18.早起きは三文の徳らしいけど、あれ絶対嘘
目が覚めた。
おはようございます。
私、昨日何してたんでしょうね。
だってさ〜急に目の前であんな空気なっちゃったらさ〜。
知ってる?
コミュ障って対人経験少ないからああいう時テンパるんだぜ?
結果あれである。
死にたい。
もう嫌だ!
イケおじを殺して私も死ぬ!
ヤンデレでもなんでもなくただの八つ当たりだ!
まあ不幸中の幸いというか、ラウムがなんだこいつみたいには思わなかったみたいだったのはマシだったかなあ、うん。
あれで「は?」みたいな顔してたら死んでた自信がある。
まあそれでも恥ずかしかった事には変わりないんだけど。
はあ。
よし、あれはあそこでおしまい。
もう何も考えない。
考えたら逃げ出しそう。
さーて、天幕ってめちゃくちゃ風通しいいんだよね。
もはや外と変わらんレベル。
それから察するに、今は日の出直後のまだ朝靄がかかってる時間帯。
見張りの兵士もうつらうつらし始める頃じゃなかろうか。
言うよね。
夜襲は明け方って。
まあ今はもうそれなりに明るいし遅いかな。
さて、別に夜襲する訳でもないし、折角早起きしたんだから散歩でもしたいな。
できれば文字通り羽を伸ばしたい。
物理的に。
そろそろ肩が凝りそうだ。
ここ数日ずっと人のままだったから全身バッキバキである。
ストレッチはしてるんだけどどうにもならんくてねー。
まあ散歩と言っても私マッパだし、マッパで外に出たのが見つかると騎士達に一瞬で強制送還されるのだ。
2日目にした時は気づいた時には天幕の中にいた。
超スピードだとか超能力だとかそういうちゃちなものじゃー断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
ホント、全く気づかない間に天幕にいたのだ。
騎士達の気遣い精神がカンストしてる。
だが、今は明け方。
騎士達も見張りを残してほとんど眠っているはず。
ラウムみたいに。
いや流石にここまで寝相酷くはないと思うけど。
何をどうしたら頭がベッドの下の方に来るんでしょうね。
私、気になります!
まあそれは置いといて、だ。
今ならマッパでも見つからずに散歩できるのではないかと、そういう訳ですよ。
いや待て。
今の言い方だと私が露出狂みたいじゃない?
それは誤解だ!
違うからな!
私は服がないから仕方なく裸族の真似事をしてるんであって、服があったらちゃんと着るからな!
決して龍とか常にマッパじゃん関係なくね?ってなった訳ではない!
……やっぱ毛布被って行こ。
物音を立てないように毛布を体に巻き付け、するりと入口の垂れ幕を潜る。
外の空気は、予想通りまだ冷たくひんやりとしていて心地よかった。
私、このなんとも言えない時間帯の空気好きだなあ。
朝靄を吸い込むと頭がスッキリする気がする。
さて、散歩とは言ったものの野営地からは出られないんだよね。
見張りが立ってるから見つかると連れ戻される。
頑張れば見つからずに外に出られるとは思うけど。
ダンボールがあれば余裕だね。
まあそこまでして外に出たい訳でもなし。
羽を伸ばすのはまた今度にしよう。
今日はこの空気を楽しむのだ。
そう決めて野営地をぶらぶらしてたら、野営地の端に流れる川の脇で1人座っているグラムロックを見つけた。
あれも早く起きた口かな?
あーでもあれ真面目だからな。
このくらいがいつも通りなのかもしれない。
手持ち無沙汰なのか、どっかで拾った小石を手の中で回している。
ん?
小石?
待て待て、私岩龍の殻どこに置いてきた?
森に来たばっかりのころはあった…気がする。
そのあとの記憶が無い。
あれ?
ふむ……しーらない☆
まあどうしても必要になったらまた拾いに行けばいいんだ。
場所は覚えてるんだし。
よし、解決。
さて、じゃあ天幕に戻るかな。
え?グラムロックはいいのか?
