9.てめーはわたしを怒らせた
怒り狂ったチンピラ緑龍が身に纏った風に指向性を持たせ、私に向けて発射した。
が、その風の刃を私は華麗に回避する。
ふはは!
この距離で魔法が当たると思うな!
まあ撃ち返した私の魔法も普通に避けられたけどな!
当たれば致命傷になる自信はあるけど、それも当たらなければどうということはない。
偏差射撃?
前後左右上下おまけに斜めまで文字通り360度避けられる相手にどうしろと?
チンピラ龍も同じように判断したらしい。
魔法による牽制は行いつつ、正面から突っ込んできた。
ちっ、牽制のせいで撃退できない!
てかこいつ中々速いな!?
絶対私より速いでしょ!?
逃げようとはするが、魔法で予め避ける先を潰され、さらに速度で勝る相手の攻撃。
逃げられない。
チンピラ龍が口を広げた。
小さいが鋭そうな牙が見えた。
それが閉じられた。
私の首の鱗にヒビが入る。
とはならないんだなこれが!
チンピラ龍が口を広げた瞬間、飛ぶための魔法と羽ばたきをカット、揚力を極限まで無くす。
揚力を失った私の体は、当然下に落ちる。
なんの予備動作もいらない回避法よ!
で、私がいた場所に闇魔法による黒霧をセット!
それもモロに黒霧の中に飛び込んだチンピラ龍の風に散らされるが、その一瞬があれば十分。
霧が晴れチンピラ龍の姿が見えた所で急上昇、逆に首に噛み付いてやった。
おら!
どうだ効くか!?
チンピラ龍は見た目通りそこまで防御力があるわけではないらしい。
噛み付いた牙が肉まで到達する。
が、暴れるチンピラ龍の尻尾に打ち据えられ、思わず口を離してしまった。
いった…。
尻尾とかズルすぎでしょ。
いや私もあるんだけどさあ。
だが、あれは少なくないダメージになったはずだ。
私の方はといえば打ち身だけ。
くくく、これは結構有利になったんじゃないの?
と思ったのがいけなかった。
チンピラ龍はまた風の魔法を放ったが、こんどは刃にはせず、暴風のまま私にぶつけてきた。
避けられるかこんなん!
大したダメージはないけど、飛んでる時の暴風がどれだけ怖いかわかるか!
わかるな!
お前も龍だったわ!
吹き飛ばされ、なんとか態勢を立て直したところに風魔法の追い討ち。
やばっ!?
避けようとはするが避けきれず、全身を風の刃に撫で切られる。
痛たたた…そんなに深くないだけまだマシかな。
そう思わないとやっていけない。
さらに魔法の準備をしているチンピラ龍に闇魔法を連射し、避けに徹させてその構築を散らす。
よし、魔法の構築速度は私の方が上みたいだ。
そのまま魔法で追いかけ続けるも、文字通り縦横無尽に動きまわるチンピラ龍には掠らせるだけで精いっぱいだった。
そのチンピラ龍が口を薄く開く。
距離はまだある。
いくらチンピラ龍が速いからって噛みつける距離じゃない。
なんだ?
と思った瞬間、暴風なんて生易しいものじゃない風が襲いかかってきた。
その勢いたるや、全身を打ち据えられて激痛を感じる程。
なんだあれ!
ブレスか!
そういえば私もできたっけ!
という訳でブレスよーい。
イメージは口の中に息を溜める感覚。
ただし息の代わりに溜めるのは魔力。
純粋なエネルギー。
そしてそれを一気に放つ!
