17.私もテンパってたんだ……

 私が保護されてから数日。

 グラムロックとラウムと名乗った2人に色々な事を聞いてみた。

 冷静に考えなくても私この世界のこと全く知らんからな。

 箱入り娘とか言われても納得するレベル。

 いやどこに一撃で人殺せる魔法ぶっぱなす箱入り娘がいるんだよって話なんだけど。


 2人はその間毎日のように森の中に入っていった。

 なんでも黒くて大きな龍を探してるらしい。

 やーねー怖いわー。

 ……そいつ目の前にいるわ。

 なんかすみません。


 で、分かったことなんだけど、今いるのはローレンツ親龍王国と言うらしい。

 岩龍のじっちゃんが言ってたことに間違いは無かったようだ。

 ここ200年くらいで急速に発展したガルドリア帝国と10年くらい前から冷戦中で、年々国民の中で開戦の兆しが高まってるとか。

 けど、国王以下貴族院は今のところ渋っている。

 原因は帝国が抱える名目上は協力義務の無い冒険者という戦力。

 特に帝国の東にあるエストハイゲンという町の支部のギルドマスターが厄介らしい。

 龍殺しだとか英雄だとか。

 まあイケおじの事である。

 あとは皇帝もかなり強いし、近衛兵も厄介なのが数人いるらしいけど、私的にそれはどうでもいい。


 問題は龍に対してある程度友好的と思われる名前の国が、イケおじを敵対視してる事である。

 敵の敵は味方理論で、どうにか協力関係を結べないかなあって私は考えた訳ですよ。


 もちろん直接戦うのは私。

 邪魔するなら味方でも殺す。

 ただ、露払いくらいならやってもらえればありがたい。

 イケおじと一緒にいた女もそれなりにやりそうな雰囲気だったし。


 まあ協力できるかわからんけどねー。

 何せ龍である私を武装集団が追っかけ回してたんだから。

 聞いてみたところ監視が目的だったらしい。

 バレてーら。

 多分岩龍のじっちゃんの所で見つかったんだろうな。

 じっちゃんを監視してた連中に見つかって、グラムロック達が派遣されたと。


 それで一番大事なこと。

 これからの私は処遇について聞いてみたところ、どうやら悪いようにはされないらしい。

 黒龍が見つかったら十人程度を護衛につけて近くの町まで送り、見つからなかったら報告に戻るからそれに同行して町まで戻る。

 その後は望むなら私の故郷を探す間保護しててもいいし、新天地で生きるならそれなりの援助はするから好きにしていいと。

 あ、ちなみに私はまた記憶喪失設定です。

 何を勘違いされたか、ラウムは奴隷商人に攫われてあまりのショックに記憶を失ったもんだと思ってるみたい。


 それにしても、ふむ……思わぬ形で町に入るという目標が達成されそうだ。

 まあ、最初からこれを狙ってたんだけどね。

 ……嘘。

 ごめん。

 完全に想定外だった。

 あのタイミングで幻肢痛来るとか思ってなかったしー。

 しかもまさか魔法使えなくなるとは思わなかったしー。

 しーしーしー。


 はあ……まあ結果オーライってことで。

 で、私には町についた後にこの集団にお世話になるか、それとも自分で過ごすかの選択を迫られている。

 うーん、お世話になった方が僅差で得かなあ。


 まずならなかった場合、私は当初の目的通りにどこか冒険者ギルド的な所へ向かって龍の情報を仕入れる。

 お世話になる場合だとそのまま今いる場所が情報のある場所だ。

 人と過ごすのは嫌だし、凄く苦痛だし、私が龍だってバレたらMI☆NA☆GO☆RO☆SIにするけど、それは結局町にいる間は変わらない。

 それなら着いていった方が手間がかからなさそうだなあ。

 それである程度情報を仕入れたらトンズラこいて人間とはこれっきり。

 よし、そうしよう。

 協力云々はその時が来たら考えよう。


 さて、確か今日見つからなかったら一旦報告に戻るって言ってたかな。

 私がここにいるから見つかるはずもないし、しばらくお世話になるって言っておこう。

 今は20人程度を留守番させて森に行ってるけど、今まで通りならそろそろ帰ってくるはず……。


「たっだいまー」


 ほら帰ってきた。

 ここ数日は同じ女性って事でラウムの天幕に毛布を敷いてそこで寝させてもらっていた。

 いつ寝ぼけて龍に戻るかと内心気が気じゃなかったわ……ちなみに朝起きたら1回だけ指先が少し龍っぽくなってた事はある。

 バレなかったみたいだけど。


「どこにもいなかったわー。もうこの森にはいないみたいだし、明日戻るってー」

「ラウム」

「はいはい?」


 帰ってくるなり上着を脱いでベッドダイブを決めたラウムの方を向き、座ったまま少し居住まいを正す。

 私だってこれくらいの礼儀はできるんですぜ?

