ホシホロボシ
ホシホロボシ1
スターイーターの全盛期から、二十億年が経った。
宇宙は以前よりも賑やかになっている。数多くの超新星爆発により、生命の源となる元素が二十億年前よりも豊富に漂っているからだ。また恒星の材料となる水素が減った事で、新たに誕生した恒星の殆どが小さなものとなった。恒星は軽いほど寿命が長くなり、安定した環境であれば生命は誕生しやすい。
以上の理由から、生命の数は爆発的に増えた。ほんの数十~数百光年も飛び回れば、異星生命に出会う事は難しくない時代なのだ。
また生命の総数が増えた事で知的生命体、その知的生命体が作る文明の数も激増。宇宙全体を見渡せば、至るところに文明の姿がある。無論それは宇宙という広大な世界から見ればという話で、個々の文明は何千光年も離れているが。長く続くものもあれば、極めて短いものもあり、文化も環境も多種多様だ。
しかしどのような星であっても、彼女達の存在を歓迎するものはいない。
【ピィラララララララララララッ!】
星系中に巨大な電磁波が響き渡る。
声の主は全長五百メートルを優に超える、圧倒的な巨躯を誇るもの。身体は約二百メートルもあり、オタマジャクシのように太く長い尾ビレが三百メートルもあった。体色は黒く、周りの宇宙空間によく溶け込んでいる。身体は上下左右対称の作りをし、腹と背の区別は付かない。身体も尾も極めて筋肉質であり、その発達具合は過酷な生存競争を生き抜いた野生動物さえも上回るもの。ヒトで言えばボディビルダーのような、ある種の芸術的美しさを持ち、尚且つ不自然な様相である。
身体からは四枚のヒレが生えていた。ヒレは上半身側に、二枚上下に重なった形で一対ある。ヒレの長さは六十六メートルほどと(全長と比べてだが)然程大きくはなく、地球生命で例えるとペンギンに似た形をしていた。
頭は大きく、身体の五分の一はあるだろう。直径一メートルもある巨大なレンズ状の目が頭をぐるりと一周するように何十と並び、全方位を見渡す。口はないが、目の傍には一本ずつ『棘』が生えている。
尾の付け根には二十もの管がある。管は長さ六センチ、幅二十センチ程度。ぽっかりと穴が空いていて、その穴は身体の中まで続いていた。
目の数など細かな違いはあれども、大凡の見た目は以前観察したスターイーターや、その祖先種であるヒレナガウチュウサカナに似ている。ならば習性も似たようなものかと思いたくなるだろう。
しかし彼女達は、祖先達とは明らかに異なる存在へと進化していた。
詳しく観察せずとも察せられるだろう。宇宙空間を飛ぶ彼女の周りに、無数の『残骸』が漂っているのだから。それらは粉々になった金属だったり、或いはバラバラになった有機物だったり。種類は一つではない。金属に関して言えば数万トンは下らない質量が浮かび、有機物もヒトに換算して数万人分程度はあるだろう。破片はいずれも焼き焦げ、徹底的に破壊されている。
一見して、戦場の跡地のようにも見える。されどこれは戦場ではない。全ての星にとっての悪夢であり、彼女達が悪魔として君臨した最初の一歩の残渣。
最初の『宇宙の悪魔』を、じっくりと見よう。
不安に思う必要はない。今から見せるのは、遥かな過去の、何処かの宇宙の出来事に過ぎないのだから。尤も、それは君の宇宙にこのような生き物がいないという事とイコールではないが……
脂肪酸膜核細胞ドメイン
血骨格獣門
星食魚綱
ホシホロボシ目
ホシホロボシ科
ホシホロボシ属
ホシホロボシ
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