11.くっ、右腕が疼きやがる……!

 酷い目にあった。

 まあ私がバカだったってのもあるんだけどさー。

 うん、普通ならあんなの食べよう思わないよね。


 けどちょっと言い訳させてほしい。

 私って龍な訳じゃん?

 んで、私って分類上多分肉食動物だと思うんだよ。

 や、別に果物食べられないとかじゃないんだけど。

 むしろ好きだけど。

 そう考えると雑食かな?

 まあどっちでも変わらないか。


 でだ。

 肉食って事はほら、ライオンとか腐肉も食べるって言うじゃん?

 腐肉食性とかもいる訳じゃん?

 食べられると思うじゃん?

 無理じゃん?

 解せぬ。


 なんだ?

 龍強いんだから腹減ったらその辺の獲物狩って新鮮なの食えってか?

 ちょっと納得した。

 確かにただ肉食うだけならそんなに苦労しないわ。


 ていうかそれはいいんだけどさ、臭いも味も変な感じはしなかったのに腐ってるとか反則でしょ。

 どう考えても殺しにかかってますわ。

 あんなのわからんよ。


 さて、余計な事してたせいで、今は陽が傾いてそれなりの時間だ。

 さっさと出発しないとすぐ日が暮れそう。

 幸いというかなんというか、朝からがっつり食べたからそんなにお腹は減ってない。

 今日はもう食べなくても大丈夫そうかな。


 よし、じゃあ行きますか。

 北西だよね。

 今の時間だと多分ちょうど森を抜けたあたりで日が暮れると思う。

 んー開けた場所で寝るのもあれだし、森の中で寝る場所見つけておこうかな。

 明日の朝に食べる物も確保したいしね。


 という訳で移動開始。

 魔法を使うのも忘れずに。


 空間魔法、これ使い続けるとそのうち勝手に転移とかわかるようになるのかな?

 なんかそんな気がしないんだけど。

 大体さ、卵を混ぜる練習をしたところで玉子焼きの作り方がわかるか?って話。

 私がやってるのは多分そういうことだと思う。


 となると誰かに教えてもらわなきゃいけないわけだけど……やだなー。

 だって教えてもらうとしたらあの謎男でしょ?

 あいつ何考えてるかわからなくて胡散臭いし話したくないよねー。

 そもそもまず人と話すのが嫌なんだけど。

 救いようがないな、私。


 まあ謎男が練習しとけって言うってことは、何か考えがあるんでしょう。

 碌なことじゃない気がするけど。

 自分の事は何も明かさないやつは信用するなってのはばっちゃの遺言。

 ばっちゃ生きてたけど。

 あーでも私今世では3年経ってるし、ばっちゃぽっくりいってるかもなー。

 南ー無ー。

 両親同様そこまで思い入れはない。

 話が逸れた。


 ま、魔法の練習には便利だし別にいいけどね。

 碌なことじゃなかったら聞かなきゃいいだけ。

 流石に謎男が本気出して強制してきたら逃げられる気がしないけど。

 けどその時はその時でしょ。

 なんくるないさ〜。


 あ、岩龍との戦い方考えとこ。

 と言っても、究極的に言えば攻撃を避けて攻撃を食らわせる事なんだけどね。


 なんだけど、ここで問題。

 もし相手が私よりもめちゃくちゃ速かったら?

 もし相手が攻撃が通じないくらい硬かったら?

 対策は考えておいた方がいいよね。


 ま、その辺も飛びながら考えておきますか。

 2日もあれば何かしら思いつくでしょ。


 対策ねー。

 正直今すぐだとそんなに思いつかないんだよねー。

 特に速かった場合には。

 硬いだけなら別に色々試せばいいんだけど、速かったらそんなことしてる間に死ぬ。

 となると足止め手段考えておいた方がいいかな?

 何かあったかしら。


 とか考えながら飛んでたら、ふと悪寒がしてまたすぐ消えた。

 なんだ…?

 と思った次の瞬間、凄まじい激痛が右前脚を襲った。


 グッ!

 なに!?なんで右前脚!?