 マッパなのはご愛嬌だ。


「しばらくお世話になる」


 軽く頭を下げる。

 私にしては珍しくテンパらないで喋れたけど、まあそりゃ同じ部屋で生活してりゃあいくら私でも慣れるわな。

 グラムロック?

 無理無理。

 あれ龍より顔怖いし。


「ん? ああ町に戻ってから? よっしゃ伝えてくる」


 言うなりラウムが凄い勢いで外に出てった。

 ノータイムだった。

 なんかあったんかな…?

 まあいいか。


 さて、じゃあ当面の間ラウムの所にお世話になるかね。

 私が龍だってバレないように、かつ他の龍の居場所を探る。

 その為には喋るの苦手とかなんとか言ってられない。


 ふむ…なんか凄いやる気が削がれる……今からでもやっぱ無しってダメかしら?

 ダメだよね。

 憂鬱だなー。

 まあこれもイケおじを倒す為だ。

 致し方あるまい。


 あれ?

 そういえば私、なんか忘れてない?

 いやそこまで大事ではないと思うんだけど、けど何か忘れてる気がする。

 はて、なんだったかな……。

 うーん、まあいいか。

 忘れてるもん頑張って考えてもしゃーなし。

 大事だったらそのうち思い出すでしょ。

 ド忘れってそういうもんよ。


「ほーいご飯でーす」


 忘れ物についてはそう結論付けて、毛布を巻き付けた状態でラウムのベッドに寄り掛かってたらベッドの持ち主が帰ってきた。

 危なっ。

 あっちこっち座標指定して遊んでたからバレたらヤバかった。

 ちなみに空間魔法の座標指定、指定した場所に面が無い箱ができる。

 それ自体は動かせないし触れないけどね。


「今日は焼き芋だってさ。塩はお好みでどーぞ」


 ほーん焼き芋。

 と体を起こして置かれた皿を見てみたら、焦げ目の付いたジャガイモが4個入ってた。

 いやまあ、確かに焼き芋ではあるが……焼き芋と聞くと連想される金色の甘いヤツではなかった。


 だがまあ、私、焼きジャガとか蒸したのとか結構嫌いじゃないです。

 あえて言うならバターかマーガリンが欲しいけど、無くても美味い。

 あ、干し肉とかと一緒に食べても美味しいんでない?

 数日前に食べた時は塩っ辛くてそんなに食べれなかったけど、芋と一緒なら行ける気がする。


「干し肉」

「ん?」

「一緒に食べたら美味い」


 さあ持ってくるのだ!

 感覚的に焼きジャガベーコンみたいで美味そうじゃないか!


「美味しそうだけど、食糧に関してはそんなに余裕ないから無理だよ。うちの小隊あんまりお金回してもらえないんだよねー」


 チッ、ダメか。

 美味しそうなんだけどなー。

 ていうかそれ以外にも理由あったんだけどね。


 私、肉食べたいです。

 人の体のうちはそんなに食べなくても平気だけど、やっぱ龍だし肉食べたい。

 肉以外はうまく栄養になってない気がする。

 変換効率が悪いって言うんかな。

 そんな感じ。


 ぐぬぬ……まさか龍だから肉食べたいなんて言えんしなー。

 諦めるか。


 じゃいただきまーす。

 諦めたところで芋に手を伸ばし、掴んで2つに割る。

 と、そこで気づいた。

 ラウムがめっちゃ見てくる。


「……なに?」


 な、なに?

 バレた?

 いやまさかしかしその可能性も無きにしも非ずでもしバレたのなら私は今ここでお前を殺し……。


「熱くない?」


 あ?

 私のおててには熱々の焼き芋。

 なるほど確かに。

 湯気立ってるね。

 え?

 全然熱くないけど?


「へー凄いね。私まだ触れないから冷めるの待とうかなー」


 もしかして私龍だから?

 熱に強いの?

 普通の人は触れない?


 やっちまったー!

 いやまあこれだけではバレないだろうけどさ。

 けどこういう違和感が積もって結果バレるってありそうだもんなー!

 まあやっちゃったもんは仕方がない。

 大人しく食べるとしましょう。


 片方は皿の上に戻し、袋の紐を開けて塩をつまんで芋に振りかける。

 多すぎず少なすぎずがミソ。

 多いとジャガイモの味が消えるし、逆に少ないと引き立たない。

 さて、じゃあお味の程は……。

 ふむ。

 ふむふむ。

 ほっくりしてるし絶妙な塩加減が甘さを引き立てていいもんですな。

 さすがに食べる為に改良された日本のジャガイモには劣るけど、少し大雑把なところが逆にいい。

 ウマー。


 惜しむらくは干し肉がないところよ。

 あったら絶対美味いと思うんだけどなー。


「ここ数日作戦会議ばっかだったから初めて見るけどさ、美味しそうに食べるねえ」


 そりゃ美味いもんを不味く食べるなんて無理でしょうよ。

 美味けりゃ美味い。

 美味そうなもんは美味そうに食べないと食べ物に失礼ってもんよ!

