第1章 暴走少女 50

 黒入は電柱に上っていた。

 何も無意味に上っているわけではない。感知能力が自身の、身体強化ブーストされた五感と、過去の経験則を頼る他ない黒入にとって、目視というのは非常に重要かつ信頼できるものだ。鷹のように、川底に揺蕩う小魚を見逃さないように神経を集中させ周囲を警戒する。


 その時、プルッと無線が震えた。


「うおっ、・・・なんだちゃんと使えるじゃん」


 思わず口にしてしまうほど、意外だった。どうしてだろうか、彼女はこういう時でも大声を上げて報告してきそうな雰囲気がある。彼女は基本的に単独で行動することが多いため、そういうのに慣れていないかと思っていた。失敬失敬。


「・・・もしもし、黒入さん聞こえますでしょうか?」

「ひうっ!」

「ふえっ!」


 びっくりした。めちゃくちゃ小声で、しかも耳元で美声が脳内に響く。思わず生娘みたいな声を上げてしまった。僕の声でカナリアさんもふえっ、とか普段言わない驚き方していたし。ちょっと可愛かった。


「あの~、普通に喋っても大丈夫ですよ・・・?」

「こほんっ!失礼いたしました」


 ワザと咳ばらいをし状況を整える。

 絶対に赤面しているに違いない。

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