 ないはずでしょ!?

 なんでない部分が痛むのさ!?


 私は今、空を飛んでいる。

 その状況で、意識が飛びそうな程の激痛。

 絶え間なく押し寄せてくる痛みが引く気配はない。

 まずい。

 今意識が飛んだら墜落する。

 いくら龍とは言え落下死は免れない。

 落下ダメージを舐めてはいけないのだ。


 落ちる前に地面に降りないと……!

 普段なら勢いを殺してゆっくり降りるのだが、今はそんな余裕はない。

 ぎりぎり墜落とは言えないような勢いのまま生い茂る枝にぶつかり、へし折りながら無理矢理地面に降りた。

 それでも勢いは止まらず、地面に降りた後も何度か転がって停止した。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 ああクソっ!

 回復魔法連発!

 は!?

 なんで!?治らない!

 ああああああああぁぁぁ!



 

 痛み始めて、どのくらい経ったんだろう。体感だと1時間くらいは痛みっぱなしだったけど、そんなに経ってないんだろうね。

 とにかくしばらく痛みに耐えながら転がり回って、ようやく痛みが収まった。


 はー……死ぬかと思った。

 なにあれ?

 私右の前脚ないんだけど?

 なのになんで痛むの?


 あ。

 あーもしかしてあれか?

 幻肢痛ってやつ?

 手足を失くした人が、失くした手足に痛みを感じるっていう。

 うん、それっぽい。


 ないからこその痛み、だね。

 はーマジかー。

 ないわー。

 幻肢痛の治し方は?

 そもそも治るの?


 あー最悪。

 魔力取り込んだ時の痛みより上なんかないと思ってたけど、これはまた別種の痛みだわ。

 しかも多分これから何回も来るんでしょ?

 憂鬱だわ。


 前脚を生やせば治るんだろうけど、そもそも生えさせることはできるのか?って話。

 少なくとも私の回復魔法じゃ治らなかった。


 思わぬ敵が身内にいた。

 というか自分だった。

 地面にいるあいだはいいけどさー。

 飛んでる時とか戦ってる時とかは止めてよ?

 聞いてる?私。


 はあ。

 まだ痛い気がする。

 あー気分最悪。

 痛い目にあった後ってめちゃくちゃ気分悪くならない?

 今まさにそれ。


 ていうかなんて私がこんな痛い目に遭わなきゃいけないのさ。

 そんな理由なくない?

 親を殺されて、右の前脚切り落とされて、さらに腹に穴開けられるわ首締められるわ。

 この数日これだけ酷い目に遭ったのに、まだあるのか。


 そもそも私なんで復讐なんかしようとしてるの?

 元々そんなに他人に興味なんてなかったでしょ。

 それがちょっと優しくしてもらったからってなんで変な決心してるんだか。



 あーやめやめ。

 私がそれを言うのはダメだ。


 私は、照れくさいけど言うなればお母さんを愛してたんだと思う。

 もちろん家族愛的な意味で。

 そのお母さんを殺されたんだから、復讐を考えるのは当たり前。

 けど、普通ならそこで力不足とか法律とかが絡んできて諦めるんだと思う。

 私は違った。

 復讐できるだけの力があった。

 法律という柵もなかった。

 だから殺す。

 絶対に。

 誰が邪魔をしようとも、確実に。

 最大限苦しませて、殺す。


 よし、オーケー。

 目標の再確認は大事だよね。

 私の目標はお母さんを殺した奴ら全員を殺すこと。

 お母さんの為じゃない。

 私の為に。


 そう、私が復讐するのは誰かの為じゃないからね。

 私の気が済まないからやるのだ。

 それを忘れてはいけない。


 よし、じゃあもう寝ようかな。

 こんな変な事考えるのはきっと気分が落ち込んでるせい。

 そうに違いない。

 寝れば治るでしょ。


 ほとんど事故みたいな感じで地面に降りたけど、まあ時間はちょうどいい。

 日は暮れそうだし、まだ森の中だし。


 じゃ、さっさと寝ますか。

 おやすみなさい。

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