞ。
魔力が無くなると魔絶とかいうやばい状態になるらしいし無茶なんかできない。
そんな事をしたら本末転倒もいいとこだ。
待て待て、ここで一度視点を別の所に変えてみよう。
今まで私はどうやれば探知されないか?に焦点を絞って考えていた。
それを、どうやれば魔力が放出されないか、に変えるのだ。
魔力の放出を抑制する。
その技術自体はたしかに存在する。
謎男が使ってるのを確認したし、そもそもお母さんにもそういうのがあるって事は教わっているのだ。
それをどうにか流用できないか?
流用して、それを発動した闇魔法に応用する。
どうやってやるか知らないからかもしれないけど、できなくはなさそう。
ただし、この場合の問題は何度も言ってる通り私が抑え方を知らない事。
よしんばできたとしても、更にそれを理解し、魔法にも応用するという技術が必要になる。
それをできるだけ短い期間で習得する?
普通に考えて無理だろう。
魔力を抑えるのは簡単では無い。
事実私は練習してもできなかったし、お母さんもそうそうできるものじゃないと言っていた。
けど。
けど、だ。
謎男が平然とやるそれ。
もし私が奴とやり合うことになったらきっと正面からやっても勝てない。
それならどうするか?
正面からやって勝てないなら奇襲だ。
奴より先に見つけ、悟られぬまま襲い、ペースを握り続ける。
そのためには魔力を垂れ流すなんてアホな事はやってられない。
どっちみち習得しなければいけない技術だ。
たとえ魔法には使えなかったとしても、習得して損は無い。
練習するか。
そうと決まれば早速練習。
幸い辺りには誰もいないし、練習するには持ってこいだ。
目を閉じ、集中して自分の中にある魔力を意識する。
前にも何度か練習してた事はあるのだ。
そこまではできる。
私がイメージする魔力は液体。
体の中心に溜め込まれ、常に体を循環してどこからともなく滲み出るもの。
お母さんに教わった時はその滲み出るのを抑えるようにと習ったけど、そんなの分からん。
ざるを通る流水を素手で受け止めるような物だ。
抑えたつもりでも隙間から魔力が漏れて結局外に放出されている。
まあ、多少は少ないかなって気もするけど、そんなもん誤差だ誤差。
そもそも探知できるレベルで流れてるならなんの意味もない。
うーん、どうやるんだろうなー。
魔法が使えるって事は少なからず意識して魔力を動かしてるって事だし、その感覚で抑えようとはしてるんだけどなー。
けど、できてない。
ちなみに魔法の発動は、魔法ごとに違う魔法陣を構築し、そこに魔力を通した結果魔法が発動してるってイメージ。
あくまで私のイメージだから実際には違うのかもしれないけど、それで発動するんだからそういうもんだと思ってる。
で、その魔力を通してる時の感覚を再現してる訳だ。
できてないんだけど。
なんでだろ。
考えられるとしたら、構築した魔法陣が発動を補助してるって事?
ありそうだよなあ。
古今東西、魔法陣は魔法の力を強めたり、発動を補助したりするために使われる。
実際は、本場のヨーロッパじゃそんな事無いらしいんだけどね。
詳しくは知らん。
ま、それは置いといて。
構築した魔法陣が魔力を引き寄せ、結果魔法が発動してる説。
無くはなさそうなのがまた悲しい。
てかそんなの専門外なんだから考えるだけ無駄だわ。
今考えるべきは魔力の抑え方。
やるべきはその探究。
それに尽きる。
片手間に魔法の構築の練習をしつつ気長にやっていこう。
今までできなかったのだ。
急にぽんとできるなんて思わず、どっしり腰を据えて取り組もうじゃないか。
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