 違うか?

 違うな。

 いや違わないか?

 どっちでもいいや。

 大事なのは美味いもんを食ってるって事だよね。


「じゃ、私もそろそろ…わわわっと。あちち」


 私に釣られたのか芋に手を出したラウムが芋でお手玉してる。

 こら、食べ物で遊んじゃいけません。


 しばらくそうして、慣れたのかようやくラウムが落ち着いてジャガイモを割り、たまに持ち替えながら塩を振って食べた。


「うーん、私はいい加減飽きたな、これ。遠征の時は大体馬鈴薯か干し肉か黒パンだし」


 黒パン?

 ああ、あれ?

 てかあれパンだったんだ?

 初見黒ずんだ何かが出てきて割とビビったからね?

 味の方はなんか渋いし苦いし固いしあんま美味しくなかった。

 一緒に出てきたお湯に干し肉を漬けたやつが無かったら完食できた自信がない。

 それに浸しながら食べてようやくって感じだった。


 そこからは2人で黙々と芋を齧り続け、私が2つ目の残り半分に塩をかけてる辺りでラウムが口を開いた、


「なんか思い出した?」


 ん?

 何が?


「昔のこと。生まれた場所とか、両親の顔とか」


 生まれた場所はここから西の方の森で、両親ていうか父親は知りませんが母親はなかなか立派な顔付きの白い龍でしたね。

 思い出すも何も覚えておりますが。


 あれ?

 あーそういえば私記憶喪失設定でした。

 思い出したって言うとめんどくさそうだな。

 首振っておこう。


「そっか、うん、思い出したらいつでも言ってね?」


 はーいわかりましたー。

 言わんけどな。

 頷いてから最後の一欠片を口に放り込み、ごちそうさまでした。

 特にすることもないしぼーっと静かに芋を食べてるラウムを見ていたら、ラウムが手を止めた。

 あ、物足りないかと思われたか?

 大丈夫ですよー。

 ちょっと肉が欲しいなーとかラウムって肉だよね?って思ったくらいですからー。


「私はさ」


 どうやらそういう事ではないらしい。

 やけに静かな声だ。

 ここ数日のことだけど、ラウムのイメージには合わない。

 なんかあったんかね。


「辛いことは思い出さなくてもいいと思うんだよね。忘れて今が幸せならそれでいい。無理に嫌なこと思い出したら塞ぎ込むと思うんだ」


 私のことかな?

 まあ確かにね。

 嫌な事ってのは思い出すと鬱になるってものだ。

 例えば100m走とか。

 なんであんな衆目に晒されて走らなあかんの?

 そういうプレイか?

 望んでないです。


「私も親の顔なんて覚えてないし、思い出さなくても楽しくやれてるし」


 ふむ。

 なんだろうな。

 まあとりあえず話を聞こう。


「多分町に戻ったら色々と覚えてないのかとか言われると思うけどさ。無理に思い出さそうとしなくていいからね?」


 その目は私に向いていて、けど別の何を見ているような気がするのは気の所為だろうか。

 そういえばここに来て初日のこと、ラウムは奴隷商人に攫われたと言ってなかったか?


 だとしたら、私の事を同じ境遇だと思ってるラウムは、私を自分に重ねているのかもしれない。

 同じく初日にグラムロックが言ってたように。


 だとするなら、思い出したら塞ぎ込むって言うのは、私の事でありラウムのことでもあるかもしれない。


 なんで私の事なのにそんな顔してんのかなー。

 いやほんとに。


 私こういう空気苦手なんだよなー。

 だって何すればいいの?

 私は何とも思ってないのにさー。

 ってかこれラウムの勘違いだし。

 直さない私も私だけどさー。

 あれ?

 じゃあ私も原因か?


 うー…。

 あー!

 イライラする!

 この空気止め!

 苦手だ!


 対面に座るラウムの頭に手を乗せようとして、体格差のせいで座ったままじゃ届かないことに気づいて腰を上げる。


「大丈夫」


 撫でるなんてしない。

 いくらなんでもコミュ障にはハードル高すぎる。

 乗せるので精一杯だっての。

 それもすぐに引っ込めてやる。


「あはは……」


 なんで照れ臭そうに笑うんかなー。

 だからこういう空気苦手なんだって。

 よし、逃げよう。


「寝る」


 こういう時って不貞寝に限るよね!

 じゃおやすみ!

 あーあー!

 ありがとって聞こえた気がするけど聞こえなーい!

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