20.中世っぽい町並みにワクワクするのは私だけじゃないって信じてる

 みーちはつーづくーよーどーこまーでーもー。

 思わず歌い出すくらい平和な道だ。

 旅もそろそろ言われていた旅程は終わりかけ、今日中に着くだろうとはラウムの談。

 あの夜以来謎男は顔を見せず、魔物らしき魔力をいくつも感じつつも遠巻きにされている感じだった。


 まあな。

 そりゃあな。

 私いるしな。

 龍とかいう絶対強者がいるのにわざわざ襲ってくるような魔物なんかいないわな。

 そんな訳で平和な旅路である。

 なので、さんはいっ。

 みーちはつーづくーよーどーこまーでーもー。


「あ、ほら見えてきたよ!」


 続かなかった。

 道が終わった。


「クラナハ!」


 元気なラウムの声に釣られて体を起こすと、地平線に灰色っぽい何かが見えてきた。

 ほーあれが町か。

 龍になって人よりも強化された視力で見てみると、灰色の石でできた城壁の入口付近に人が溢れていた。

 関所かな?


「あそこに着いたら詰め所に寄って、それから支部に寄るからね。ちなみに私達第0小隊の本拠地はあの町」


 なんか聞いた話だとラウム達の小隊って厄介者を集めた小隊らしいし、それって左遷みたいなものでは。

 厄介者を纏めて国の端っこに送り、あわよくばそこで壊滅すればいい儲けもの。

 考え過ぎかもしれんけど人間こわー。


「王国の騎士団は辺境の魔物を討伐して街道付近の安全を確保する役割をあるからね。近衛騎士の第1小隊以外はだいたい王都以外の町にいるよ」


 考えすぎだったようです。

 貴族特有のなんかドロドロした政治的やり取りがあったのかと思っちゃったぜ。


「町に着いたら、キミは私に着いてきてね。服とか用意するし」


 はーい。

 ちなみに私はまだ名前無しで通っている。

 いらんし。

 てか人間に名前付けられるのも癪だし。

 めちゃくちゃ名前付けようとしてくるのを断固として固辞した。

 まあずっと「いらない」とか「嫌」って言ってただけだけど。

 最終的に「新しい名前になると私じゃなくなりそうで怖い」的な事を頑張って伝えたらラウムが説得してくれた。

 記憶喪失って便利ー。

 私これから先記憶が戻る事は絶対にないです。


「あ、でもその前に報告か……伝令が先だね。まあそれも私が案内するよ。グラムにも許可は貰ってるから」


 私の行動が私の知らない間に決まっていた件。

 や、別にいいんだけどさ。


 まあ町に入った後のことはいいとして、問題はどうやって龍の居場所を探るかだよね。

 多分ラウムとグラムロックに聞いても素直に答えてもらえないと思うしなぁ。

 そもそもなんて聞くの?

 ストレートに「龍の居場所教えて」って聞く?

 そしたら「なんで?」ってなるじゃん。

 嘘言うにしろ私にはハードル高いじゃん。

 無理じゃん。

 詰んだ。


 そうなると書類みたいなのがあればやり取りは借りる時だけになるから楽そうだなあ。

 ラウム曰く支部があるらしいし、そこで漁ってみるか。

 借りる言い訳はまあおいおい考えるって事で。


 無かったら?

 ホールドアップして尋問しよう。

 そしたらマップにマークされるはずだ。

 なんやかんやでガタゴト揺られていたら、10分くらいで着いた。

 感覚だから合ってないかもしれんけど。


 ちなみに関所はグラムロックの顔パスで通ったっぽい。

 私のお咎めも無し。

 流石国お抱えの小隊長、とも思ったけどそれでいいのか兵士さん。

 まあいいんでしょう。

 私が悪人だったら警察に連行されてる最中みたいな物だし、被害者だったら保護してるだけだもんな。

 人じゃなくて龍だけど。


 町の中は、外の集団に劣らずの賑わいっぷりだった。

 景観としては、いかにも「ファンタジーです!」って感じの灰色の石材で作られた家が並んでいる。

 なんだろう、武骨な印象を受ける景色だ。

 そんなんでもワクワクしてくるんだから不思議だなあ。


 だって考えてもみてほしい。

 ザ・中世である。

 アニメとかラノベとかを見た事がある人なら誰しも一度は見た事がありそうな町並みである。

 最&高。


 ん?

 なんか、町並みも無骨だけど、心無しか道行く人たちもガタイのいい鎧を着た人たちが多い気がする。

 や、ほかの町とかマトモに見たことないしわからんけどさ。

 ここが魔物なんてのがいる世界で、入口付近だからってのもあるとは思うけどそれにしたって多くない?


