21.みんなこわい
そんな訳で私が連れてこられたのはラウム達が拠点としてる建物だ。
つまるところさっき第0小隊が帰ってきたのはここで、騎士達は外の厩舎で馬に飼葉をやったり水をやったりしてる。
その中には私が乗ってた荷馬車もあるわけで。
うん。
私やっぱ乗ってても良かったじゃん!
まあ乗ってきたんだけどね!
その建物の中で、今私はラウムの部屋にいる。
服を貸してくれるそうな。
町に着く前もそんな事言ってたよね。
ただなあ。
サイズ合わないと思うんだよなあ。
身長?
いやいや。
たしかにラウムは女性にしては大きめで私の方が小さいけど、そこまで大きい差でもない。
5センチかそこらだ。
多分。
知らんけど。
うーん、まあ見間違いかもしれないし、きっと大丈夫だよね!
そう信じてる!
あ、ちなみにグラムロックは部屋の外で待機してる。
グラムロックェ……一番偉いはずなのに……。
あとここに来る道中やれデリカシーが無いだの女心を理解しろだの鈍感朴念仁だの散々に言われてたから多分しょげてる。
てか最後の何?
惚気か?
爆発案件?
今どき主人公でもそんな事言われないぞ。
「なんか着たいのとかある? フリルの付いた可愛いのとかはないけど」
しょうもないことを考えてたらラウムに希望を聞かれた。
着たいもの……ふむ、特に無いな。
前世でもオシャレとかそんな興味無かったし。
そもそも私服が必要な場面少なかったからね……平日は学校だから制服で十分だったし。
休日?
私が家から出ると思う?
「動きやすくて着やすい服」
これに尽きる。
もし何かあったら逃げやすい服がいいし、変に着づらい服とかめんどくさい。
「スカート? ズボン?」
「ズボン」
スカートだと気をつけなきゃいけなくなるからやだ。
別に見えるのはいいんだけど、そうなると男共の視線が不快極まりない。
女って意外と気付くからね、ああいう視線。
「じゃほいこれこれこれー」
ぽぽぽーんと投げつけられた服をキャッチして広げてみる。
ん?
あの、これ、ん?
ズボンてかあれですね?
ショートパンツってやつですね?
そこまで短くはないけど、けど、そっちかー。
ちょっと予想外だなー。
初めて着る。
まあ別に普通のと変わらんでしょう。
で、あとは…シャツと下着、あとローブかな?
着方も変に複雑そうじゃないしさっさと着ちゃおう。
下着付けて、ショートパンツ履いて、シャツを着る。
あとはその上からローブを羽織って首元で留めればはい完成。
ラクでいいわー。
ささっと手早く着替えた私を見てラウムが一言。
「あれだね、全っ然サイズ合ってないね」
言うな!
ちょっと胸元がぶかぶかとか自分でも思ったけど言うな!
大体ラウムのがでかいんだよ!
私のは小さくないですー!
普通ですー!
……はあ。
世の中まっこと理不尽な事よ。
一応は同じ人型のはずなのに何故こうも差ができるのか。
いいし。
私が龍に戻れば人間では到底辿り着けない驚異の胸囲になるし。
別に悔しくなんかないやい!
「ま、服はまた後で採寸してもらおっか。ほらほら、さっさと用事済ませちゃおー」
軽い感じのラウムに背中を押されて部屋を出る。
これだから余裕のある人は……小さき者の気も知らず……。
「で、グラムロックご感想はー?」
人間ってそう言わなきゃいけない呪いにでもかかってるの?
キラキラオーラがそうさせるの?
「……似合っている」
グラムロックもさーそんな言いづらそうに言うくらいなら一々応じなければいいのに。
これはあれだね、この二人だとグラムロックが尻に敷かれるね。
はーやだやだ。
キラキラしたリア充はこれだから……。
「じゃ、早く行こー!この後お楽しみもあるしね」
なんてドヨドヨした陰キャオーラを全開にしてたら、歩き出したラウムに手を引かれる
なんでこう、リア充ってサラッと人の手握れるんだろうね?
不思議ですね。
でお楽しみってなに?
私聞いてないんだけど。
「にひひ、ふ、く。 君綺麗だし楽しみだね!」
…………え?
ワタシ、キイテナイデス……。
─────────────────────
そして辿り着くは町の中心部。
ここなんて町だっけ?
クラナハ?
確かそうだった。
で、そんな立地にあるこの見るからにお高いです!みたいな屋敷は多分日本で言うところの支庁とかそんな感じでしょう。
中世的に言うなら領主の館。
だって見てこれ。
噴水を備えて更に庭師が手間暇かけてそうな植え込みだの芝生だのがあるって時点で金持ち感バリバリなのに、更に奥にはこの武骨な町には似合わないようなきらびやかな屋敷があるんだからね。
はっきり言おう。
これセンス無い。
建物単体で言うなら割といい線言ってると思うけど、町との調和って点で言えば何も考えてない。
私はそう思ったんだけど、そこは何度も訪れて慣れてるのかラウムとグラムロックは何も言わず門を潜った。
私もその後を離れないように着いていく。
で、玄関まで着いたわけだけど、これがまた凄い。
濃いこげ茶色の木の扉に金細工で色々装飾されていて、さらにドアノッカーまで金色だ。
金だらけとか普通下品に感じるところだけど、木の色合いのせいか落ち着いて見える。
それじゃ、ここであの金ピカのドアノックを叩くなりなんなりして待つのかと思いきや待たないんかーい。
え、いいの?
