24.MP回復薬なんてなかった

……起きた。

 なんか意味わからない夢見た。

 前後上下左右全てが地面の無い空で、そこを風を切って飛んでいるなにかに振り落とされないように頑張る夢だった。

 落ちたらどうにかなるとかじゃなく、ただ漠然と落ちたらやばいって事だけ覚えてる。

 最終的には落とされて起きたんだけど。

 よくあるよね、落ちた瞬間の浮遊感で体ビクッってなって起きるやつ。

 まさにあれ。


 変な夢見たなー。

 まあいいや。

 さ、今日も元気にやっていこー。

 と伸びをしたらノックの音。

 未だ覚め切らない頭のままドアを開けた、寝起きに見るにはちょっとどころかかなりキツいギラギラした赤髪を肩の辺りで短く揃えた顔、ラウムがいた。

 こちとら寝起きでぼーっとしてると言うのに見るからに元気いっぱいって感じだ。

 小学生か?


「だわわっ!」


 なんか奇声を上げながら私を押して部屋に入ってきたラウム。

 何その鳴き声?

 初期のポケ〇ン?

 ポ〇モン図鑑かなんか?


「なんで服着てないの!?」


 え?

 あー……。

 ラウムの言う通り私は今服を着ていない。

 いや待て!

 誤解がある!

 別に好き好んで全裸な訳では無い!

 私は寝間着を持っていないのだ。

 そこで困った。

 私の常識人な部分が服を着たまま寝るとシワになるぞと喚き、人間的な部分が全裸とは全く嘆かわしいと首を振る。

 どうすりゃいいのこれ?

 最終的に龍の部分が部屋の中は私の城だ!

 好きにすればいい!

 となり、結果こうなった。

 うん。

 自分でもなんでこうなったかわかんね。


 まあそんな訳があるんですが、これ説明すんのダルいなぁ。

 適当でいいや。


「気分」

「気分!? 気分で全裸で部屋に来た人の対応すんの!?」


 なんかもっとめんどくなった気がする。

 うーん……知ーらない。

 てかそれならなんか寝る時に着れそうな服を寄越せってーんですよ。

 じゃなかったら流石に着て寝たわ。


「私だったから良かったけど、グラムとか男が来たらどうするつもりなのさ……」


 や、別にいいんじゃない?

 龍になってりゃ全裸みたいなもんだし。

 そんなの今更気にせんわな。


「次から気をつけること! いいね!」


 だから服……まあいいや。

 めんどくさい。

 で、こんな朝っぱらから何しに来たんですかね、こいつは。


「とりあえず服着て」


 うーっす……。

 昨日と同じ手順で畳んでいた服を着なおす。

 着ている間にラウムが来た理由を話し始めた。


「朝ご飯食べる場所ってわからないでしょって思ってさ。案内するよ」


 朝ご飯!

 そうね、大事ね、朝ご飯大事。

 1日の始まりは朝食からである。

 食べないと太るって言うし、あと中学くらいだとしきりに食べないと集中できないみたいな話をされたのを覚えている。

 鵜呑みにする訳じゃないけど、私は体質的に朝食べないとその日1日まともに頭回らなくなったりもするから大事。


 ま、さっきからベーコンが焼けるいい匂いがするし、案内を貰わなくても勝手に行ったと思うけどね。


「んで、その後はお昼までお勉強タイムね。みっちりやるよー」


 お勉…強……だと……?





 ─────────────────────




「で、魔力ってのは有限な訳だけど、魔絶……えーと、使い切っちゃダメ。無くなると魔法が使えなくなるし、身体能力も低くなっちゃう。まあ大体は魔絶病になるからそこまで行かないんだけど」


 そして私の部屋でお勉強タイム。

 数学とかやるのかと思ったら、どちらかと言うと一般常識だった。

 や、これは素直にありがたい。

 私なーんも知らなかったし。

 特に魔力を使い切った時の話。

 今聞いてるやつだけど、これ知りたかった。


 しっかし魔法使えなくなるのか……辛いな。

 まあそりゃあ体内にしかない魔力使い切ったら使えなくなるわな。

 燃料が入ってないエンジンが使える訳がない。


 で、魔絶だの魔絶病ってのはなんですかね。

 字面的に魔力が無くなるってことで?


「ちなみに魔絶病にかかるとほぼ死ぬ」


 気をつけます。

 こわー。

 このエンジンは燃料切れると爆破するよ!と来たもんだ。

 なんだその不良品。

 保険対象外ですか?


「魔力の補充」


 けど、それなら魔力を切らさなきゃいいんでしょ?

 エンジンよろしく後から継ぎ足せばいいじゃん、って言うのは私の意見。

 それができるならそもそも問題にはならないでしょうよ。


「ムリムリ。人には無理だし、大概の魔物とか動物もムリ」


 ほら来た。

 できるなら問題じゃないんだよ。


 ん?

 あれ?

 私、魔力取り込んだよね?

 それでこんな風になったよね?

 んで、龍玉は魔力が結晶化したやつで、私それ食べてるよね?

 おや?


「それでも例外はあって、龍とか数百年生きるような長生きな種類になると魔力を吸収できるみたい。詳しい事はわかってないんだけど」


 ほーん。

 詳細不明と。

 まあな。

 龍とか穏やかに生きればほぼ無限の寿命らしいのに、魔力切れると死ぬって意味わからんもんな。

 それでも他の龍が全滅したら死ぬだろうけど、まあそれはさすがにありえないだろうし。


 推測するに、魔力を吸収して変化した龍が短命になるのってそれが関係してるんじゃないか?