「どったの?」


 体を起こしてキョロキョロしてたらラウムに見つかった。

 まあ気を遣ってくれてるんだし聞いてみるのもやぶさかではないな、うん。


「鎧」

「え?」

「多い」


 聞いてみたらキョトンとされた。

 え、何?

 わからない?

 マジ?

 もっと噛み砕いて言わないとダメ?


「鎧着てる人が多い」

「あ〜」


 今度はちゃんと理解してもらえたようだ。

 まったく、私の口は気分が乗らないと2文節以上喋れるようにできてないんだから。

 ちゃんと理解してもらわないと困りますなー。


「まあこの町は帝国領に1番近い町だしね。小さい村とかならあるんだけど、軍事的に利用できるような立地でもないから。もし戦争になったらここが最前線になるってわけ」


 へー。

 それで戦えそうな人が多いのね。

 もし帝国と戦争になったら、ここが第1の防衛ライン。

 どっちが攻め込むかによるとは思うけど、王国の方は消極的らしいし多分初めは防戦でしょう。

 後の外交を有利にする為の予防的一撃とか言い始めたら知らんけど。

 ま、人間のいざこざなんぞ私は知ったこっちゃないしどうでもいいわな。


「まあ、後は西の大森林に対する防壁の役割もあるからかな。はぐれてくる魔物もなんだかんだ多いし、傭兵とかが生活するには割といい場所なんだよ、ここ」


 まだ理由があった。

 もしかして、ラウム達もこの町で過ごしてた事もあったりして。

 てかほぼ確実に住んでたんだろうなあ。

 ちょっと懐かしむような空気を感じる。


 うん、まあそれはいいとして。

 気になる事が1つ。

 西の大森林?

 それお母さんの縄張りじゃあないですかね?

 そこの防壁?

 あそこなんかヤバいやつでもいるの?


「防壁?」

「え?」

「なにかいるの?」

「なにかって言うか……光龍の縄張りなのは有名な話だし、黒龍もそっちの方から飛んできたって言うし、あとはそもそもあそこの原生種の動物が半端じゃなく強い。魔物でもないのに上位の魔物と張り合ったりするし」


 へー。

 龍が2頭もねー。

 そりゃ怖いわー。

 はっはっはー。


 違ぇよ!

 動物が半端じゃなく強い!?

 それ鹿とかイノシシとか熊とかだよね!?

 美味しくいただきましたがなにか!?


 マジかー。

 あれ人間的には強いのかー。

 下手に前世の動物と似たような見た目してるせいで人間には流石に敵わないと思ってたわー。


 で?

 あれを日常的に狩って食べてた私らなに?

 化け物かなにかか?

 あながち外れてないのが怖い。


「お前らは先に帰ってろ!次の任務が決まるまで好きに休んでろよ!」

「はっ!」


 ショックを受けてたらグラムロックが騎士に指示を飛ばして帰らせた。

 グラムロックは違うところに行くみたい。

 報告かな?

 まあ私はこのまま着いてこうかな。


 や、違うよ?

 あわよくばベッドで寝たいとかそういう事じゃないよ?

 単に荷馬車から降りるタイミングを見失っただけで。

 じゃ、どこか知らんけど私先に帰ってるんでー。

 さらばだー。


「名無し、降りろ」


 とか余裕ぶっこいてたらグラムロックが馬に乗ったまま、荷馬車で寝転がってる私を見下ろして言った。

 あ、降りるの?

 それはいいんだけど、私裸足だからゆっくりとは言え走ってる荷馬車から石畳に降りたら結構酷いことになると思わない?

 私は多分平気だけど、人間なら大変な事になるでしょ?


「早くしろ」


 そう思って首を振ったら、左手を掴まれて無理矢理引っ張り上げられて馬の後ろに乗せられた。

 ちょっ、おまっ、あっぶな!

 毛布ずり落ちたらどうしてくれる!

 ただでさえ半裸なせいで道行く人、特に男の視線が不愉快なのに、真っ裸になったらもっと酷くなるだろうが!

 虐殺しないだけの慈悲を見せてる私に謝れ!


「お前も報告に来い。詳しい処遇を決める」


 背中越しに聞こえるグラムロックの声。

 まあそれはいいけどさ。

 半裸で?

 お偉いさんに会いに行くのに、私は半裸か?

 変な目で見ないなら私は構わんけど、それ礼儀的にいいのか?


 と思ったら同じく馬に乗ったままのいい笑顔のラウムにガシッと掴まれた。


「ふ・く」


 ですよねー……。

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