顔怖いしやだ。
あと私のことずっと値踏みするように見てたからまだ怪しまれてる気がする。
下手を打ってバレたら苦労した甲斐も無くなるし、顔もバレてるから町にも入りづらくなるかもしれない。
そうなったら国中虱潰しに探さなきゃいけなくなるから流石にしんどい。
そう思って踵を返したのに、気配でも悟ったかグラムロックに声をかけられた。
「何をしてる」
これだからこの世界の剣士はー!
普通気づく距離じゃないでしょー!
「散歩」
散歩です散歩。
用はないな?
私は戻る。
じゃあな!
「ラウムから聞いた。公的には俺の隊での保護、監視、調査という事になるだろうな」
ん?
監視と調査?
ふむ……いや、それは困るな。
人目を盗んで忍び込むか、そうじゃなければラウム達の手伝いという名目で情報を漁ろうと思ってたんだけど。
監視の目があったらそれも辛くなる。
このあと行くのがどんな場所かは分からないけど、調査なんてされてる人物を一人で歩き回らせるとは思えない。
しくったかなー。
ていうか、それ私に言っていいの?
私が警戒したらどうするんだ。
「お前がずいぶんと強力な魔法を使うのは見たからな。野放しにはしておけないって訳だ」
そう言うグラムロックの目は探るような目だ。
や、そんな疑っても何も無いっすよー?
魔法使うのはあれです、あれ、魔道具的な何か。
道具に魔力を流して発動するあれですよー。
あるか知らんけど。
あったとしても私何も付けてないけど。
あ、体内に埋め込まれてる的な?
何それ燃える。
私『自身』が魔道具なんだよ!とか言ってみたい。
「ま、どっかのアホが大騒ぎするせいで監視もまともにできなさそうだがな。奴に恨まれるのは怖い」
肩をすくめるグラムロック。
ん?
おうおう、当人もいないのにイチャついてんじゃねーぞ?
爆破されたくなけりゃな。
まあ流石に吹っ飛ばすのはまずいしやらんけど。
だが私の腸が収まらん!
せいぜい憎まれ口くらいはぶつけてやろう。
「拾った娘の反抗期は怖い?」
「くくく、反抗なんざしてみろ。八つ裂きにしてやる。ま、あいつはあいつで色々あるからな」
八つ裂きとか怖いっすわー。
てかこいつ話してみればそれなりに良い奴っぽい。
初対面の話し方がイケおじみたいで避けてたけど、意外と違うのかね。
まあわざわざ好き好んで喋ったりはしないがな!
今だって話しかけられなければ逃げてたしな。
はあ。
やっぱり人と関わると少からず会話は発生するよなー。
ちょっと後悔。
全スキップ機能実装はよ。
「お前はさっさと天幕に戻れ。部下が起き出したらまた大騒ぎされるぞ」
あ、そうでした。
私毛布しか巻き付けてませんでした。
ここ数日の全く生活に慣れて忘れてたぜ。
今度こそ踵を返して天幕に引き返す。
その途中にあるほかの騎士達の天幕から、少しづつ中でなにかしている物音が聞こえてきた。
ひぇーさっさと戻らんと怖い。
ちょっと走ろう。
毛布がずり落ちないように軽く押さえて天幕まで軽く走る。
天幕に戻って中に入ると、そろそろ起きるのかラウムが唸りながら寝返りを打っていた。
これだけ寝相悪いのに早起きなんだから不思議なもんだよ。
ずぼらなんだかなんかんだか。
ま、どうせ日の出まであと数分だ。
二度寝の気分じゃないし起きていよう。
今日はこの集団は近くの町まで引き返し、そこで報告をする。
イケおじの時とは違って、龍である事を偽装して潜り込むのだ。
元が人間だから大丈夫だとは思うけど、せいぜいボロを出さないように気をつけよう。
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