 魔力の消費が激しくなるみたいな。

 あくまで推測だけどね。


「安心していいよ。魔力なんか余程の無理、それこそ一度に国一つ消し飛ばしたりしなければそうそう無くならないし」


 や、だとしても私補充できるんで大丈夫ですね。

 龍なんで。

 なんならその話聞いてイケおじのいる帝国をまとめて吹き飛ばす事まで頭に浮かんだよ。


「で、魔法は火、水、風、土、闇、光、回復の7種類に分かれてるんだけど、詳しくは知らないんでどっかで専門の人とっ捕まえて教えてもらってください。ちなみに私が使えるのは闇と光が少々」


 へー。

 闇と光って相反するイメージだけど、特に片方覚えるともう片方使えないみたいなことは無いのか。


「闇は邪魔したり隠れたりとかが基本かな。コソコソとやるには便利だよ。そういえば君も闇魔法使えたっけ?」


 え?

 あー、はい。

 そういえば初日にガッツリぶっぱなす気満々の闇魔法見られましたね。

 そうですね、使えますよ。


「あの魔法、かなり攻撃的な形だったよね。闇魔法って妨害系が多くて攻撃は結構上位じゃないとできないはずだから、君って実は結構凄い魔法使いだったのかも」


 えっ。

 そうなの?

 かなり連発してましたが?

 なんなら初めて使った魔法があれまである。

 むしろ他といえば形を変えて分身を作ったり身にまとったりしかできなくて……割と自由自在だな?

 上位ってそういう事か?


「光は熱線で攻撃したりとか呪いを浄化したりとか色々できるんだけど、ちょっとした明かりが出せるだけで便利すぎてねー。飽きて辞めた」


 飽きましたかそっすか。

 それなら仕方ない。

 そうなると私が使えるのは火、闇、風、回復の4つか? 

 

「あ、回復って光に片足突っ込んでるて事で、実質6種類ってみなす人もいるから注意ね。めんどくさい人だとそれで怒ったりする」


 はーい。

 そうなると光も使えてるようなもんなのか?

 微妙なところだな。

 とりあえずどんな世界にも細かい所を気にするめんどくさい人がいるのはわかった。


「あとは……えー。あ、そうそう。ヴィズル教は注意ね」


 ん?

 宗教関係?


「帝国の北の方の聖ノールテッド神聖皇国ってとこが総本山でヴィズルって神様を信仰してるんだけど、結構過激な信者が多いから」


 やっぱりどこの世界も変わりませんなあ。

 人は神にすがらなければならない弱い生き物なのだよ。

 私?

 龍です。


「聖龍の事を邪龍とか言うし、親龍王国とは仲悪いんだよね」


 聖龍ってあれか、この国を守護するだとかなんとか。

 え、もしかしてこの国も宗教国家?

 ラウムも狂信者だったりする?


「あ、別に聖龍の事を神様なんて言うわけじゃないからね? 聖龍は建国以来の良き隣人って感じ。お互いに困った事がある時は手を貸すようにね」


 良かったー。

 私宗教とか興味無いんで。

 勧誘とかされたら対応に困ってたわ。


 ん?

 てことは聖龍ってもしかしたら場所割れてるのでは?

 ……よし、一応聞いてみるか。

 なんて聞こう?

 普通に聞いちゃっていいかな?

 ええい、ままよ。


「聖龍はどこ?」

「うーん、おとぎ話だと北の山脈のどっかにいるって話だけどね。王族なら詳しい場所も知ってるだろうけど」


 いやー流石に王城に忍び込むのは無理だろうなあ。

 そんな警備の厳重そうな場所、考えるだけ無駄って感じただ。


 にしても思わぬ所で情報ゲットしたな。

 おとぎ話だからそこまで信憑性は高くなさそうだけど、試してみる価値はあるかもしれない。

 上々上々。

 これでもし情報が無かったとしても、最悪北の山脈を目指せばどうにかなるかしれない。

 ついでにその山脈の場所も調べられたらいいな。


 悪巧みしてたら、またノックの音が聞こえた。

 ラウムの時よりも少し力強い音だ。


「はーい」


 なんでさも当然のようにラウム出るん?

 ここ私の部屋なんだけど?

 話すの面倒だしいいんだけどさ。


「ラウムかよ。名無しはどこだ?」


 顔を出したのはグラムロックさん。

 どうでもいいけどグラムロックの仲で私は名無し呼びが定着してるのか。

 別にいいけどさ。


 そういえばラウム曰くグラムロックって昨日帰ってこなかったらしいね。

 ナタールとの話し合いが長引いたのかね。


「いるよー。ただいまお勉強中」


 はーい。

 で、なんか用?


「ナタールが聞きてえ事があるとよ。今すぐだ」


 と親指で後ろを指す。

 ナタール来てんのかなーって思ったけどそんな事は無く、なんか表出ろみたいなハンドサインらしい。

 まあお偉いさんがそうそう出歩くはずもないか。


 そんで今すぐね。

 はいはい。

 ローブ着るだけだからちょっと待ってね。


 立ち上がって椅子にかけといたローブを着る間、ラウムとグラムロックの会話に聞き耳を立てる。。


「ナタールさんなんて?」

「伝える必要があるなら言われんだろ。俺はなんも言わねぇぞ」


 ラウムとグラムロックは隊長と副隊長って立場の違いはあるけど、傍目にはそんな風に見えないよね。

 それでも今のグラムロックの反応を見る限り、悲しいかな、やっぱり立場ってのはある訳だ。

 ラウムはブーブー言ってるけど、多分当人も分かって言ってんでしょ。

 知らんけど。

 知らんけどって添えとけば何言っても許される風潮。


 にしても、聞きたいことかあ。

 行きたくないなー。

 昨日の雰囲気的に和やかな質問って訳じゃなさそうだったしなー。

 怖いなー。


「そうだ、汚れてもいい服で来いだとよ」


 拷問……?

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