13.岩から木が生えるってすごい不思議

 到着!

 森を出てから1日と少し、ようやくそれらしき山に到着した。

 まだ岩龍は見つけてないけど、辺りに山とかないし多分ここ。

 標高はそんなに高くない、岩肌が目立つ山だ。

 これ岩山だね。


 で、標高は高くないとは言え山のなかから1頭(?)の龍を探し出すと。

 無理じゃね?

 というのは普通の感想。


 さて、覚えているだろうか?

 チンピラ風龍が森に来た時、私はまだ見えていないのにも関わらずなにか来た事を察知した。

 それは何故か?


 答えは魔力を感知したから、である


 この世界に当たり前のようにある魔力は、空気中にはないというのは前に話したと思う。

 魔力というのは大概生き物が生まれ持ったもの、またはなにか物に宿ったものなど、まあ何かしらの入れ物が必要。

 というのをお母さんから教わった。


 で、だ。

 そういった魔力を持ったものというのは、実はごく微量ずつではあるけど常に魔力を放出し続けている。

 まあその量はほとんど誤差レベルで大した影響はないらしいんだけど、それでも出てるもんは出てる。


 そういう訳なので、それを探知しようと思います!

 いかに微量とは言え魔力がない空気中に常に魔力を出し続けるものがあったら、そりゃあ気づく。

 私以外も気づくかは知らん。

 会ったことないし。

 ただお母さんは普通にできてたから多分誰でもできるんじゃないかな。


 例えるなら水槽の中に1滴ずつインクを垂らすようなもん。

 垂れた瞬間は鮮やかに見えるけど、すぐに混ざって見えなくなるみたいな。

 そして魔力というのは出している存在によって少しづつ違う。

 インクの色が違うみたいな事だね。


 つまり、頑張れば辺り一帯の中から狙った存在を探し出すことも可能なのだよ!

 まあやろうと思えば魔力の放出は殆ど感じ取れないレベルまで落とせるらしいけどね。

 けど、普段からそんな警戒してるような生き物なんてそうそういないでしょ。

 龍なんて強者なら尚更。

 ちなみにお母さんが曰くそっちは簡単な事じゃないらしく、実際私もできない。


 いいし。

 いつか絶対できるようになってやるし。

 悔しくなんかないんだからね!


 よし、じゃあ魔力探知開始!


 一帯の魔力に意識を向けてみると、まあ出るわ出るわ色々な魔力反応。

 ほとんど感じ取れない様な大量の魔力は虫かな?

 それよりも少し大きいのは鳥、更に大きいのは獣ってところかな。


 ここまで細かい魔力に意識を向けた事は初めてだから少し感動。

 見えてなくても生命の営みは育まれているんだねぇ、うんうん。

 虫なんか食わんしどうでもいいけど。


 で、見つけました一番大きい魔力。

 色?オーラ?なんて言えばいいかわからんけど、多分あれが岩龍。

 動く気配はないけど、向こうももう気づいてるんじゃないかな。


 気づいてるのに動かないって事はそこで迎えるってことでしょ。

 それならこっちから出向いてやろう。

 幸い距離はそんなにない。

 そもそも私の探知範囲が狭いから、あんまり遠くまで探れないけどな!






 翼を広げて数分。

 岩龍があると思わしき洞穴の前に着陸した。

 さて、どうやって燻り出してやろうか。

 火責め?

 大義は我らにあり!

 ないね、大義。


 や、火責めもいいけど、前見っけたブレスの効果知りたい。

 チンピラ戦だと相性的に活躍の機会がなかったブレスさんの本当の力を見てみたい。

 見た目的に毒霧とかそんな感じぽかったし、こういう時に最適じゃない?

 穴の中に充満させたら出るしかないでしょ。


 という訳でぶわぁーってやろうとしたら、その前に岩龍が出てきた。

 拍子抜けだよ!


 てかすごいな岩龍。

 まず第一印象。

 岩。

 それは岩。

 素晴らしいまでに岩。

 本当に龍なのか疑うくらい岩。


 よく見ると手足はあるし、口も目もあるから生き物だってのは分かるんだけどね。

 けど翼はない。

 飛べないのかな?


