10.腐っても鯛

 前回のあらすじ。

 てめどこ中だおぉん?

 てめぇこそどこ中だぁん?

 何ワイらのシマ荒らしてくれとんねん。

 どこがてめぇらのシマやねんよくみいここはワシらのシマや。

 いてこますぞゴラァ!

 やってみろやボケェ!

 以上あらすじ終わり。


 実際ノリがこんな感じだったのがまた困る。

 完全にヤーさんの抗争だよ。

 おかしいなー。

 清く正しく生きてきたつもりだったんだけどなー。

 なんで危ない職業みたいな事やってるのかなー。


 まあそんなこと言っててもしゃあない。

 切り替えていこう。


 さて、私の目の前には今回喧嘩を売ってきたチンピラ風龍の死体。

 死因は頭をぶち抜かれた事なので、体の方はところどころかすり傷はあるけど結構綺麗なままです。


 で、疑問。

 美味しいのかな?

 違うそうじゃない。

 確かに気にはなるけど。


 龍玉ってどこにあるのかな?

 イメージ的には胸にありそうなものだけど。

 流石に頭の中とかはないよね?

 そうだったら砕けてる可能性大。

 わざわざ戦った意味がなくなる。


 ま、とりあえず捌けば分かるでしょ。

 幸い鱗はそんなに硬くないし、あとは大体羽毛に覆われている。

 さほど時間はかからないだろうしね。



 捌き始めて数十分。

 血に濡れてはいるが緑に光る水晶のようなものを発見した。

 これか。

 場所は人間で例えるなら脇腹あたり。

 肝臓だっけ?多分その辺だと思う。


 臭いを嗅ぐと、血の匂いに隠れてほのかに風の匂いがした。

 龍玉って持ち主の匂いでもするのかな?

 火龍の時は火の匂いだったよね。


 よし、じゃあ早速食べよう。

 火龍の時と同じように投げて丸呑みする。


 おお?

 ちょっと強くなった気がする。

 火龍よりはいいけど、まだそこまでって感じ。


 うん、まあ私がそこまで苦労せず倒せる相手だもんね。

 そりゃそんなに強くないわな。


 それでも、確実に少しずつは強くなっているのは実感できる。

 こうやって細かく重ねてくのもありだよね。

 そうそう。

 何事も日々の積み重ねが大事。


 で、残ったチンピラ龍の死体だけど……龍とか捌くの初めてで結構グチャってなっちゃった。

 てへっ。


 まあちょっとくらい形崩れても食べられるでしょ。

 ミンチみたいなもん。

 運動してお腹空いたし丁度いいかな。


 え?

 食べるのかって?

 そりゃもちろん。


 ここは倫理に守られた安全な世界じゃない。

 倒した獲物は食べる。

 自然はそうして回っているのだ。


 それじゃ、いただきまーす。


 うむ。

 不味い。

 私が不味いって言うんだから相当不味い。

 肉食の動物の肉は臭みがあるって言うけど、それは正しかったらしい。

 熊しかり龍しかり。

 かといって残すのはなー。

 なんか失礼な気がする。

 殺して食べといて不味いからいらないって何それって思わない?


 食事続行。

 そういえば龍になってから明らかに私の体以上の量の物食べ切れるようになったんだよね。

 消化早いのかな。

 食べてすぐ運動しても大丈夫だったし。


 あら?

 そんなこと考えながら食べてたらもう無くなってた。

 ごちそうさまでした。


 不味い物は全力で気をそらしながら食べるに限るね。


 さて、食べ終わったことだし次の龍に会いに行きますか。

 北東に2日だっけ。

 岩龍っていうらしいしなんか防御特化な気がするね。

 ずっしりどっしり構えて武器は質量。

 どのくらい硬いのかわからないけど、そんなに負ける気はしないかな。

 あ、でもそうとは限らないか。


 鈍重な貴様では私の速さには着いてこれまい!

 フッ、一体いつから防御特化だと錯覚していた?

 なに…グワー!


 この場合死ぬのは私。

 それは勘弁願いたいし、先入観は持たないようにしないとね。


 っと、行く前にちょっと喉乾いた。

 ついでに口周りの血も落とそう。


 で、やってきました昨日の川辺。

 ちょっと視線をずらせば熊の骨と血が見えます。

 骨を見てて思ったんだけど、骨髄って美味しいらしいよね。

 確か神話かなんかにそんな話があった気がする。

 北欧神話だっけ?

 よく覚えてないけど。

 なんか骨を割って、すするとか。


 やるか?

 1日放置してたとはいえ、火を通せば大丈夫な気がするし。

 何より骨髄とか初めてだから正直わくわくする。

 どんな味がするんでしょう。私、気になります!


 という訳で早速調理開始。


 今回用意したのはこちら!

 じゃじゃーん、1晩熟成させた熊の骨です!

 放置してたとも言います!

 今回は流石に生じゃまずそうということで、火を通していきたいと思います!

 という訳で煮込みたいんですけど、鍋がないので直火で炙りましょう!


 火魔法で軽く火を出し、一番太い熊骨を火に当てる。

 この時点で割れそう。

 なんかあったよね、牛の骨を熱してやる占い。


 うん、そろそろいいかな。

 骨の表面が焦げてきたあたりで火から上げ、翼腕を使って真ん中から折る。

 なんかドロっとした液体が飛び散った。


 ふむ、これが骨髄かな?

 色はなんとなく黄色っぽい。

 臭いは…変な臭いは今の所しない。

 食べられそう。


 じゃあいっただっきまーす。


 じゅる。

 珍味ィィィィイイイ!!

 予想以上に最高だ!


 嘘。

 そこまでではない。

 でも結構美味しい。

 やばい、病みつきになりそう。

 特別美味いわけじゃないけど、癖になる味。

 今度からは骨髄も食べよう。

 よーし、じゃあ残りも全部食べちゃおう!


 そう思って全部の骨を焼いたんだけど、中には骨髄がない骨もあった。


 どういうこと?

 骨髄って無い骨とある骨があるの?

 へー1つ勉強になったね。

 なんに使うのか知らんけど。


 骨髄が無いのは体の末端の方の骨、あるのは体の中心にある骨。

 大体そんな感じだったかな。

 そればっかりじゃないけどね。


 ま、今度からは全部じゃなくてそういうことを考えながら焼いていこう。

 やっぱり美味しいもの食べるのって大事だよねー。


 腹が満たされなければ心も満たされないのだよ。

 とか言ってみる。

 実際そうだよね。

 空腹で幸せーとか聞いたことないし。

 美味しいもので満腹になるならそれに越したことはないのだ。

 うんうん。


 あ、水飲んでないや。

 食べるのに夢中になってて完全に忘れてたわ。


 思い出したので川に口をつけ水を飲む。

 ついでに水につけたまま顔を振って血を落とす。

 そこでふと違和感。


 なんだ?

 何が起きた?

 寒気を感じた。


 これから本当にやばいことが起きそうな予感。

 そしてこの手の予感は、龍になってからはよく当たるようになった。


 まずい。

 非常にまずい。

 良くないことが起こる。

 どんな事だろう?

 それはわからない。


 けど、確実に何かが起こる。

 普通ならありえない、何か。

 どんなことが起きるかわからないし、そもそも対抗できるかもわからないけど、何が起きても大丈夫なように備えておこう。






 そんな大層な事じゃなかった。

 普通に腹壊した。


 まあな。

 そりゃそうだわ。

 冷静に考えれば1日野ざらしにされてたもの食っちゃダメだわ。


 本日の教訓。

 腐っても鯛だけど食ったらやばいよ。

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