口から出たのは闇だった。
真っ黒で、なんか吸い込んだらヤバそうな雰囲気満載。
絶対毒でしょこれ。
初めて撃つブレスの禍々しさに驚きを隠せない。
が、それすらも風魔法によって散らされた。
相性の問題かぁ…。
まあ見るからに空気より軽そうだししゃあない。
なおも風魔法を撃つチンピラ龍に闇魔法で応射し、距離を詰める。
正直な所、私に空中戦は厳しい。
チンピラ龍が私より速いせいってのがあるし、あと空中での戦闘は慣れてない私には不利だ。
早めに引きずり下ろしたい所。
という訳で上昇し、チンピラ龍の上を取る。
こうすれば姿勢の関係上チンピラ龍は上を攻撃する事はできないし、私は上から圧をかければ低空を飛ばせる事ができる。
チンピラ龍が私を振り払うためか速度を上げるが、頑張れば私でも食らいつくことぐらいはできる。
首を上げて上昇する素振りを見せればそれを阻止するために闇魔法が飛んでくる。
チンピラ龍は苛立っているようだ。
翼の動きがずいぶん荒っぽい。
あーあ、余計な力入れたら普通細かい動きができなくなるってもんでしょうに。
私は上から闇魔法で攻撃する。
私より下で木々の梢ギリギリを飛んでいるチンピラ龍には上下に逃げる選択肢はない。
加えて後ろに逃げれば失速し、墜落する。
つまり、逃げる道は前方180度しかないわけだ。
その範囲なら、首の向きから先読みして魔法を撃つことくらいできる。
私の魔法が徐々に、だけど確実にチンピラ龍を追い詰める。
ついにチンピラ龍が地上に降りる事を選んだ。
よっし、これで不利な状況からイーブンまで持ってきた。
いや、脚が多い分私が有利か?
逃がさないよう速度を上げた私に、チンピラ龍が振り向きざまにブレスを放った。
慌てて私もブレスを吐き、相殺とまではいかないが威力を殺すことには成功した。
あっぶな。
まともに食らって態勢崩してたら私が墜落する所だった。
まだ油断しちゃダメだね。
悔しげに飛び立とうとするチンピラ龍だけど、私が逃がすはずもない。
着地する勢いのまま翼腕で首根っこを抑え込み、地面に押さえ付ける。
さっきみたいにしっぽが振られるが、それももう片方の翼腕で掴んで封じる。
体自体は私が乗って抑え込んでるし、これで逃げられない。
勝負あった。
どれだけもがこうがもうチンピラ龍は逃げられない。
『てめぇなんなんだよ! ガキのくせに!』
観念したのか、もがきながらチンピラ龍が声を上げた。
あんたも魔力取り込んでみたら?
死ぬほど痛いし寿命縮むけど。
まあ、おかけで大概の痛みが大したことないって思えるようになったのは利点かもね。
教えてやる義理はないけど。
どうせ殺すし。
あ、でもその前に他の龍の場所とか教えてくれないかな。
あっさり喋ってくれそうな気がするけど。
『他の龍はどこにいるの?』
『んなこと知るかよ! クソがっ! 離しやがれ!』
んー? そんなこと言える立場かなー?
私結構おこだし容赦しないよ?
首を掴んでいる翼腕に力を込める。
ミシミシと首の骨が軋む音が聞こえてきた。
やりすぎないようにしないとね。
『わ、わかった! 教える! 教えるから離してくれ!』
ん、素直でよろしい。
離さんけど。
身振りで話すように促す。
『北東に二日飛んだ所に山がある! そこに岩龍がいるくらいしか知らない! 頼むから離してくれよ!』
北東に二日ね。
よし、覚えた。
じゃあもういいかな。
『お、おい! 聞いて』
チンピラ龍がその続きを口にすることは無かった。
私の闇魔法が後頭部を貫き、顎の下からその先が飛び出る。
そしてチンピラ龍は息絶えた。
ふぅ。
勝てた。
速さは私よりあったけど、力も硬さも私の方が上だったみたい。
いや良かったわ。
実際負ける可能性もあったからね。
途中で上を取れなかったらどうなっていたかわからない。
チンピラ龍の一番の敗因は私に上を取らせた事だね。
空中戦において上にいる方が有利なのは私でも知っていること。
なんとしてもそれを防がなくちゃならなかったんだよ。
もしかして空中戦の経験は少ないのかな?
何にせよ勝てたのは良かった。
さあ、残るはわざわざ戦った意味の半分、龍玉の剥ぎ取りだ。
剥ぎ取り確率3%なんて言わないでよ?
物欲センサーさんマジでお願いします。
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