『よく来たね、若きお客人』


 洞穴の前に立つ私に、岩龍が念話で話しかけてきた。

 なにこの声すごい渋い。

 深みのある落ち着いたいい声だ。


『君は光龍殿の娘かな? その翼は彼女のものと非常によく似ているけれど』


 あれ、もしかしてお母さんの知り合いかな?

 とりあえず頷いて返す。

 で、どうしよう。

 殺す気満々で来たんだけど。

 お母さんの知り合いを殺すのもなぁ。


『そうかい。石たちが彼女は遂に土の中に眠ったと言っていたけど、本当かな?』


 また頷く。

 石たち?

 見た目岩だし、もしかしたら本当に分かるのかもしれないね。

 天空の城が上を通ったら大騒ぎしそうだ。


『そうか……彼女はとても不思議な龍でね。何千年と生きた割には、どこか子供らしさが残っていた』


 あ、やっぱりそう思う?

 わかるわかる。

 お母さん結構あれだよね、天然。

 無慈悲にいうと抜けてる。


『君は反対に、年の割には落ち着いて見える。私には風の龍の末席に身を連ねる友人がいてね。彼も100になろうというのに落ち着きのない子なんだよ』


 ん?

 んー……落ち着きのない風の龍?

 それ、チンピラ風龍では?

 ……殺っちゃった☆


『知ってる。その龍から聞いた』


 不利な事は話さない。

 捌いたし龍玉貰ったし、なんならもぐもぐした事も話さない。

 や、別に知られてもいいんだけど。

 どっちみち殺すし。

 ただ、友情パワーでスーパーヤサイ人とかなられても困る。

 風龍の事かーーー!!


 そういうのは週刊誌で主人公がやるからいいのであって、敵キャラがやっていいことじゃない。

 そもそも戦闘力53万のあのお方が「よくもクリームさんを!」とか言うのは見たくない。

 面白そうだけど。


『君からは微かに火と風の匂いがするね』


 ギクギクッ!

 バレてる!

 や、気のせいじゃない?

 気のせい気のせい。

 ほら、それは生まれ持った私の属性的な。

 スピリチュアルな何かだよ、きっと。


『君は、火を纏う龍でも風を操る龍でもないだろう? なのに何故匂いがするのだろうね。心当たりはないかい?』


 ……ええーい!

 バレちまったァなら仕方がねぇ。

 野郎ども!やっちまいな!

 私しかいないけど!


『ああ、勘違いはしないで欲しい。君と争うつもりはない。どちらにせよもう尽きる命だ。それに、野生に生きていればいつか誰かに殺される。君を恨む気持ちはないよ』


 あ、そう?ならいいけど。

 焦ったー。

 心の中の頭領が出てくるくらい焦ったー。


『私でよければ、君のお母さんの事を話してあげよう。彼女は自分の事は語らなかったけれど、私が知っている事はある』


 ホント?

 ぜひとも聞きたいです。

 お母さんなんも話してくれなかったから本当になんも知らないんだよねー。

 話してくれる前に死んじゃったしね。


 居住まいを正した私を見て、岩龍は話を聞く気だと判断したらしい。

 今は聞いてやる。

 後で殺すけどな。


『と言っても、私も知っていることは少ない。彼女は西の森へ来て君を育てる前に、帝国軍の秘密兵器として所属していたらしいという事くらいだね』


 お母さんが予想よりやばいことしてた件について。

 お母さん、結構吹っ飛んだ強さしてたよ?

 それ軍に入れるって相当ヤバくない?

 ていうかその相手国よくもってたね?


 その事について1つ質問がある。

 どうしても聞かなければいけない大事な質問だ。


『帝国?』


 そう、私、帝国とは何のことやらさっぱりです!

 や、なんとなくはわかるよ?

 あれでしょ?

 なんか皇帝とかいうお偉いさんがトップの国でしょ?

 前世にもあったし存在は知ってる。

 けど、この世界の帝国は知らない。


『おや、彼女はその事も教えなかったのかい。不器用な雌だね』


 ホント、野生で生きる方法しか教えてくれなかったのである。

 森から出るなとも言われてたしね。


『正しい名前はガルドリア帝国。大陸西部で代々ガルドリア家が皇帝となる、新興だけど強力な国力を持つ国だ』


 ん?

 大陸西部?