グラムロックは勝手知ったる我が家みたいな感じでズンズン歩いてくし、ラウムも特に何を注意するでもなく普通に着いていく。
まあそれに着いてく私も大概だけどさ。
「ここ、毎回思うんだけどちょっと趣味悪いよね」
とはコソッと囁き声のラウムさん。
やっぱりそう思うんだ?
あんまり無反応だから私がおかしいのかと思っちゃったぜ。
意味わかんないくらいフカフカの赤絨毯の廊下を歩いていくと、一際豪華な扉の前でグラムロックが止まった。
お偉いさんがいるのはここか。
こっそり魔力探知。
おーおー誰かいるね。
3人か。
配置的に椅子に座ってる人と、その後ろに控えている人と、あとなんだろ、なんかしてる人。
しょうがないでしょ!
細かくどんな動きしてるかはわからないの!
どんなのがいるかと大雑把な動きくらいしかわからないの!
ちなみに、私に勝てそうなやつはグラムロック含め誰もいない。
もしかしたらいるかもしれないけどね。
なんて分析してたら、グラムロックの眉がピクっと動いた。
げ、察知された?
てかこれ察知できるの?
その辺お母さんも教えてくれなかったな……とりあえず切ろう。
「入るぞ」
雑にノックをするなりいきなり扉を開けて入るグラムロックと、それに続くラウム。
もう何も言うまい。
「グラムロック、ラウム。報せが無ければ使用人に摘み出させていたぞ」
「貴族の作法なんぞ知るか。傭兵流だ」
「いい加減それが敵を作っているんだと弁えてくれ」
あまりにもっともな事を言ったのは、椅子に座って紙と睨み合いをしていた男だ。
歳?
分からん。
30は確実に過ぎていると思う。
くすんだブロンドの髪をマッシュヘアにして眼鏡をかけた、いかにも文官って感じの男。
その男が書類から顔を上げ、グラムロック達に送った後に私で止まって首を捻る。
「彼女は?」
「森で拾った。記憶喪失、名前無し、しばらく保護」
グラムロックのあまりにあまりな説明にこめかみを抑える男。
なんか、胃痛が酷そう。
ご自愛ください。
「ラウム」
「はーい。その子は黒龍がいた森で保護しましたー。何かの拍子に記憶喪失になったみたいで、会話くらいはできますが他には何も知りません。名前は嫌がるので無しで。身寄りが無いので保護希望らしいです」
軽い調子のラウムの説明を受け、何事か考え始める男。
いや、それにしても改めて聞くと私の不審者感半端ないな。
普通の人間がいたら即死ぬような生物がいる森で見つかって、更に記憶までない。
怪しさ満点。
普通なら牢屋に入れるくらいはするだろうね。
誰だってそうする。
私だってそうする。
「はじめまして。私はローレンツ親龍王国騎士団西方支部支部長のナタールと申します。見ての通り武芸の方はからっきしなので、主に事務仕事を担当しています」
立ち上がって握手を求められたけど、私右手無いんですよねー。
ローブに隠れていた中ほどまでしかない右腕を上げてそれを示す。
それを見たナタールと名乗った男は差し出した右手を引いておどけてみせる。
「おっとこれは。失礼を」
ええんやで。
私もそんな気にしてないしね。
ただこの男、今ので全然表情が変わらなかった。
慌てた様子も何も無い。
それどころか油断なく私を観察してる。
嫌なタイプだわー。
これならまだラウムみたいな陽キャバリバリの方がラク。
この男の前では私はかなり気を遣わないとすぐバレる気がする。
例えるなら蛇。
油断したら即食われる。
「なにか援助が必要ならば言ってください。できる限りの事はしましょう」
誰が頼むか!
何があるかわかったもんじゃない!
怖すぎるわ!
「それと、私は立場上貴女を調べもせずそのまま受け入れるという訳にはいかないのです。近いうちにいくつかお聞きしたいと思いますが、構いませんね?」
確認の形を取っておきながら、有無を言わせぬ雰囲気だ。
断っちゃ駄目?
駄目だよねー。
ここで怪しまれる訳にもいかんしなー。
ま、いざとなったら嘘はついてないけど限りなく嘘に近いことを言って誤魔化そう。
今のところは紳士的な態度を崩さないでくれてるし、拷問みたいなことはされないでしょう。
多分。
そう判断して頷いて返す。
「ありがとうございます。では、その日程に関してはまた後日グラムロックを通してお伝えします」
それで私の話題は終わったのか、今度はグラムロックの方を向いて黒龍について聞き始めた。
はあ。
なんかもう、疲労がマッハでヤバい。
グラムロックも謎男もこいつもなんでこんな話してると疲れるの?
あ、私そもそも話してるだけで疲れるタイプだったわ!
笑えねー。
あまりに他が強烈過ぎるからラウムとの会話が楽しく感じてしまう不思議。
ごめん。
それは無いわ。
楽しくは無い。
比較的マシ程度。
「ナタールさん、私達はもういいかな?」
グラムロックと今後の方針を話し合ってたナタールに、ラウムが物怖じせずに話しかけた。
まあ知り合いみたいだし、物怖じせずってのはおかしいか。
「ふむ……そうだな。構わないか。いいぞ」
「だってさ。ほらさっさと行こう」
あなたが神か……!?
わーいありがとう!
喜びいさんでラウムに続いて部屋を出たら、扉も閉めたラウムがなんかさっきも見たいい笑顔で振り返った。
ん?
なんだろう、寒気がするぞ……?
「じゃ、服買おうか!」
ありが……とう?
こいつが邪神か畜生め!
「はーいちゃっちゃと行くよー」
グラムローック!
ヘルプミー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます