28.私もそうしなければ飢え死にをする体なのだ、などと供述しており
私は時に思う。
人の生活は、発展する前の方が幸福だったのではないかと。
現代を見よ。
人々は一人で生きる力を失い、大半の人間は生存する上で必要のない仕事に従事する。
化粧品がなんだ。
コンピューターがなんだ。
そんな物がなくとも人は生きて行ける。
だが、奇しくも生存を直接支える仕事よりもそれら関係のない仕事の方が優遇される。
故に、人々は生物として当たり前に有しているはずの獲物を狩る力を失ってしまった。
予言しよう。
文明は滅びる。
それは隕石でも火山の大噴火でもない。
太陽が放つ電磁波がほんの少し強くなった時、人類は選び分けられる。
獲物を狩る力を持つ物と、持たざる者に。
私は人類の未来に警鐘を鳴らす。
過ぎた文明は、人にとって厄災でしか無いということを。
何が言いたいかって?
金が無いですって話だよ。
どう繋がるのかって聞かれても私もわからんから困る。
なんで人類は貨幣なんて制度を生み出しちまったんだ。
おかげで金が無い私は何も買うことが出来ない。
そして、お見舞いを買うこともできない。
ふっ、どの世界でも持たざる者はいつまでも持たざる者のままなんだなあ。
さて、真面目にどうしよう。
ラウムにお見舞いを持って行きたいのに、それを買うお金がない。
お金を得るにはどうするか?
そんなの決まってる。
働くのだ。
問題は私にツテがない事。
異世界に来てまで金欠に悩まなきゃならんのか。
やだなー。
世知辛いなー。
もうこの際そのへんの人間襲うか?
強盗やっちゃうか?
……冗談で言ってみたけど、それが一番手っ取り早いかも。
もちろん罪なき一般人を襲う訳ではない。
要は私が反撃する大義名分があればいいのだ。
ついでにちょこっと失敬しても出るとこ出られなくする程恐れさせられれば完璧。
余計な事したら死ぬぞと。
そう思わせる。
なんだ、簡単だな。
さて、んじゃどうするかな。
一応候補はいるんだよな。
例えば、このねちっこい視線の主とか。
私の斜め後ろ、人通りが増えてきたあたりからなんかずーっとあとを付けてきてる奴がいるんだよね。
人数は二人。
目的がなんなのか知らんけど、尾行してるって事は碌な輩じゃない。
一瞬さっき脅したせいでナタールがビビって尾行させてるのかと思ったけど、そんな火に油を注ぐような馬鹿なことはしないでしょう。
マジでナタールだったらあの屋敷半壊させる。
不愉快なのと目論見が外れた腹いせに。
ま、そんなのなんでもいいや。
ふらふらっと大通りから外れて薄暗い路地に入る。
着いてくるかなーと後ろを探ってたら案の定着いてきた。
ん?
二手に別れたな。
挟み撃ちにする気か?
両方の位置を探るべく魔力を探知する。
ふむ……挟み撃ちでは無さそうだな。
十字路に差し掛かった時、その左側から分かれた奴の気配を感じた。
その気配から逃げるように右に曲がる。
しばらく歩いたら今度は右側から私を追ってた方の気配を感じ、左に曲がる。
や、上手いな。
たった二人なのにどんどん大通りから離されていく。
あ、ふと思ったけどこの裏路地が細くて狭いのも前線の町ってのが関係してるのかな。
大部隊が通りづらいみたいな。
大通りもナタールの屋敷から外れてたし。
とか考えてるうちに袋小路に追い込まれた。
すごいな。
まさに八方塞がりって感じ。
ここだと飛ばない限り逃げ場は無いんじゃないかな。
にしても、相手方ここの道知り尽くしてんな。
さっきの追い込み方といいやけに手慣れてたし、何回か似たようなことやってんじゃないの。
追い込まれてからさして間を置かずに気配の主が現れた。
うん、鎧とか見る限りナタールの所の奴ではなさそう。
騎士達が身につけてた鎧とは違い、革製だ。
ナタールの所も騎士団らしいしそれなら同じ鎧を着てるでしょう。
てかわざわざ追い込むような真似せんわな。
「おや、お嬢ちゃん。迷子さんかなあ?」
ほら来た。
ありきたりと言えばありきたりの文句。
これで確定した。
こいつら騎士団とはなんの関係もない。
好きに料理してよろしい奴らだ。
にしてもちょっと感動しちゃったよ。
これが人攫いの決まり文句か。
が、まともに相手する気はない。
悪・即・断。
「がっ!」
先に喋った方のデコに闇魔法発射。
流石に死なれたら後処理に困るから先端は平たくしといた。
当たり所によっちゃそれでも死ぬだろうけど、ま、気絶くらいで済むでしょ。
「なっ、てめぇ!」
はい黙っててねー。
もう片方も静かにさせる。
てか弱。
イケおじは当然としてラウムとも比べものにならない程弱い。
やっぱりラウムも副隊長だけあるなあ。
強かったんだなあ。
あ、忘れてたけど私顔怪我してたじゃん。
治しとこ。
さて、お待ちかねの強奪タイムだ。
この倒した獲物から物を剥ぎ取る感覚、懐かしいな。
懐に手を突っ込んでゴソゴソ。
お、これかな。
皮袋みたいなやつを見つけた。
紐を引いて開けてみると、中には銀貨だの銅貨だの。
財布はっけーん。
え、待ってなんか鉄くずみたいなのも入ってるんだけど。
これも貨幣なの?
や、まさかねえ。
お守りみたいななんかだろうなぁ。
もう一人の方も漁り、財布を探す。
あったあった。
うん、こっちも大して変わらんな。
ふたつ持ってるのもあれだし中身はひとまとめにしておこう。
よし、これで目的達成。
あとは余計な事しないように脅して終わりだ。
で、その方法だけどこれは簡単だ。いつも通り先を尖らせた闇魔法を発射して、強盗二人の頭の横にぶっ刺す。
ついでに壁にも同じような穴開けとくか。
終わり。
みんなも試そう!
人の脅し方!
ちゃんとビビってくれるといいんだけどなー。
よーし、目論見通りお金も手に入れたしお見舞い品を買いに……いや、いつ起きるかわからんしやめとくか。
せっかく果物買ったのに持ってく頃には腐ってたとかシャレにならない。
まあ店を冷やかして回るのも悪くないな。
せっかく初の異世界の町中散歩だ。
色々楽しんでおこう。
あ、あとちょうど一人だし色々試すか。
特に昨日考えた闇魔法の魔力の隠し方とか。
これが判明しないと最悪実力行使になってしまう。
それは避けたいし真面目にやらないとな。
まあ何はともあれ、いつまでもここにいる訳にもいかんし早いとこ大通りに戻っておくか。
それにそろそろ昼飯時だし、腹ごしらえをしなければ。
さあ、待っていろよ串焼き肉!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます