第1章 暴走少女 36

 黒入は呪力、少女は魔力と呪力を全て吸い取られた。故に、術式の強制解除が行われる。少女の頭上付近にあったあの光球も、跡形もなく消え去った。


 黒入はまるで全速力を十回分ほどしたような息切れ感に襲われる。息を吸っても吸っても苦しく、全身に力が入らない。


 少女はと言うと、何事もなかったかのように落ち着いている。大理石の床に横になっており、顔は自分の血で汚れていた。


 術式解除―――。


 と、サヤカが呟くとキューブ型の結界はパリンッと割れ、空気中に霧散していった。


「おうおう!だらしねぇなぁ黒入さんよぉ。今、本命に襲われたらアンタ死んじまうなぁ?」


 わざとらしく黒入を詰めてくる顔は、どこか楽しそうだ。


 黒入はまだゼェハァと息を整えている最中だ。右手で手をひらひらさせ、相槌を取る。


 魔術師や呪術師にとって、その源である魔力と呪力は枯渇すれば命にかかわってくる。生命力そのものだ。回復には相応の時間がかかる。


 サヤカはコツコツと靴を鳴らし少女に近づく。

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