 よし、ここで一旦地理を確認しよう。

 今私がいるのが、森の東側。

 つまり森は西にある。

 で、その先にはイケおじがいた町。


 ふむ、なるほど。

 もしかしてあそこ、そのガルドリア帝国ってやつだった?

 首都って言うのか帝都って言うのか知らんけど、流石にあそこが中心ではないにせよ、多分その領内だよね?


 ワオ。

 私大暴れ。

 人何人か殺っちゃってる。


 元お母さんのいた国でな!

 まあ襲ってきたんだからしゃあない。

 元々襲う気だったのはおいといて、先に手を出したのはあっち。

 それなら反撃するのは普通な事。

 正当防衛ワタシワルクナイ。

 よしオーケー。


『ここは?』

『ここはローレンツ親龍王国。聖龍が守護する、龍と共に歩む国。帝国よりもずいぶん古くからある国だね』


 龍と共に歩む、ね。

 はあー。

 チンピラ風龍みたいなやつだと大変では?

 この岩龍みたいな龍だったらいいんだろうけどさ。

 龍と一緒にって、相当危ないと思うんだけど。

 前世はともかく、今世が龍の私が言えたことじゃないね!


『その特性上他の国よりは龍の数が多い。君が龍玉を求めるのなら、この国で探した方が早いだろう』


 なるほど、龍探しは親龍王国で。


  ていうかそんな簡単に同族売っていいの?

 人間だったら躊躇いそうなものだけど。

 そんな事を何とか最低限の言葉で伝えたら、こう返ってきた。


『弱きは死ぬ。自然の定めだよ』


 こわー。

 穏やかに話してはいるけど、やっぱり龍だわ。

 根っこの死生観がシビア。


『ふむ、そろそろだね』


 唐突に岩龍がそう言った。

 は?

 何が?

 ん?

 まさか!

 今まででの会話は全て時間稼ぎか!

 全ては強力な一撃で私を殺すための!

 こいつめ!

 呑気に話してないでさっさと殺すべきだったか!


 とか馬鹿のことを考えてたら、その間に岩龍はズシンを音を立てながら腹を地面に付けた。

 なに?


『さあ、私はもうじき死ぬ。君が龍玉を求めるのなら、私の骸から抜き出すといい』


 え?

 死ぬ?

 なんで?


『寿命だよ。私はもう700回も花が咲いては枯れゆくのを見た。200回も多く生きたのだ。それももう尽きるようだね』


 寿命?

 龍の寿命って無限じゃないの?


『ああ簡単な事だよ。私も魔力を取り込んだんだ。君のようにね』


 ばれてーらー。

 なんなのこの岩龍怖い。

 なんでもお見通しじゃん。

 私のスリーサイズとかも知ってるんじゃない?

 やめろ知ってても言うな。

 今世の人化した私はスッキュッストーンだ。

 詳細を言ったら殺す。


 でも、そっか。

 この岩龍も何か事情があったんだ。

 自分の寿命を縮めなければいけないほどの。


『死にゆく者から最後の忠告だ。君が何のために力を求めるのかはわからないけれど、復讐に身を落とすのだけはやめなさい。復讐を果たすまではいい。何よりも強く生きる原動力となる。けど、復讐を果たしたあとにはどうしようもない虚ろな穴だけが残る。生きる意味を無くし、力を無くし、限られた命を無駄に浪費する事になる。私も復讐を誓い、果たし、そして意味を失い、残された限りある命の終わりを待つだけとなった』


 瞳に力を込めて話す岩龍の体を、木の根が覆い始めだ。

 え、嘘、なにこれ、え?


『驚かせてしまったかな。私たち岩の龍は命が尽きるとき、その体には木が根を張る。新たな命の苗床となるためにね』


 そう説明する間にも岩龍の体にはどんどん木の根が張っていく。

 完全に根が伸びるまでもうそんなに余裕はない。


『老いぼれの最後の会話に付き合ってくれてありがとう。願わくば、若き龍が血の匂いのしない道を歩まん事を……』


 最後にそう言って、岩龍が瞳を閉じた。

 あとに残ったのはもうほとんど岩と区別のつかなくなった岩龍と、そこに根を張る大木だけ。



 見事復讐を果たした岩龍は、最後に同じく復讐を誓う龍に忠告を残して、自然の営みの中に還っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る